第十七話:聖剣の力
「来るがいい。貴様などには、好きにはさせん!」
胸の内にくすぶる感情を押し殺したアーシアは、決然とした表情を浮かべて遠くにいる巨獣を真っ直ぐと睨みつけた。
「あれは、アーシア騎士団長!? やったぞ、聖剣を持ってるアーシア様がいるならあんな化け物怖がる必要は無い!」
巨大な獣が表れた事に恐れをなして街から脱出しようとしていた兵士の一人が、アーシアの姿を見て声を上げる。
「アーシア騎士団長様って、あのすげぇ剣を持ってるとか言う……!? だったら、怖い物無しだ!」
「逃げた奴は構うな! ビビって無い奴は武器を取って戦え!」
「ヒャッホォ! 騎士団長さまさまだぜ!」
それに釣られて、逃げ惑う群衆の中から一人また一人と姿を表す兵士達。
「……何をしている!? 早く住民の避難を……!」
そんな兵士達の姿を見たアーシアは、自分が下した指示とは違う事を始める一般兵達に檄を飛ばした。
「何言ってんですか、この街の奴らなんか助ける義理無いですよ!」
「そうそう、やっぱり兵士は化け物退治しないとですぜ!」
「貴様達……!」
アーシアは自分が直接に軍事訓練を行っている麾下の騎士団員達とは全く違って、勝手な事を始める兵士達に怒りを覚えていた。
――――国の人間を守るのが王国軍の使命だと言うのに、こいつらは自分達の闘争本能を満たす為だけに戦おうとしている――――!
だが、アーシアには時間が無かった。
グァァァァァ……!!!
目の前で大きな口を開き、憎しみを吐き出すような咆哮を上げる巨獣。
その目線は先程勇者が紛れていった、群衆達に向けられている。
「クッ……! やはりこの街と、人間たちが目標なのか……!」
ズズンと地面を響かせて軽々と防壁を踏み越えた巨獣に対して、アーシアは勘違いしたままの考えを走らせていた。
「武器を持って来たぜ! 皆手に取れ、デカブツのモンスター狩りだ!」
そこに弓矢や長槍を集めてきたらしい兵士が現れ、それに歓声を上げた他の者たちも次々にそれを受け取って巨獣への攻撃を好き勝手に開始し始めた。
「オラオラァ! くらいやがれ、化け物が!」
「アーシア様、俺達の攻撃に怯んだ隙にデカイのをかましてやって下さい!」
……グゥォォォ……!
次々と射掛けられる弓矢に、一点を見つめていた巨獣は自分を攻撃する者に対して当然の反応で見下ろしていく。
その体毛に見える黒い巨体に次々と矢が突き刺さるが、それはすぐさまポロポロと落ちていった。
「貴様達、やめろ! やめろと言ってるんだ、住民の避難を……!」
指示を全く守らない兵士を一喝しながらも、アーシアは手に持った聖剣に自分の魔力を流し始める。
「……もういい! これよりデュランダルの力を解き放つ、だから一瞬でも気を逸らせ!」
戦いの熱量によって、最早兵達をコントロールできないと悟ったアーシアは魔力が充填済みの聖剣に能力を発動する為の魔力を流し込み終える。
パァァァ……
機能を開放する聖剣はまばゆい光を放って辺りを照らし、それを見た兵士達も興奮を最高潮に高ぶらせていく。
「すげぇ光だ、あれが聖剣って奴か!」
「ヘッ、魔王軍だか何だか知らないが、もうテメーは終わりだ!」
アーシアの言うことなど全く遂行しようとしない兵士達は口々に好き勝手な言葉を吐き、更なる攻撃を巨大な獣に対して行い続ける。
グァァァァ!!!
だが、それに対して砦一つ程もある大きさの獣は大きな声を響かせながら反撃を行った。
「なんだコイツ……! 弓矢が全然効いてねぇ!」
「アーシア様、早くその剣をぶっ放して下さいよ! 何をグズグズしてんですか!」
「うっ、うわぁぁぁぁ!!」
何度目かの地響き。
それによって、アーシアよりも巨獣に対して近い位置にいた兵士達の一団が踏み潰されて地面へと飲み込まれていった。
「クッ……!」
それを見たアーシアは愚かとは言え兵が犠牲になっていくのに耐えかねて剣を振りかぶり、その力を放った。
「喰らうがいい、モンスターよ……! これが人類を守る、神から与えられし我が聖剣の力だ……!」
次の瞬間に起こった事は、アーシア以外この場にいた全ての者が理解する事は出来ない程の衝撃だった。
「なっ、何だ……っ!?」
「伏せろ、伏せろぉぉ!!」
巻き起こる、目も開けていられない程の眩い魔力の閃光。
同時に起こる力の波動は鎧を着込んでいる筈の兵士達すら吹き飛ばされそうな程の衝撃波。
飛んで来た小石がうつ伏せになった者達の兜に当たり、ガンガンと大きな音を立てて彼方に吹き飛んでいった。
グォォォォ……!
その中に紛れるのは叫び声を上げる巨獣の声と、更に大きな物が地面に倒れる大地の振動。
「……」
そして、その暴威のような奔流がやっと収まってから顔を上げた兵士が見た光景は。
「……全員、もう顔を上げていい」
魔力を消費した事による疲労を浮かべる女騎士団長と、胴体を大きく切り裂かれ、黒い煙を放ちながら幾つもの家屋を押し潰しながら倒れ伏せる巨獣の姿だった。
「……だが、このモンスター……」
だが、巨大な死骸と化した街の脅威を排除したと確信したアーシアは違和感に苛まれていた。
――――自分が今まで戦ってきたモンスターは、あくまで異形を成した未知の化け物達だ。
だが、ここれほど巨大な個体は見たことが無い。
それに、この黒い靄のような物は――――?
巨大な体から湧き上がっているソレを見るアーシアは自分の中で「何かがおかしい」という疑問を拭いきれないでいたが、今のアーシアにそれを詮索する余裕は無い。
「……だが、これで街の脅威は取り除かれた。良しとするか……」
「おぉぉぉ! やった、アーシア様がやったぞ!」
「化け物が! 王国万歳、アーシア様万歳だぁぁ!」
アーシアが巨大なモンスターを討伐した事に歓喜の声を上げる兵士達は、立ち上がって自分たちの騎士団長が偉業を成した事に喜びの声を上げていた。
シュゥゥゥ…………
辺り一体に漂っている黒い煙が、それを放つ獣の亡骸の中へと戻って行く事など気付きもしないままに。
やったか?(やってない)
今回がこの物語で唯一、暴走アルスが負け(?)て倒れるシーンの予定。
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