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題三十一話:倒すべき相手は

「ガァァァァ!!!」


 ボルモス達はアルスに向かって一心不乱に前進を開始した。


 その目は狂乱を宿っており、理性の籠もっていない瞳で相手へと猛進を行う。

 

「……!」


 だがアルスは、それに対してたった一つの防御策を行った。


ギィィィン……


「ガッ!?」


 アルスは目の前に手を差し出し、体中に溢れる魔力を薄いシールドのような力で具現化させたのだ。

 そのシールドは振り下ろされた粗末な武器に対して傷一つ付くこと無く、全ての攻撃を完全に防ぎきっている。


「何をしてる! もっと気合を入れて攻撃しろ、バカが!」

「もっと時間を稼いでくれねぇと、魔導砲が準備出来ないだろうが!」

「おーおー、結構死んじまったなぁ、こっちの方は。間一髪だったぜ、クソが」


 既に起動準備に入っている魔導砲が火を吹けば反逆者アルスを討伐できると信じ切っている王国軍兵団長や、その周りに集まってきた兵士達。

 その声には先程までの緊張感が一切残っておらず、目の前で行われる奴隷歩兵達による決死の攻撃にヤジを飛ばしていた。


「……」


 それにシールドの中からギロリと睨んでいたアルスだったが、そんな視線に遠く離れた王国軍は気付くことすら無い。


「ったく、ほんとに時間稼ぎにしかならねーなあ。じゃあ、あいつらの妻や娘たちは相変わらず俺たちの物って事だ」

「ヘヘッ、今日はどいつにすっかな? これが楽しくて兵士やってるぐらいのもんだぜ」

「そうそう、俺達命を張って国を守ってるんだからな! これぐらいは見返りがねぇとな!」

「息のある奴もいるはいるな。おい、面倒めんど臭えけど適当に手当してやろうぜ」


 兵士としてあまりにも薄汚れた心を持った男たちは、まるで試合を眺めるかのように余裕の笑みを浮かべている。

 

「……はぁぁっ!」


 アルスは戦いにもならない程戦力差があるボルモス達を防ぐシールドを、大きく広がるような衝撃波に変化させた。


「ガァァァァッ!?」


 それを受けたボルモス達は口々に大きな声を出して空中に吹き飛び、ドサドサと地面に倒れ込んでいく。


 だが、幸運な事に頭から落ちて命を落としたりする者は一人もいないようだった。


「……」


 自らの力が無意識に相手を殺さないようにしている事に気がついたアルスは、妹が自分の中から干渉かんしょうして来ているような気がして複座な表情を浮かべる。


「そうだよな、エルマ……。俺達の力は、あいつらを殺す為に使われるべきだ」


 自らにも言い聞かせるかのような言葉を呟くアルス。


「俺の、今倒すべき相手は……!」


 アルスは、次に自分の体を更に新しく変貌させた。


ズズズ……。バサッ……!


 それは大きな翼だった。


 人間の体に見合わない程大きなサイズの、ドラゴンのような翼。


ズズズ……


 更に下半身は狼のように変貌していたのだ。


 ……バシュンッ!


「おぉ!?」


 眼下の光景を余裕たっぷりに眺めていた王国軍兵団長は、その突然の飛翔に驚きの声を上げた。

 そしてほうけたような、脱力し切った顔で空を見上げると、振り返って他の兵士達に言葉をかけ始めた。


「空から殺るらしいぜ、あいつ! こりゃあ奴隷歩兵達の負けだな、しょうがねぇから何人生き残るか賭けようぜ! オラお前ら、何転がってやがる! お前も賭けに参加しろ!」

「ひっ、ヒデェ……よぉ……! 助けて、くれよぉ……!」


 瀕死の重傷を負った兵士は、そんな現状にかえって狂気に支配されたかのような王国軍兵団長に救いを求め手を差し出す。


 だがそれを、目の前の男は

「お前だって、俺の屋敷で馬鹿みたいに楽しんでただろうが!」


 ドゴッ……!


「ぎひぃぃ……っ!?」


 その兵士に対して自愛や救助の心など全く持たないように言い放ち、その腹を鎧の上から蹴り飛ばす。


「何が一人持って帰っていいですか、だ! バカ野郎が!」


 その声には溜まっていた鬱憤が晴らされていくかのような快楽に染まる。


「……ん?」

 

 だが、そんな王国軍兵団長の体はすっぽりと覆い隠す程に大きな影が生まれていた。


キィィィィン……!


 そして次に耳に聴こえて来るのは、何かが高速で落ちて来るかのような高い音だ。


「おっ、おい……? まさか、アイツ……!?」


 それに気付いた隣の兵士が、空を見上げながら自分の指揮官との距離をジリジリ離し始めた。


「……あ?」


 次の瞬間、もはや立派な下衆と化していた王国軍兵団長は体が何か大きな物にぶち当たったかのような衝撃に見舞われた。


ドゴォォォォン…………!


 長大な防壁上に響き渡る衝撃と轟音。


「うわあぁぁぁ!!」

「ひぃぃぃっ!!」


 落下してきた、人間サイズの大きな質量。

 それは防壁の上を横に滑るように着地し、一人の男を巻き込んで足場を削り取って行く。

 それに跳ね飛ばされた兵士達が何人か防壁にから転げ落ち、断末魔の声を上げながら落下して行った。

 それと同時に配備されたバリスタや大盾がバキバキと音を立てて、バラバラに砕け散っていく。


バチバチ……


 巻き込まれた男の手からこぼれ落ちた小さな機械が、衝撃で火花を散らしていた。


パラパラ……


 飛来してきた者は、削り取られた地面によって起こる煙の中でようやく停止を果たした。

 そして龍の鉤爪かぎづめのように「変化」させられた足からは、哀れな被害者の声が漏れていたのだ。


「うぅ……っ、なに、が……」


 着込んでいた一般兵より上等な鎧はベコベコに凹んでいて、折れた手足からは血が流れている。

 口からも血を吐き出し、息も絶え絶えになっていた。


「……まだ、生きてるのか」

「……ゲフッ、ゲフッ……! や、めてくれぇ……助けて、くれ……」


 足元を見下ろすアルスと、大きく血の混じったせきをする王国軍兵団長。


 だが、そんな姿を哀れみの一辺も感じていない目で見ていたアルスは、遠くで何かが作動する音をその耳で聞いた。


ゴォン、ゴォン、ゴォン…………


 普通の人間が歩けば何時間もかかる程広大な面積を占める面積の城下町の向こう、アルスにとって最後の一人が居る王城。


 その頂点では、魔力の充填が済んで起動準備を終えた巨大な砲塔が目標に向いていた。

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