第二十七話:更なる力と目覚めるアーシア
パラパラ……
一帯に散らされた砂埃が収まる。
――――。
アルスは先程まで大勢の兵士が逃げ惑っていた砦の、その残骸である瓦礫の山を見下ろしていた。
その胸にあるのは、晴れない復讐の憎しみ。
一目でわかる嘘をついて命乞いをする勇者を光の中に消しとばしたアルスだったが、その心の中には尚「奴らに裁きを」と訴えかけてくる何かが存在した。
ー。
そんなアルスの、巨大な黒龍と化した足には小さな振動が伝わっている。
その正体を既に理解しているアルスは振り返って、遥か彼方にしか見えない一団の姿を眺めた。
「―――!! ―――――!!!」
遥か遠くに見えていたのは、騎士団の一人が何か喚きながら部下達を率いている姿だった。
部隊を率いるその姿はまだ可憐な少女と言っても差し支えないような、幼さを残している。
――――。
だがアルスはそれを少しの間眺めて、興味が無いとばかりに再び瓦礫の山の方へ首を向け直した。
――――!!!
そして、胸の中に未だくすぶり続けている怒りに心を灼かれるように瓦礫の山を腕で叩きつける。
ズズゥン……
再び舞い散る砂埃。
それはアルスの、人間としての理性を持った怒りの表れだった。
ーーーーー!!!
そしてアルスは、その場に生きている兵士がいたならもう一度必死に耳を塞がなくてはならない程の雄叫びを上げる。
無人の荒野に、一つの魂の叫びが響いていた。
それから少し経った後、復讐相手をあと一人残すアルスは身を小さく丸まらせる。
ズズズ……
体を覆い尽くしていく、黒い何か。
瓦礫の山を平たくしてしまう程の強大さを持つアルスは、尚も力を求めて自身を別の姿に変え始めていた。
そしてそんな頃、甚大な被害を受けたボロボロの街では。
「……うぅっ……」
「アーシア殿! ご無事ですか!?」
倒壊した建物の中から、懸命の救出作業を行っていた騎士団員達によってアーシアが救い出されていた。
「……ここは……? 私は、一体……?」
意識を失ったことにより、朦朧とした記憶に頭の中を抱えるアーシア。
その美しい金髪は土埃に塗れていた。
清廉さを体現するような顔立ちの頬には細かい切り傷が付いている。
「あぁ……、良かった! お怪我はありませんか!?」
「……あ、あぁ。だが、私は一体何を……」
頭を振って今までの事を必死に思い出そうとするアーシアに対し、副官は今の状況を余す事なく伝達した。
「……街を襲ったアルスは、我々が団長を追いに来ていた砦の方にまで侵攻して来ました。そして……」
「!!」
その一言で、アーシアは自分がアルスから一撃を食らって昏倒した事を思い出した。
「なんだと……! それで、何故お前たちがここにいる……!?」
「……アルスには通常の兵器が全く役に立たず、勇者フリオの魔導兵器も奴を討伐するには至りませんでした。我々は貴方を救出する為に、隙をついて砦から脱出したのです」
「……!」
アーシアは驚きに目を見開いていたが、やがてそれが合理的な判断だったと自分を納得させた。
その手に未だ握られていた聖剣デュランダルの力でさえ、アルスを止めるには及ばなかったのだ。
もしも騎士団が全力で砦の防衛に参加していたとしても、それはそのまま戦死者の数を増やすだけの事だっただろうと。
「……そうか……。皆、私の為に済まない……。敵わぬとわかってはいても、目の前の脅威に背を向けるのは苦渋の思いだっただろう」
「いえ! 我々にはアーシア団長が必要でした。……それに、勇者フリオの振る舞いと言ったら……。」
「……あぁ……」
その言葉に、アーシアは自分が行われそうになった乱暴について思い返していた。
あのような者が砦の守護に当たったのならば、その指揮に加わる事は耐え難かっただろう、と。
「……アーシア殿。我々はこれから、どうすれば良いのでしょうか」
「……どういう事だ?」
アーシアは目の前で複雑な表情を浮かべる副官に、少し違和感を覚えた。
若くして騎士団長という立場に立った自分をサポートしてくれた少女は、王都にいた時とは抱えている問題が大きすぎるかのように苦悩しているようだったのだ。
