第二十九話:戦いの始まり
日が沈み始めた、燃えるように赤い夕焼け空の下。
「……」
俺は王都を一望できる高い丘の上から、その全体を眺めていた。
ーーーー急げ、急げ! 魔王がこの王都に直接攻めてきたと思って備えをしろ!
遠く離れた、白く巨大な防壁の上からはそんな指揮官らしい兵士の声が聞こえる。
俺と王都には、常人ならその声が聞き取れないような程の距離があったが、今の俺には関係ない事だった。
「……」
俺は自分の体が今どうなっているのか、自分で自分を改めてみた。
「……結局、俺にはこの姿が一番具合が良いって事か」
俺の姿は、獣や巨人、ドラゴンと変わって行った変化の終わりに元の人間としての形を取り戻していた。
故郷の村で平穏に過ごしていた頃の、ただ一人の人間だった頃の姿。
妹と何気ない暮らしをしていた頃の、憎しみや怒りというのがどんな物なのかを全く知りもしなかった頃のカタチ。
それが、最終的に最も力を発揮しやすいのだと俺の「力」は判断したのだろう。
「……エルマ……」
だが、俺はこうも思うのだ。
あの優しくて他人を傷つける事を嫌がっていたエルマは、命を落としても尚俺に「人間」に戻って欲しいと願ったのではないだろうか。
暴走してしまった、この胸の中にある「力」は、今エルマの意思を少しでも反映させ始めているのでは無いか。
もう復讐は終わりにして、静かな幸せをどこかで手に入れても良いのではないかと訴えているのかもしれない、と。
「……っ」
俺は心の中に、ほんの少しだけ虚しさを覚える。
「……」
だが次の瞬間から、俺はそんな考えが吹き飛ばされるような感情がフツフツと湧きあがっているのを実感していた。
ーーーーこんな優しい心を持つ妹を殺した連中には、報いが必要だ。
自分たちの行った事によって、この世界から失われてしまった者の意味を知る必要が奴らにはある。
「……待ってろよ、エルマ。今、俺が全部終わらせてやるからな……」
そして俺は、自分の中で必死に制御を取り戻した「力」を発動する。
ズズズ……
それによって俺は自らの姿を、造形は変わらないまま異質の者へと変えた。
その姿は、俺が最後に見た眩しい人間の姿を模倣した物だ。
大きなマントが背中に靡く、紋様の浮かび上がる漆黒の鎧装束。
俺があの悪徳の街で戦った時に見た、あの騎士団長アーシアの装い。
その色を全て黒に染め上げてしまったかのような、俺の憎しみと怒りを表すような禍々しい姿だった。
「……行くぞ、国王陛下とやら。お前は今日、その命を終わらせる事になる……!」
俺は「これが最後の戦いになる」という確信を胸にして、その姿を防壁からも視認出来る程の距離にまで歩いて行った。
暴走していた「力」による物では無い、俺自身が胸に熱く高上らせる怒りと憎しみを抱いて。
「来た、来たぞぉぉぉ!!」
「っ……!?」
防壁の上で、急ピッチの防衛戦に対する備えを進めていた王国軍兵団長の男は聞いた。
一辺だけでも長大を極め、攻城兵器が並べられるほど幅がある防壁には多数の兵士と物資、そして反逆者を打ち倒すための兵器群が並べられている。
砦にも配備されていた巨大バリスタ、もちろんこれは砦の物とは違って魔力による機能強化が済まされている。
防壁の内側にある住宅エリアはいくつもの家屋が打ち壊され、所狭しと並べられた投石機がひしめいていた。
「反逆者アルスが、こちらに向かって歩いてきています! なんだありゃあ……!?」
そんなたった一人の人間に対しておよそ行う物ではない備えをしていた兵士の中で物見を担当していた兵士が叫び声を上げたのだ。
「どこだ!? 奴はドラゴンの姿で向かっている筈だ、空からか!?」
「いえ、あれを……! 奴は、人間の形をしています!」
「何だと……!?」
うろたえる物見の兵が指差した方向を見た兵団長は、そこに余りにも強大な力を感じさせる姿をした人間が地上を歩いているのを確認して目を見開いた。
その姿は漆黒に染まった鎧騎士のようだったが、そこから立ち上っている黒い波動は間違いなく邪悪な性質を帯びた物だ。
「何という禍々しさだ……!」
その姿を視認した兵団長は、一瞬で自分の中に「命の危険」が及んでいるという事を本能で感じ取っていた。
それによって、兵団長は自分が今の地位に至るまでの道筋を思い返す。
王国軍の内部というのは、醜く肥え太った豚のような内情だった。
横行する周辺国への不正、反発する地域からの反乱鎮圧、そして略奪。
兵達の中には連れ去って来た反乱者を奴隷として売り飛ばし、気に入った女は自分のペットのように扱う者さえいた。
最初はそれを止めようともしたが、我が身可愛さにやがて順応を果たしていた。
今では王国軍の兵団長として恥じぬ振る舞いが身についた自分は、今も屋敷に何人もの奴隷少女を飼い慣らしている。
悪の親玉のような兵団長としての任務を果たした後は、その自分よりもか弱い女奴隷達を抱くことによって心の平穏を得るような毎日を暮らしていたのだ。
「兵団長! あのクソ野郎、こっちに向かってます!」
「早く攻撃の指示を下さいよ! こっちはあんな奴より、今日の夜に誰を抱くかが問題なんですぜ!」
「砦を吹っ飛ばしたとか言ってる奴がいますけど、そんな訳ないだろ!? さっさとぶっ殺しましょうよ!」
兵団長を取り囲む、犬と区別もつかない理性の兵達が好き勝手な事を言い放ちながら攻撃指示を待つ。
「……たまるか……」
「……え? 何ですって?」
兵団長が小さく漏らした言葉を、取り巻きの一人が聞き返す。
「……お前たち、今すぐ攻撃を開始しろ! あのクソ野郎を、細切れのミンチにしてやれぇ!!」
最早人間としての理性すら無くし始めていた兵団長は、大きく目を見開きながら指示を下した。
「投石機、グズグズするな! バリスタは撃ちまくって、オラァ! お前たちも女を抱く以外使えない手をさっさと動かして、弓矢を撃てぇ!!!」
その怒声を聞いた兵達は、全員が笑みを浮かべて攻撃を開始し始める。
「へへっ、そうこなくっちゃ! さすが我らの兵団長殿だぜ!」
「オラオラ、くだばりやがれ! 大陸最強の王国軍、その王都に君臨する軍の魔力強化装備を耐えられるんならなぁ!」
畜生の道に落ちて、更に外道へと転がり落ちた統率者に率いられた兵士達は、目標に向かって様々な攻撃を開始する。
だがそれは、王国を追放された反逆者アルスによる一方的な蹂躙の始まりの合図でしか無かったのだった。
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