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第十八話:アーシアの慟哭

「オラオラ、モンスターさんよぉ! 王国の力を思い知ったか!」


 脅威が去った事に気を良くした兵士の一人が、倒れ伏した獣の体をゲシゲシと足蹴あしげにする。

 口からは汚い言葉を次々吐きながら、動かなくなった敵に対して一方的な暴力を加えていた。


「よせ! それより今は、事後の処理を急がなければいけない時だろう!」


 王国に戻れば英雄的な扱いを受ける筈の功績を立てたはずのアーシア本人は、それに対して強い口調で一喝を加える。


「お前も早く、散った兵達を呼び戻して後続のモンスター警戒と街の復旧を始めるんだ!」


 アーシアの言った事は軍人として当然の判断だったのだが、それに兵士は不満を覚えるような口調でやんわりとした命令の拒否をする。


「えー? 大丈夫ですよー、こんな奴が倒されたら魔王軍もビビッってますって!」

「……私は王国兵よりも階級の高い、王国騎士団長だ。命令が聞けないのか」

「いっ!? やだなぁ、アーシア様! 命令拒否なんて、そんな訳無いじゃないですかー!」

「……」


 そのまま兵士は顔色を伺うような目を向けたまま、どこかへと走り去っていく。


「まったく……!」


 お調子者にも限度があるような兵士の態度に、アーシアは苛立ちを覚えずにはいられなかった。

 

 ――――やはり王都に戻ったら、この街の在り方を変えて行かなければいけない。


 勇者や心無い者たちによって腐ってしまった街だったが、こんな場所とて王国の守るべき物だ。

 せめて、兵士達の質は上げておかなければ。幸いな事に、砦や王都の兵はまともなのだが……。


 これからの事を思うと気が重くなってくるアーシアだったが、少し離れた所で倒壊した建物の残骸処理を始めた兵達の中からは疑問の声が上がっていた。


「しっかし、何だったんだコイツ? 見た事もねーよ……」

「知らねーよ。死んじまったんだから関係ねーべ」


 気の知れた者同士で会話をやりとりする兵士達だったが、それを聞いていたアーシアの耳には予想もしていなかった者の名前が飛び出してきた。


「コイツ、ドルベさんが言ってたアルスって奴じゃねーかなぁ……」

「!?」


 アーシアはそれを聞くなり、ダッと走って独り言を漏らした兵士に向かってから肩を掴む。


「おいっ! お前、アルスと言ったか!? 詳しく話せ!」

「えっ、えっ?」


 まさか自分が呼び止められるとは思いもしていなかった兵士は困惑の表情を浮かべるが、アーシアはそれに構わず肩を揺さぶる。


「何故このモンスターがアルスなのだ!? 何を知っているんだ!」

「いっ、いやっ! なんか、何時間か前にドルベさんが、いや先輩が言ってたんですよ! 『アルスとか言う奴が妹を殺されたって復讐に、この街に向かって来てる』って! 

「……!!!」

「で、『そいつは胸に傷跡がある、黒い狼みたいな姿をしてる奴だ』とも言ってました! だから、ひょっとしたらコイツがそのアルスなんじゃないかと……」


 アーシアは今自分が聞いた言葉をすぐには信じられなかった。


「まさか……!」


 そしてその兵士を置き去りにして、動かなくなった「敵」の亡骸なきがらに走り寄る。


「…………」


 アーシアが聖剣によって一撃を加えた、大きく切り裂かれた胴体には、確かに言葉通り大きな傷跡が残っていた。

 それは人間サイズにして考えたなら、丁度剣を突き刺された者に残されている物に瓜二つだ。


「ばか、な……」


 それによって、アーシアは自分が打倒した相手が「王国によって追放を受けた兄、アルスなのだ」と確信に至った。


「……っ、……っ!」


 そしてしばらく目を伏せていたかと思えば、アーシアは自分が取り返しのつかない過ちを犯した事に涙を流し始める。


 自分が唯一気にかけていた、勇者パーティの新人冒険者。

 自分の不甲斐なさから夢と希望を失い、王国から追放されてしまった二人。

 自分と共に世界を救う事もできた筈の兄妹の、唯一生き残った兄のアルス。


 それに自分は、自ら引導を引き渡してしまったのだ。




「……」


 だが、アーシアには最早嘆いている暇など無い。


 これからの事後処理、逃げた勇者への弾劾、そして兄妹を破滅に追いやった国王への追求。


「……っ」


 どうする事も出来ない後悔を胸に秘めながらも、アーシアは自分の頬に伝うそれを小手で拭い去った。


 全ては、まずこの街を健全な状態に戻してから。

 騎士団長としての責務を持ったアーシアには、嘆いている暇などありはしなかったのだ。


「こんなデカブツ、どうすりゃいいんだよ?」

「何とか細切れにして運ぶしかねえだろ。ほら、早く砦から応援を呼びに行けよ」


 誰にも気付かれないように慟哭どうこくするアーシアからまた少し離れた場所では、獣の亡骸をどう処分するか頭を悩ませる兵士に対して、小隊長らしい兵が指示をしていた。


「ったく、どうせなら王都に出ろよな。何だってこんなどうしようも無い奴ばっか集まるような街に……」

「ケケッ、お前も昨日は娼館で新しく連れて来られた奴隷女とよろしくしてただろうが」

「うるせーよ。そうでもしなきゃ、やってらんねーよ」

「ウソつけ。あの後お前の相手をした奴隷は寝込んだそうじゃねえか」

「抵抗しやがったからだよ」

「ウヘヘヘッ!」

 

 そして目の前に横たわる巨大な獣の腕の前で、下衆な会話を繰り広げる。


 だが、そんな笑い声を上げる二人の兵は次の瞬間。


「ったく、今夜娼館は開くんだろうな……!?」

「へへっ、ゲス野郎がっ……!?」


 最期の言葉を残したまま、鎧を着込んだままの下半身だけを残して上半身を消失させていた。


「うっ、うわぁぁぁぁぁ!!!」


 その光景を近くで見ていた兵士の一人が、恐怖に染まりきった声を辺りに響かせる。


「!?」


 アーシアがその声に反応して、顔を向けたその先には。


…………グゥゥゥ…………!


 胸の傷跡を残したまま、聖剣による傷を完全に癒したアルスが目を見開いていた。





結局勇者は次にしました。


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