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第十四話:ドルベのみじめな最期



「……何なんだ、この、バケモンは……」


勇者から武器を貰い、十人ばかりの手勢を率いて迎撃に向かったドルベは街の外れで呆然とした表情を浮かべていた。


 目の前では、ソレに向かって必死で全力の攻撃を加える荒くれたちが叫び声を上げる。

 

「撃て、撃てぇ! 畜生、こんなの聞いてねぇんだよ!」

「おい、ドルベさんよぉ! 早くもっとソイツをぶち込みやがれ!」

「う、うわぁぁぁ!!!」


 地面をズズンと響かせて、ソレの足が離れた場所にいた一人の荒くれを踏み潰していく。


「畜生、死にやがれってんだよ!」


 ごく普通の一般的な獲物を持った一人が何度もソレに向かって弓矢を放つ。


グォォォ!!


 撃ち放たれた矢じりが、その相手の目の部分に命中して突き刺さる。

 その痛みに咆哮を上げる目標だったが、その場所からはすぐに矢が抜けポロリと落ちる。


グウウゥ……!


 血の流れる瞳はすぐさま一瞬で元通りに癒えたソレは、再び怒りに燃える赤い目をその場にいる全員へと向けた。


「駄目だ、こいつに普通の武器じゃ効きゃあしねぇ!」

「早くソイツを使えって言ってんだ、馬鹿野郎! オイ、聞いてんのか!」

「こっちに来るなっ、畜生っ、うわあぁぁぁ!」


 ズズンと地面が震え、また一人目の前で犠牲者が最後の断末魔を上げて大地と同化する。


「うるせぇよ! もう、何発も撃っただろうが……!」


 ドルベは自分に向かって悲鳴のように叫ぶ荒くれ達に毒を吐き、ついさっきの光景を思い出す。

 勇者から与えられた武器の威力は確かに絶大で、放たれたそれは目の前の敵に大きなダメージを与えたように見えた。


 だがその傷跡も今は完全に塞がりきってしまっていて、もはやどこを攻撃したのか見分けがつかない。

 目に見えるものと言えば、ソレが人間の形をしていた時に自分が付けた胸の傷跡ぐらいだ。


「この、バケモンがよ……!」


 ドルベは考える。

 

 用意は完全だったと思っていた。

 復讐に燃える元勇者パーティーの化け物とは言え、たかが一匹数と武器さえ揃えばそれで充分だ。

 

 それに自分は「筋力増強」のスキル持ち、いざとなれば今度こそ殴り殺してやる事さえ出来ると。

 ダンジョンで致命傷を与えた筈なのに死ななかったのは、何かの間違いとしか思えないと。

 片腕を失った事は確かに大きなマイナスだったが、今は街の違法薬師によく効く痛み止めを貰っていた。


 だが、目の前にいるソレはその全てを完膚なきまでに打ち砕いて来たのだ。


「駄目だぁ! 勝てるわけねぇ、俺は逃げるぞ!」

「おい、待て! このまま戻ったらフリオさんに殺されちまうだろうが!」

「ドルベ! テメェ、ふざけんな! もっと凄い奴をフリオさんから貰ってこいよ!」

「早く撃て! あいつに利くのはその魔導兵器とやらだけだろうが!」


 勇者フリオの名を借りて、街の長から()()集めたチンピラ達が罵声じみた声を張り上げる。


「……」


 だが、ドルベは自分がどこか別の場所に立っているかのように現実感の無い気分に立たされていた。


 ――――こんな筈じゃなかった。


 俺はこれから王と勇者にもっと取り入って、甘い汁を吸って、騎士団長になる男だぞ。

 こんなチンピラ達ならどうなったって知った事じゃないが、こいつらとは違う、スキル持ちで、王国軍兵士の俺は、こんな所で終わっていい男じゃないんだ。


「オイ、聞いてんのか! 早くもっと撃てってんだよ!」

「駄目だ、逃げろぉぉ!」

「畜生、この野郎後で殺してやる……!」

「貰った金じゃ割に合わねぇ!」


 ついに荒くれ達は武器を放り投げて一目散に逃げ始めた。


 だがそれを阻止するかのように、目の前のソレがボケっと立ち尽くすドルベを大きく踏み越える。


「おい、こっちに来るな! 殺るんならそこの奴を殺れ!」

「お前ら、固まるんじゃねえ! バラバラに逃げ……」

「うっ、うわぁぁぁ! 助けてくれぇぇ!」

「畜生、畜生……!」


ズズゥゥゥン……


 逃げることに必死になって、ソレから背を向けて走っていた荒くれ達が巨大な両足に踏み潰されてしまった。

 

 それがどけられた地面には、大の男が数人大の字になってもまだ足りない程の足跡が残っている。


「……う、あっ……」


 手に持った、頼みのつなの魔導兵器を落としてへたりこむドルベ。


グルルル……!

 

 目の前には、悪夢のように巨大な獣が自分に向かって怒りと憎しみの表情を伺わせていた。


「……なっ、なあ。悪いのは俺じゃないんだ……」


 自ら兄から大切な妹を奪ったドルベは、震える声で命乞いを始める。


「俺は、ただ国王や勇者の命令に従っただけなんだ……! そりゃ手違いでお前の妹を殺した事は悪かったが、すまねぇ! けど元々お前達を追放させたのはあの二人だ! 俺は、ただの使いっパシリなんだ!」


 ソレを見上げて必死に身振り手振りをするドルベは、同時にスキル「筋力増強」を発動して体に力を満ち溢れさせる。

 

 それはドルベの浅ましい人生から学んだ必死の虚勢だったが、そんなこけおどしは目の前のソレに対して何の役にも立たなかった。


グォォォォ!!


「本当に悪いのは、あいつらなんだ! それに、ほら見えるだろ!? 勇者はあっちの街にいるからよ、先にアイツを殺ればいい!」


 言葉が通じているのかドルベにはわからなかったが、それを聞いた巨大な獣は確かに街を一度顔を向けて確認する。


「そっ、そうそう! 先にあっちを殺った方がいいぜ!」


 反応があった事に卑屈な笑みを浮かべるドルベ。


「だから、俺は、た、助けっ……!」


 振り下ろされる巨大な前足。

 何度目かの振動を大地に震わせて、みっともなく命乞いをするドルベは地面に飲み込まれていった。


……ウォォォォ!!


 渾身こんしんの力でパラパラと小石を巻き上げ、憎い仇を踏み潰したソレは怒りの咆哮をただ一声上げるだけ。


 足がどけられたその跡には、ドルベ自身見下していたチンピラ達と同じ巨大な足跡が残っている。


 それが、王国の使いっぱりとしての人生しか過ごせなかった男の、みじめな最期だった。






グルルル…………


 愚かにも貧弱な装備でアルスを迎え撃とうとして全滅したドルベ達の、ほんの少しだけ見える跡を眺める獣。


 だが、獣は自分の中に溢れる憎しみが全く晴れなかった。


 ドルベの最期の言葉を獣が正しく認識できているのかは誰にもわからなかったが、その目に次に写ったのは最早記憶の片隅に残っているだけの、あの荒くれ達が巣食う汚らしい街だった。



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