第十九話:逃走のフリオ
「はあっ、はあっ……! 冗談じゃねーよ!」
街に現れた自分を狙うアルスの暴威から逃走する事を選んだフリオは、息を切らせながら砦への道を逃げ走っていた。
この光景を目にする者がいたならば、それなりに見た目の良い魔導鎧を身に纏う「勇者」が一目散に砦へと向かう姿は惨めな逃走兵そのままの姿に見える事だろう。
「なんで俺様がこんな目に、クソッ……! 何もかも、あのカスがしくじるからだ!」
自分が兄妹二人に対して陰謀めいた罠にかけた事など全て棚上げしているフリオは、頭の中でドルベの事をなじりながらひた走る。
「あの野郎、まさか砦に逃げたんじゃないだろな……!? 見てろよ、もしもあの面を見かけたらぶっ殺してやる……!」
その当人が既に地面と同化して命を落としている事など知りもしないフリオは、怒りで頭の中を一杯にしながら額の汗を拭った。
「はぁ、はぁっ……! よし、見えた……!」
そしてフリオは、目の前に対魔王軍の一大拠点である王国の砦の姿を捉えた。
「へへっ、こうなりゃ流石にアイツもおしまいだ……!」
自分が逃げて来た街と同等レベルの規模を持ちながらも、その人員や設備は戦争にのみ特化した機能を持つ。
そんな王都でも最も頑強な砦に逃げ延びたフリオは、例えアルスがこちらに向かって来ても余裕で撃退できると高を括っていたのだ。
「はあ、はあ、はあ……っ! やったぜ、到着だ……!」
「フリオ様!? 一体どうされたのですか!?」
息を切らせたフリオはその砦の入口で膝に手を当てて歓喜に震え、肩を上下させながら砦の入り口警備の任に就いた兵に呼びかけられる。
「……ふぅっ! お前達、街の異常には気付いてるんだろうな!?」
「はい、フリオ様! 街の方から異常な音や振動が聞こえましたので、我々も急いで調査の先発隊を出発させております! 途中ですれ違いませんでしたか!?」
「……あの、ザコ丸出しの雑兵達が先発隊だぁ!?」
フリオはこの砦に逃げてくる時にすれ違った一団の事を思い出して、目の前の兵に理不尽な怒りを向けた。
砦から送られていた兵達は数十名ばかりの人員で、全員が戦支度をしていた。
たがその装備は魔導兵器が配備に至っていない弓矢や長槍を主にした物だったので、逃亡中のフリオは「こいつらでは戦力にならない」との判断を下して姿を隠したのだ。
見つかれば間違いなくアルスとの戦いに連れて行かれるという事を嫌って。
「ったく、これだから無能はよぉ! 魔王軍が街に攻めてきたってのに、平和ボケしてやがるぜ!」
「何ですって……!?」
生真面目な性格らしい兵士はその言葉に反感を覚えたようで、信じられないとばかりに言葉を返した。
「俺様がいくら最強の勇者だからって、こんな馬鹿共のお守りをしなきゃいけないのかよ!」
「やめて下さい! 我々は人類を守る為に、必死に……!」
「うるせぇ! とっととお前は俺を中に入れて、俺の『対魔王軍用装備』を準備しやがれ!」
「……っ!」
フリオは何一つ手落ちをした訳でも無い兵士に向かって心無い言葉を放ち、それを立場上は反抗が出来ない相手に向かって偉そうな指示を飛ばす。
「……わかりました。どうぞ、中へ……!」
「テメーは最初にアルスの餌食になるだろうよ、ノロマが!」
それから少しの時間が経ってから。
「フリオ様、勇者用の装備を整え終わりました!」
「遅えんだよ!」
そして街に配置されている者達とは大違いに勤勉な兵達が準備するのをただ待っていただけのフリオは、ようやく自分専用に作り出された対魔王軍用の完全装備が用意できたと知って椅子から立ち上がった。
「へへ……!」
そしてフリオは、運ばれて来た自分の最強装備を目の前に笑みを浮かべる。
「こいつがありゃ、百人力だぜ……!」
その顔はつい先程までアルスに対して恐怖を覚えていたとは思えない程の傲慢さを滲ませていた。
その魔導兵器は、全てがフリオの「魔力増幅」とセットにして運用される事を前提にチューンナップされていたのだ。
「フリオ様、ご報告ありがとうございます! 逆賊アルスが街を襲っているとの事であれば、すぐに出立の準備を! 情報が事実であれば、仲間達は我々が更なる増援を送るのを待ち望んでいるに違いありません!」
そしてまた新しい、砦での任務に就いている若い兵士が顔を出しながら言った。
「あぁ?」
だがそれを、フリオは心底不真面目な態度で言葉を返す。
「あのなぁ、お前ら戦争の大前提を全然知らねぇみたいだな。 戦力は小出しにしてチマチマ削られるより、一箇所に固めて一気にぶつけるんだよ」
「……どういう事でしょうか?」
目の前の勇者が何を言っているのか理解しかねた兵士は、フリオがどのような人物であるかをまだ知らない。
「街はもう手遅れだ。これから砦で迎撃をする準備を進めて、ここでアイツを迎え撃つんだよ!」
「!!!」
ニタリと笑うフリオに対して、兵士は驚愕に目を見開いてしまった。
「ど、どういう事ですか! 街を見捨てるつもりですか!」
「うるせぇ! 先発隊をあんな貧弱装備で向かわせた、お前らが馬鹿なんだよ!」
兵士に対して唾を飛ばしながら、フリオは平然と街に向かった者達を犠牲にする決断を下した。
「……」
「なんだ、文句があるのか? 俺はこの国で一番強い、勇者様なんだせ」
言葉を飲み込む兵士に胸をふんぞり返して、フリオは自身の安全と砦の全兵力を使う事を決めた。
時刻は最初にアルスが街を襲撃してから、かなりの時間が経過していた。
自分でも結構良いなと思う話が思い付きました。
本作を執筆するのと同時に、そちらの方も今のうちに書き溜めとこうと思います。
いや一回短編として投稿してみようかな?
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