「……団長が王都を離れたと気付いた時、私はご命令通り国王陛下の勇者パーティーに対する処遇を調べておりました。 その内に、国王陛下がとても信じられないような王命を冒険者ギルドに下していた事がわかりました」
「……?」
「国王陛下は、勇者フリオ以外の者には功績が小さく危険な任務ばかりを回していました。そして誰でもできるような事はフリオに処理を行わせ、殊更その功績を大きく取り上げているようでした」
「!」
「……反逆者アルスの追放に対しても、あまりに横暴な判断でした。国民の中には、アルスによって盗賊等から救われ感謝をする者達さえいたのというのに」
ギュッ……
副官から告げられる報告をただ呆然と聞いていたアーシアは、やがて自分の手に握られていた聖剣の握りを更に強くした。
「……私さえ、もっと力があれば……!」
自らの無力さに打ちひしがれるアーシア。
だが、そんな姿さえ絵になる程に悲壮感を漂わせるアーシアに副官はある物を差し出してきた。
「アーシア様、こちらを」
「……何だ? これは……」
それは小さな機械のようだった。
「これは、貴方を一瞬で王都にまで送り届ける魔導具です。魔王軍との戦争に際して騎士団長が危険に陥った時、すぐさま王都に帰還させて安全を確保する為の」
「……効果が及ぶのは、一人だけか。何の役にも立たん……」
アーシアは騎士団長の座に着いた時から、一つだけ決めていた事があった。
――――私は決して、部下を見捨てて逃げるような事だけはしない。
「……もしも戦争中、私の身に危険が及ぶ事があれば、それは配下の者達がそれ以上の危機に見舞われているという事だ。その魔導具に頼る事は無いだろうな」
そんな反応を示すアーシアに対して、副官の少女は決意を持ったような表情で言葉を投げかけた。
「アーシア様、これで一刻も早く王都へとお帰り下さい。こちらに向かっている最中、砦からは強烈な光が放たれました。 恐らくそれはアルスから放たれた物で、砦はもう……」
「……」
差し出された魔導具を手に取るアーシア。
「……わかった。ならば、お前たちは三つに別れて行動を開始しろ。一つはこの街の人命救助、一つは砦に戻って生存者の確認。一つはそのまま王都へと騎馬で戻って、私の力になってくれ」
「はい……!」
「アルスが王都に到着するまで、あまり時間は無い。砦から王都へ、危機は伝わっているのか?」
「はい、出撃間際に伝達室からは大きな声がしておりました。今頃王都は防衛準備を開始してる筈です」
「そうか。……ならば、国民の避難も始まっているだろう」
「アーシア様、どうか国王陛下に真意を伺って下さい。我々はもはや、王国に対する忠誠に違和感を覚え始めています」
「……」
堂々と王国への不信感を表す副官に対し、アーシア自身も同じ気持ちを持っていた。
だが、それはアルスによって家を焼け出される国民達を守らない理由にはならない。
「……最早この国の軍は、国民を護るという意識など欠片も残っていないのかもしれん」
「……はい」
「だが、王都には数え切れない程の数、罪もない一般市民が生活を送っている。見捨てる事は出来ない」
アーシアは手にした魔導具に、魔力を流し始めた。
それを受けて小さな機械は光を放ち始めて、アーシアの体を包み込んでいく。
「……今の私が、どれほどアルスを足止めできるかはわからない。だが、何としても国民達が逃げ出す時間を稼ごうと思う」
「国王陛下のお考えも、必ず確かめて下さい。あの方が何を考えられておられるのか……」
「ああ、わかった。お前達も、無事に戻るんだぞ」
そのままアーシアは光の中に消え去り、残されたのは黄金でも限られた数しか作られていない魔道具だった。
「……アーシア様……」
副官はそれを両手で拾い上げ、自分の胸辺りでギュッと強く握り締める。
「どうか、ご無事で……」
それは未熟な自分を副官として召し上げてくれたアーシアに対する、せめてもの祈りだった。
次回で序章に繋がる予定。
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