第二十五話:平伏す勇者
「あ、あ……っ! あぁ……!!」
腕を無くした者の隣に立っていた兵士は、目の前の光景が本当に起きた事だとは一瞬信じられなかった。
パラパラと足元の防壁から落ちていく瓦礫。
自分達が攻撃を使用していた巨大なバリスタは叩きつけられた事で大きくひしゃげてしまっていた。
「おい……あいつら、どこにいるんだよ……?」
答えは目の前にあった。
アルスの腕の形に変形してしまったバリスタの、同僚たちが配置に就いていた場所の辺りからは血溜まりが広がっているのだから。
「ひっ、ひあぁぁ!」
その兵士は悲鳴を上げて持ち場から逃げ出してしまった。
「…………話が、違うじゃねぇか……!」
そして先程腕を無くした兵士は頭上を見上げて、全てが上手くいくと保証していた勇者フリオの方を見た。
「……っ!」
展望部分からは、目の前の脅威を撃ち倒した筈のフリオが血相を変えて再び魔導兵器へと魔力を流し込んでいく。
ギュィィィィ…………!
それによって再び機械音を鳴らし始めた魔導兵器は、決められた機能を存分にふるい始めた。
ドガガガガ……!
それからフリオは、轟音を鳴らす魔導兵器越しにそれを撃ち込まれるドラゴン――――アルスの様子を見ていた。
スキル「魔力増幅」によって際限なく送り込まれる魔力によってエネルギーを得た魔導兵器が炸裂させたエネルギーは全て目の前のアルスに向かって吸い込まれていき、一発たりとも標的を外すことはない。
その鱗状の黒い表皮に吸い込まれた魔力の弾丸は先程と同じように魔力による爆発を巻き起こした。
「……へっ、ビビらせんじゃねーよ! さっきと変わってねぇじゃねーか!」
魔力爆発による煙幕が視界を奪う中、フリオは確かに撃ち出した弾丸がアルスに着弾して爆発するのを確認していた。
それによってフリオは怯えが消えていくような声色で冷や汗を拭いたが、次の瞬間その行為は無駄に終わったのだと知った。
――――オワリカ――――
声が聞こえて来て、そしてすぐに体表に傷一つ無い姿のアルスが姿を表したからだった。
「……何なんだよ、お前……」
フリオは自分が最も強大な力を持つ人間だと信じて疑わなかった。
スキル「魔力増幅」によって、常人には到底到達しえない領域にまで性能を向上させた魔導兵器。
それを使いこなした上に、大陸で最大の国家である王国の勇者として遇されている立場。
それによって今まで何人もの敵を排除し、時には欲望のはけ口に使い、そして勝利を収めてきたのだ。
(……チッ、ここは逃げるしか無ぇ……!)
そしてフリオは街での時と全く同じように、一目散に逃げ始めた。
――――ドコニイク――――
その声と同時に振り下ろされた、もう片方のアルスの巨大な前足。
ズズゥン……!
それがフリオの目の前を、爪の生えた三盆指となって行く手を遮った。
アルスは今度こそ、目の前の仇を逃がすつもりなど無かったのだ。
「……う、うわぁぁぁぁっ!!」
するとフリオは突然身を翻し、驚くべき速さで膝を付いて這いつくばった。
「すまねえ、すまねえ! お前の妹が死んだ事は本当に悪かったと思ってる!」
そしてアルスに対して心底申し訳無さそうな声を上げ始めた。
頭を地面に何度も打ちつけ、額から血を滲ませながら必死に許しを乞い始めていたのだ。
「俺も、お前と同じ被害者なんだ! 聞いてくれよ、お前の妹を殺せなんて俺は一言も言わなかったんだ! ただ、可愛いかったから仲良くしたかっただけなんだよ!」
ーーーー
それをアルスは、フリオにとっては全く表情が窺えない顔で眺めていた。
「全部あのドルベが勝手にやった事なんだ! お前が何を言われたのかはわかんねーけど、俺はお前の仇なんかじゃないんだ!」
ゴンゴンと地面に頭を打ちながら、今にも泣き出しそうな程情けない声を出すフリオ。
「そ、それに! お前を追放しようと決めたのは、この国の国王なんだ! そっ、そうだ、何なら今から俺も一緒に復讐しに行ってやるよ!」
提案するフリオの脳内には、どこまでもは自分のこと意外考えていない考えてが浮かび上がっていた。
ーーーーこの状況さえ乗り越えれば、後は何とかなる。
あの役立たずの騎士団に意識を向けたり、下の方でピーピー喚いてる兵士達に擦りつけてもいい。
何とかもう一度、今度は限界まで能力を使ってガトリングなんとかに魔力を注げさえすれば……!
――――。
フリオがどんな言い訳を吐くのかを眺めているかのように、アルスはじっとフリオの情けない姿を眺めていた。
フリオは見た目だけなら平伏すようなポーズを取りつつ、しかし必死にアルスの反応を伺う。
だが、そんな爆発寸前になった空気を更に動かすような出来事が起こったのだ。
「行け! 出撃! アーシア隊長を救出に向かうのだ!」
砦に両足を載せて、無防備になってしまったアルスの足元辺りにある正門から出撃する者達が居た。
「アルスには目もくれるな! 我々の隊長は今でも街で動けなくなっているのだ!」
周りの者達に比べて幼さの残る小ささを持つ、騎士団長を臨時に指揮するのは副官の少女だった。
共に馬に跨り轡を並べる者達の姿は、マントが翻る騎士団の鎧姿。
「……あの、クソ野郎どもぉぉぉ!! 砦の防衛にまともに協力しねぇで、そんな準備してやがったのか!!」
這いつくばったフリオは足元で行われた無謀な出撃に毒づくが、すぐにそれはチャンスだと思い直した。
「……なっ、なぁ! 王国で一番の組織である騎士団の奴らが足元に居るぜ! 早く踏み潰しちまわねーと、下から攻撃されちま……!」
命を張った一世一代の言葉をアルスにかけるフリオだったが、その言葉は最後まで続ける事が出来なかった。
「……うっ、うわ、うわぁぁぁぁああ!!!」
なぜなら、巨大な口を開いたアルスによって、その上半身が喰い付かれてしまったからだった。
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