第三十二話 最強の兵器vs個人
「うぅ、う……」
「……痛え、痛えよぉ……」
俺はうめき声を上げる兵士達を完全に無視して、今すぐにでも砲火を放ってくるような動きの巨大兵器を眺めていた。
見たことも無い異様な佇まい。
その威力はどれほどの物なのかと言うのを測りかねていた。
「……」
だが俺は、自分の手のひらを見つめてギュッと握り込む。
自分の中に渦巻く力。
これは俺だけの力では無い。
吸収した、能力だけはご立派だったフリオのスキル。
こんな兵士達や国王が支配を行う国の中で、必死に使命を果たそうとしたアーシアが振るった聖剣のエネルギー。
そして何より、俺の中に確かな存在を感じるエルマの魂そのもの。
それら全てが、俺の中で憎しみの感情と入り混じって力を与えていた。
――――!!――――!!
「!!」
俺は距離が離れた魔導砲の下部に、聞き覚えのある声と姿を確認した。
ギリッ……
そうすると、体が自然と歯軋りをしてしまう。
今すぐに魔導砲を発射しろと喚き散らしているのは、全ての元凶。
それは俺をこの王国から追放した結果エルマの命を永遠に失わせた、あの国王だった。
「……見つ、けた……!」
俺は自分の中に渦巻く、ドス黒い感情が嵐のように吹き荒れ始めるのを実感した。
俺の体から常に放たれていた黒い波動は更に濃く、そして強い勢いで放出される。
「……助け、て、くれぇ……!」
「……」
そんな自分の姿をしっかりと認識していた俺は、足元からか細い助けの声が足元から出されている事に気が付いた。
「たの、む……。助け、て……」
「まだ生きていたのか」
俺はそれを、ゴミを見るかのような目で見下ろした。
俺が今まで殺した兵士達は、全員が全員国を護るなどという気概は全く持ち合わせていないような奴ばかりだった。
それを他の兵士達と変わらないコイツが統率しているのだと思うと、吐き気が催すような感覚にすら襲われたのだ。
グイッ……
俺は鋭い爪が生えた足を片方上げて、国王軍兵団長らしい装いの男を防壁の城側の縁に蹴り押す。
「……うっ、うぁぁ……! 待っ、待ってくれ……!」
そして情けない命乞いをする男だったが、少し時間を要してからやっと城の頂上にある兵器が発射体制に入っている事に気が付いたようだった。
「……!? おっ……、おいっ……! あいつら、何してんだよ……!? 俺が、俺達がいるじゃねぇかよ……!」
「諦めろ。お前達の存在価値なんか、そんな物だ」
こいつらが可哀想だとか、哀れな敗残兵だと思うような気持ちは一切湧いてこない。
全てが自業自得なのだ。
そんなやり取りをしていると、城の頂上では動きがあった。
ーーーー!
国王が周りの者との会話をしていたかと思えば、ついに発射の命令を下したのだ。
ギュイイイィィ……!
すると砲塔の先端に光が収束し始め、そのエネルギーを急速に収束に向かわせていく。
「まっ、待て! 待てよぉ!」
前方の男が悲痛な声で懇願し始めるが、奴がそれを聞き届ける事は物理的にも決断的にもありえ無いのだろう。
「……!」
俺は変化させていた翼や脚を元に戻し、その時に備えた。
そして身体中に漲る力を右腕に収束させ、やがて巨大兵器の口から漏れていた物よりもはるかに眩い閃光を生み出させる。
それは禍々しいまでの、漆黒の閃光だった。
「そんな物で、俺が止められるか……!」
「やめっ、俺たちが、まだ……」
それで何が起こるのかを悟って最後の一言を放った男は、そのまま後ろから放たれた俺の魔力によって消し飛んでその生涯に永遠の幕を下ろす事になった。
撃ち放たれた、俺の魔力を収束させた閃光。
それは巨大兵器が力を解き放つのと同時の事だった。
ドゴォォォォォ……!!!
お互いに放たれた魔力は丁度一人と一つの中間地点で着弾し、余りにも眩い白と黒の光を放ちながら激突する。
巨大兵器から放たれた魔力の固まり。
それは俺が想像していたより、更に強い魔力エネルギーだった。
「……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
右腕が何かに焼かれるような痛みに襲われる。
だが俺は力をを限界まで開放して、更なる雄叫びを上げて撃ち出した。
ギュィィィィィィ……!!!
ぶつかり合う2つの力は相手を消滅させようと、すぐ下にある城下町にすら被害を及ぼさない程互い違いの方向にそのエネルギーをぶつけ合う。
「ぐっ……、あぁぁぁぁ!!」
俺は更に吠えた。
突き出された右腕から、ミチミチと肉が弾ける音が聞こえる。
そして更に限界を超えた魔力を流し込まれた腕は、黒くボロボロに変色しながら魔力を放出し続けた。
ギュィィィィィィン……!!
俺から放たれ続ける閃光が更に太い物になり、やがてぶつかり合っている巨大兵器の力を飲み込んで発射元へと襲いかかった。
ドゴォォォォォォォン……!!!
純粋な破壊の奔流と化した俺の魔力は、遠くからも聞こえる程巨大な轟音を上げて着弾する。
魔力の奔流は、そのまま城の頂上を貫通して地平線の彼方にまで放たれて行った。
それは神から与えられたアーシアの聖剣の力を、そしてそれを元に生み出された最終兵器であろう魔導兵器の力をも超えたエネルギー。
力だけを奪い取った、勇者フリオの「魔力増幅」による人外の力だった。
その大元がエルマから与えられた力である事は言うまでもない。
バチバチ……ボンッ、ボンッ……!! ドガァァァァン!!
大きく風穴を空けられた巨大兵器からは、やがて部品を撒き散らしながら爆発を引き起こし、四散してしまった。
「……」
俺は動くものが居なくなった防壁の上で、力を酷使しすぎた代償を眺めていた。
右腕は肘から先が真っ黒に焼け焦げ、手としての機能を全て停止している。
「!」
ズズズ……
だがすぐに癒され、元通りの姿に戻っていった。
「なっ、何、が……!? 何が起こっているのだ!?」
遠くでは爆発に巻き込まれなかった国王が、城の頂上で喚いている。
「有り得ぬ……!魔導砲が、ワシが国王の座についてからやっとここまで強大になった魔導兵器が……!」
遥か彼方で一時呆然としていた国王だったが俺の方を見てきたかと思えば、そのまま踵を返して下へと走り去ってしまった。
「逃がすか……!」
俺は背中に、先程と全く同じ翼を生やして宙にゆっくりと浮かび上がる。
「かならずお前が犯した罪の重さを、存分に噛み締めさせてやる……!」
俺は心の中に溢れる怒りと憎しみを更に増幅させていきながら、城へと向かって飛び立ったのだった。
空の色はもう、燃えるような赤から黒い夜空に変わろうとしていた。
明日はちょっと頑張って投稿して、なんとか今月中に完結まで持って行こうと思います。
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