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第三十四話:逃走の国王

「来た……来たぞぉ!!」


 階下に降り、場内の通路へと躍り出た俺はそんな声と共に兵士達に待ち構えられていた。


「こいつが、反逆者アルス……!? なんだ、ガキじゃねーか」

「本当にコイツが、砦を滅ぼしたっていう……?!」

「ドラゴンの姿になれるっていう、スキル持ちなのかよ!?」

「けど見ろよ、あの黒いオーラみたいなの……! ありゃ何なんだ!?」


 大きな盾を一人ひとりで構え、もう片方の手で剣を握ってざわざわと声を上げる兵士達。

 その顔は目の前に現れた俺が本当に王国の襲撃者なのかと訝しむように、だが冷や汗をかいて俺と敵対していた。

 階段を降りた先の通路が左右に道が別れており、兵士達はその両方を塞ぐように展開している。

 だが、俺の目的はお前たちでは無い。


「おい」

「!?」

「奴はどこに行った?」


 俺は剣を向けて、緊張の面持ちになっている兵達に国王の所在を問いただした。

 もちろん馬鹿正直に答える訳は無いが、何も言わずに斬りかかるのも目覚めが悪い。


「バカか、お前!? 応えると思ってんのか!?」

「まぁ、そうだろうな」


 当然の反応を示す兵の一人に、俺は「こいつらは適当に蹴散らして下を目指そうか」と考えていた。


「へへ……おいお前ら、俺たちゃついてるぜ」

「?」


 だが、兵士達の別の一人は少し様子が変だ。

 そいつは突然薄ら笑いを浮かべて、周りの奴らに声をかけ始める。


「この狭い場所なら、化け物みたいにゃなれねぇ。数でかかれば、勝てるぜ!」

「おぉ! そうだ、そうに違いねぇ!」

「へへっ……いい加減、一兵士の立場にも飽き飽きしてた所だぜ」


 その一人の言葉に、色めき立ってニヤリと笑みを浮かべる兵士達。

 こいつらは俺が外で戦っていた時には、ドラゴンなどの姿に形を変えていたという事が強さの秘訣だと思っているらしかった。


「囲め、囲め!」

「観念しやがれよ、クソガキ……!」


 兵士達はさっきまでの緊張めいた表情を少し崩して、自分たちが数において圧倒的優位にある事に余裕を持ち始めているようだ。


「……」


 俺はあの国王さえ討ち果たす事が出来ればそれで良かったのだが、どうやらこの国の兵士達というのは上から下まで満遍まんべんなくこういう奴らで集まっているようだ。


 バチバチバチ……!


 俺は右手に魔力を集中させた。

 多数を攻撃するのに丁度いいような、雷の姿をイメージ。

 それと同時に両腕自体と両足も、獣のような者へと「獣化」させる。


「言わないのなら、する事は一つだ」

「余裕こいてんじゃねぇぜ、クソガキ……!」

「恨むなら、この国を支配している奴を恨むんだな」


 俺は腕に収束した魔力を一気に開放し、その力を解き放つと同時に蹂躙を開始したのだった。







 

「はぁっ、ふぅっ、はぁっ、ふぅっ……!」


 城の地下深く。

 隠し水路から城外へと脱出を図っていた国王は、息を切らせてガチャガチャ音を立てながらひた走る。


ドォォォォン……!!


「っ!?」

 

 しかし頭上から聞こえてくる衝撃と轟音に身をすくめて、一度立ち止まってしまった。


「……兵共め。足止め程度はしておるんだろうな……!」


 その国の国王たる白髪の男は、ただ一人で宝物庫から持ち出した物を抱えて逃げ出していた。

 

 王として他人を全く信じる事が全く無かった国王は、妻も子も持たない。

 それが王位継承権に重大な問題が発生することは火を見るよりも明らか事だったが、王にはそんな「自分が死んだ後」の事などどうでも良かった。


 性欲は街から高級娼婦を呼び立て、後宮でとぎを行わせる事によって十分発散出来る。


 元冒険者であった国王にとって、その方がむしろ「昔の自分では思いもよらなかった女」を相手する快楽に酔えた程だった。

 

 そしてそんな商売女が、国王である自分との子を作れば破滅に至ると考えるのは必然の事。


 それをよく理解している女達は、率先して子を成さないよう準備すら進めていたのだ。


 そういう「国王としての自覚と責任」が完全に抜け落ちていた男は、一人全てを放り出して逃げ出そうとしていたのだった。


「近衛の者達も全て外へと放り出し、この道を知る者はそうはおらぬ。一応、あの騎士団長はこの抜け道を職務上知らせてはおったが……」


ーーーーだが、あの目障りな女騎士団長アーシアは後から出した命令すら無視して平民達の避難をしているらしい。

 ならばアルスに対してこの抜け道を教える事など無いだろうと予想を立てていた。


「……アーシアめ。黙っておれば、妻として将来名誉も名声も手に入る立場に引き立ててやる事すら考えて騎士団長に任命したと言うのに……!」


ダッ……


 国王はそんな事を独白しつつも気を取り直し、城の外へと通じている抜け道を走り直し始める。


「……?」


 だが、その足がまたすぐに止まってしまった。

 上の方から聞こえて来ていた衝撃や、戦闘が行われているような気配が消え去ってしまっている事に気付いたからだ。


「……まさか……」


 もう全滅してしまったのか、との考えが浮かび始めた所に。


パラパラ……


 目の前の、石造りの天井が小石を落とす。


ドォォォォン!


 そして大きな音と共に崩落してしまった。


「!!!」


 王はその崩落によって起こった砂埃に顔を覆い隠して、手に持つ財宝を思わず落としてしまう。


「……見つけたぞ……」


 そして王に聞こえてきたのは、あの玉座でも聞いた事のある、一人の青年の声。

 自分を殺す為だけに王国に対して一人で反旗を翻した、あの追放された青年。


「……エルマの仇を、取らせて貰う……!」


 あの反逆者、アルスの怒りに満ちた異形の姿だった。





今月、今年だけ三十一日までになりませんかね。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔道砲やら更に高度なガトリング砲なんて有るのにマジックバッグ等が無いのに違和感が… 王様が両手で持てる程度の財宝ってのも宝物庫の規模が分からないから何とも言えないけど、貧相な気がします…
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