第二十四話:防衛戦
開戦の火蓋は、切られた。
「撃てぇ! 撃って撃って、撃ちまくれぇぇぇ!!」
ズゥン……
「あの野郎、やっぱ効いてないぞ!」
「顔を狙え! 全部のバリスタで同じ所を撃ち続けてりゃ、ダメージになってく筈だ!」
「ちっきしょう! これが終わったら街で娼館にっつったって、開いてんのかよ!?」
「早く次の矢をつがえろ! モタモタするな!!」
兵士達は狂乱の中に立たされ、全員が身体中汗を吹き出しながら迫るアルスの巨影に対して全力射撃を行い続ける。
ギィン……! ギン、ギィン……!
距離が近くなってきた事でその着弾音は時間差の無い物になる。
その装甲のような黒い体には傷が付き始め、そしてすぐに元通りに再生されていった。
「バケモンが! お前はどうせ、最初からその力を使って好き放題に暴れまわるつもりだったんだろうが! 追放された逆恨みをしようったって、もう遅せぇんだよ!」
一人の兵士が何発目かのバリスタを発射しながら、怒りを見せて唾を吐く。
ズゥン……
だが、アルスはそれを物ともしないままにまた一歩砦を蹂躙しようと歩を進める。
「ヒッ、ヒ……ヒィィッ!!」
そしてその姿と振動、何よりその目に宿った怒りと復讐の赤い光に怯えた兵の一人が悲鳴を上げ始めた。
「おいっ! お前、どこへ行く!? 敵前逃亡で死刑にされたいのか!?」
その兵を指揮する者が肩を掴んで踏み留まらせるが、怯えた兵はそれをも振り払って地面に蹲った。
「許してくれぇ! 俺が、俺が悪かった! あんな可愛い子が、俺の前を通ったから! だから俺は、その子が欲しくなって……!」
「何を言ってるんだ、お前は!」
「わからないんですか!? アイツは、あの目は、俺の罪を裁きに来たんだ! 俺を殺して、地獄で償いをさせる為に現れたんだぁぁ!!」
錯乱状態に陥った兵士は頭を抱えた許しを乞うが、その兵を指揮する者はそんな姿を見て大きな舌打ちをした。
「チッ……! もういい、お前は望み通り後で公開処刑にしてやる! お前ら! こいつみたいになりたくなかったら、もっと撃ちまくれ!」
「了解、隊長! オラオラ、近くなればなるほど効くだろうが、反逆者さんよぉ!」
ズゥン……
その兵士の言葉は事実だった。
アルスは一歩前へと巨大な足を進め、足跡を残しながら眼前の砦へと進撃を続ける。
だがその体には、特に頭部には幾つものバリスタが絶え間無く打ち込まれていく。
ギィン……! ギィン……
アルスの頭部に命中する矢の音はどんどん低い物になっていき、ついにその時は訪れた。
――――!!
アルスは巨大な鎧騎士の姿を取りながらも、以前のような獣じみた怒声を張り上げた。
「うっ、ぐっ……あぁぁぁ!!」
ビリビリと兵士達の耳には衝撃波が伝わり、それによってその場にいた全員が耐えきれずに耳を手で塞ぐ。
それが一瞬遅れた兵達の中には、鼓膜が破れた事で耳から血を流している者さえ居た程だ。
アルスの顔に当たる部分には、打ち出されたバリスタの矢が深々と突き刺さっていた。
それはほんの少しの時間でズブズブと内側から押し出されて地面に落ちるが、それを見た兵士達の脳内には歓喜の声が満ちていた。
「うぉぉぉ、やったぜ! この距離なら、バリスタが効くぜ!」
「撃てぇぇぇ!! もっともっと、撃ちまくるんだ!!」
かろうじて咆哮のダメージから逃れた者の号令と共に、アルスの頭部には次々とバリスタが打ち込まれていく。
――――!!
