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第十五話:非常事態

 


 少し離れた場所で圧倒的な虐殺が行われていた、汚れた街の小さめな城壁にある詰め所では。


「ほら、これで俺の勝ちだ」

「あー! クッソ、またかよ……」


 王国軍に所属しながらも、職務をまっとうするつもりなどサラサラ無い二人組の兵士達がカード遊びに熱中していた。


「クックック、どうすんだ? もう一戦やっても俺の勝ちは揺るがないけどな」

「うるせーな、もう一戦だ!」


 この二人組は今の時刻、持ち場である街の簡素な城壁内部で来訪者に対して厳しい検閲を行う任務を帯びていた。


 だがそれらを全て放り出して、職務違反であるサボタージュにふけっているのだ。


 外には三人チームを組んだ警備任務の同僚を立たせておいて。


 だが、その最後の一人も顔見知りでもあるドルベや荒くれ達が「化け物退治」に出かけたのを知って見物に出ているに等しい。


 つまるところ、この街は兵士に至るまで全てが腐敗と怠惰に包まれていたのだ。

 外のドンパチに興味が無かった二人は、再びゲームを再開させながら世間話に花を咲かせる。


「こないだ来た警備隊長は最悪だったなぁ」

「ほんとだぜ、つい最近だって二人連れで王都に向かってた兄妹を素通りさせちまうんだからな! 妹の方は別嬪べっぴんだったってのにな! あぁ畜生! もう一回だ!」

「いいじゃねーか。今頃その隊長さんは山賊に襲われたって事で『戦死』して地面の下なんだから。……ほい、また俺の勝ち」

「あぁぁぁ! 畜生、畜生!」

「ハッハッ、何度でも受けて立つぜ。……そういや外のドンパチが収まったなぁ。ケリがついたのかね」


 外で起こっている事態に何の異常も感じていない二人は遊戯を続行しており、相方に対して何度も勝利を収めて勝ち越している片割れは気分を良くして外の成り行きを気にかける。


「知らねぇ、早く配り直せよ!」


 それを許さないのは、負けが込んで躍起やっきになっている同僚だった。


 だが、そんな所に飛び込んできたのは外に出ていた最後の一人。


「おいお前ら! 今すぐ警鐘けいしょうを鳴らせ、早く!」

「んー? どうしたんだよ、血相変えて」

「何してんだ、早くしろよ!」


 上機嫌にカードを配っていた兵は乱入してきた仲間に疑問符を浮かべる。

 そして次こそ勝ちをと意気込む方の兵は鼻息を荒くし、もうひと勝負をうながしていた。


「あのバケモノが、ドルベ達を全滅させてこっちに来てやがるんだ!」

「なんだよ、息巻いてた癖にアッサリ負けたのかよ。だらしねーなぁ、じゃあちょっと待ってな……」

「ふざけんなよ、逃げんのか!?」


 全く温度差が違う二人組と一人はそれぞれ言葉を放つが、血相を変えた最後の一人は唾を飛ばしながら大声で二人に指示を飛ばす。


「急げって言ってるんだ! もういい、俺がやる!」

「オイオイ、俺の方が近いって。ったく、大陸最強の王国軍兵士がなんてザマだよ」

「関係無ぇ! 次の勝負から逃げるなら、掛け金は全部返してもらうからな!」


 呑気な態度を崩さない勝ち越し兵士はゆったりと腰を上げるが、それを急かすように見つめるのは最後の一人。

 それに全く興味が無い負け込み兵士は、最早次の勝負のことしか考えていなかった。


「早く! 早くしないと、あの化け物が……うわあぁぁ!」

「……ん?」


 だが、次の瞬間最後の一人は断末魔を上げながら二人の前から姿を消してしまった。

 やっと腰を上げた勝ち越し兵士はきょとんとしながら、同僚が一瞬で姿を消したことに不思議そうな顔をする。


「あ、えっ……?」 


 聞こえて来たのは、今まで自分が聞いた事もなかったような轟音。


 そして間抜けな声を上げた勝ち越し兵士は、更に次の瞬間その小さな建物半ばごと、なにか巨大な爪の生えた脚によって薙ぎ払われたのだった。


「……何、だ?」


 負け越していた兵士もそれによって、やっと事態の深刻さに気付く。

 だが、手遅れだ。


 次の瞬間、建物の中に最後に残ったその男も同僚と同じ末路を辿る事になったのだった。





 


 そして、街の入り口で異常事態が起こっている事など知りようも無いフリオは。


「はぁっ、はぁっ……! 手間がかかる女だぜ……!」

「フーッ、フーッ……!」


 目の前で最後の一枚にまで衣服を剥がれてしまった金髪の女騎士団長に対し、息を切らせながら舌なめずりをしていた。

 上半身を完全に裸にされてしまったアーシアは拘束された腕でその部分を隠しながらも、顔を真っ赤にしてフリオに対し必死の敵意を向けている。


「いい加減、観念しな……!」

「……っ!!」


 意を決して最後の一枚、アーシアの下着を手にかけ暴れ回る体から脱がそうとするフリオ。


カン、カン……! カン、カン……!


 しかし、それを邪魔するかのように遠くからは警鐘の音が鳴り響いてきた。


「チッ……何だよ、いよいよって時によぉ! またドルベの馬鹿が、怪物退治を終わらせて入り口で武器を暴発でもさせたのかよ……!」


 フリオは舌打ちと共に、自分のお楽しみを邪魔してくる音が何なのかを確認しに部屋の外へ飛び出した。



 だが、薄汚れた街の通りに姿を表したフリオが見たのは異様な光景だった。


「なんだ、ありゃあ……!」


グォォ……!


 少し離れた街の防壁、長梯子ながばしごを使わなければ登る事も出来ない高さの建造物から姿を覗かせているのは、一匹の巨大な黒い狼型の獣。


「……ドルベの馬鹿は、大きさもわかんねぇぐらいの阿呆だったのかよ……」


 見れば防壁の外に置かれている筈の詰所からは土煙が上がっており、警鐘を鳴らしているのは全く別の方向にある詰所からだ。


「あいつが、あのアルスだってのか……?」


 呆然とするフリオはその黒い獣によって、離れた場所にいる筈の自分に向かって見た事もない程の憎悪を差し向けられていた。


グルルル……


 それは、圧倒的な程の力の権化だった。

 

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