次々と顔に矢が突き刺さるのに更なる怒りを増幅させるかのように、アルスは再び進撃を再開する。
その距離はもうアルスが手を伸ばせば防壁に先端が付くような近さだった。
「――――お前ら、よくやった!」
だが、そんな場面に響いてきたのは、兵士達にとって聞き慣れた声。
そして、アルスにとっては忘れようも無い声だった。
「足止めご苦労! お前らなんかでも、時間稼ぎぐらいは出来るんだなぁ!」
下の方で必死に防衛戦を繰り広げていた兵士達を見下ろして余裕顔をしているのは、ずっとニヤニヤと笑みを浮かべて一連の流れを眺めていたフリオだった。
「フリオさんよ、今更出てくるんじゃねぇ! コイツはもう俺たちだけでも十分殺れるぜ!」
「馬鹿、こいつには再生能力があるんだぞ! 何本矢が突き刺さったって死にやしねぇよ!」
「だったらどうするってんですか!」
兵士達の疑問に対し、フリオは「まぁ見てろって!」と、意気揚々とした声をかける。
「こいつを食らって、体中穴だらけにしてやるぜ……! 幾らなんでも、ホントの不死って訳じゃあねーんだろ!?」
次の瞬間、フリオは自らが操る円筒を束ねたような造形の魔導兵器に魔力を流して、その機能を存分に解放した。
ギュイイン……
「死にやがれ……!」
その声と同時に、フリオの専用である魔導兵器は唸り声を上げて魔力の弾丸を吐き出し始めた。
ドガガガガガガ!!
―――――!!!
撃ち放たれたエネルギーの弾丸はアルスの体に一瞬で到達して魔力の爆発を起こし、その体に幾つもの大穴を空ける。
それにアルスは苦痛の雄叫びを上げ、ゆっくりとその体が後に倒れていった。
ズズゥゥゥゥン……!!
アルスは体中から黒い煙を吐き出しながら、その巨体を仰向けに地面に倒す。
「……やった……!」
それを見ていた兵士の一人が、たまらず叫んだ。
ーーーー
大量の土煙を上げて仰向けに倒れた巨大な復讐者は、そのまま動きを停止してしまった。
「へ、へへっ……!」
勇者フリオはそれを見て上ずった声を漏らし、
「ウォォォォ!! やった、やったぞぉぉぉ!!」
「フリオ様バンザァァイ!! 王国軍バンザァァァイ!!」
兵士達からの歓声を一身に受け止めていた。
誰もが反逆者の死を確信し、勝ち誇った顔でフリオを賛美する言葉を吐く。
だが、その声はすぐに静かな物になった。
ズズズズ…………
「お、おい……! あれ……!」
それを見た兵士の一人が、隣で大喜びしている兵士の肩に手を当てる。
「何だよ、これから祝勝会に決まってんのに……。 お前も今のうち、街から逃げて来た奴らの中から誰を抱くか決めとけよな!」
街からの難民を「保護」している兵の一人が、欲望の吐き出し口を漏らして嫌らしく笑う。
「まだ手を付けてなかったからなぁ、どいつにするか楽しみ、だ……」
だがその兵士は、頭の中に欲望まみれの妄想を広げたまま、命を落とすことになった。
ズズゥン……!
「……ほ、ほら……。言わんこっちゃ、ねぇ……!」
最初にアルスの様子を目撃した兵士は、同僚の肩に当てた手が肘の辺りから無くなっているのを見ながら震えた声を出す。
「…………っ!?」
自分の力を誇示してご満悦だったフリオも、それを見て目を見開く。
――――オマエタチガ……!
聞こえてきたのは、確かに人間の言葉。
だが、その姿は先程まで見えていた物とは別物の姿だった。
――――オマエタチガ、エルマヲ……!
赤く輝く瞳。
背中に生えた大きな翼。
防壁に叩きつけられ、兵士の何人かを赤いシミと化した腕にはトカゲのような鱗が付いていた。
――――オマエタチサエ、イナケレバ……!
「……嘘だろ、オイ……」
唖然とした表情を浮かべ、指先を震えさせたフリオが目にした物は。
――――エルマハ……!
自分に向かってありったけの憎しみを込めてその姿を見せる、黒いドラゴンの姿と化したアルスだった。
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