第十二話:アーシアと勇者の力
アーシアは王国にとって由緒騎士の家系に生まれた少女だった。
花のように可憐な幼少のアーシアは貴族達の中でも良識的な両親に恵まれ、健やかな精神と確かな倫理観を育みながら美しい少女へと成長を遂げる。
元から規律やルールという物を重んじる風潮にあった家庭において、アーシアはその感性を鍛錬や集団行動から成る騎士団への憧れへ向けていた。
故に両親へと「城の騎士団に入る」と打ち明けた時も、少し困惑げな表情を浮かべられながらも認められたのだった。
全ては「人間を滅ぼそうとする魔王軍」に対する、「愛する国民達を守る」という目的の為に。
「貴様……!」
だからアーシアは、目の前にいる男が「王国の最高個人戦力である勇者」だという事を内心認められないでいた。
「へへっ……。そんな怯えなくてもいいって、お前の体はそう出来るようになってんだからさ」
新たな勇者パーティーの仲間に迎え入れられた誠実な兄妹を反逆者として追放し、自らの保身のみを考えて、更に自分を自らの欲望のはけ口にしようと身構える男が、人間の希望の光なのか。
「……!」
ギリ、と歯を噛みしめる。
手に握られた剣は、騎士団長たる者に代々受け継がれた、神から与えられた聖剣。
それは汚れた街の一室、下衆な笑いを浮かべる男の前で白く輝いていた。
「おいおい、オリジナルの魔導具だからって、勝てると思ってんのか?」
「……」
フリオの誠実さや倫理感など欠片ほども感じられない言葉に、決然とした表情を浮かべるアーシア。
「しょうがねぇな、だったらまずは力比べだ」
そう言うと、フリオが見に纏った鎧は紋様を浮かべて鈍く光を放つ。
勇者として認められた者に許された意匠の鎧は、アーシアにとって禍々しい悪の光のような気さえしていた。
「行くぜ……!」
「!!」
言葉と共に一歩を踏み出したフリオに対し、迎え撃つような動きで剣を振りかぶるアーシア。
その型は騎士団に所属する者なら誰もが見惚れる程の、美しく無駄の無い動きだった。
だが、
「甘いんだよなぁ!」
「なっ……!」
ギィン、という音と共にその一太刀は防ぎ止められる。
「くっ……!」
ただ腕を上げ、自分の剣を籠手で受け止めただけのフリオ。
しかしその装甲は聖剣を持ってしても切り裂く事が叶わず、ギギ、と音を立てて震えるばかりだ。
「へへっ……。どうした、オリジナルの聖剣様は後発の魔導具に手も足も出ないのか?」
「……!」
そこでアーシアは、自らの立ち位置が決定的なまでに不利な事に気付いた。
手に握られた聖剣「デュランダル」は、来たるべき魔王軍との戦いに向けて神から与えられた原初の魔導兵器だ。
その能力は内部に込められた魔力を爆発的に増幅させ、一つの爆発的なエネルギ―として撃ち放つ事。
狭い室内ではその力を存分に振るうことなど出来るはずも無く。
ならばアーシアの手に持たれている物は、ただ一振りの「とてつもなく切れ味が良い」というだけの長剣に過ぎなかった。
「……オラ、よっ!」
「ああっ!!」
自らの「魔力増幅」のスキルを存分に発揮しながら、光り輝く鎧からパワーを受け取っているフリオはもの凄い力でアーシアの剣を振り払う。
体制を崩してしまった聖剣の担い手は、力を振るえない聖剣を握りしめたまま地面にへたり込んでしまった。
「へへっ……! どうだ、アーシア騎士団長様? 王国最強の勇者様のスキルと、それを最高の形で力にする魔導具の性能はよ?」
「……クッ……!」
すぐさま体勢を整えたアーシアはその場に立ち上がり、再び剣を構えてフリオを睨む。
だが、その瞳には最初の気勢が削ぎ落とされてしまっていた。
(……悔しいが、この場所ではこの男の力には敵わない……!)
「どうした? 逃げないのかよ、アーシア様? それとも俺に抱かれる覚悟が出来たのか?」
脳内で渦巻く思考を読み取るかのように、フリオは余裕を見せながらおどけてみせる。
「……!」
それを更に強く睨みつけたアーシアだったが、それが虚勢だという事は本人が一番良くわかっていた。
「っ!」
次の瞬間、アーシアは身を翻して部屋の外に繋がる扉へと飛び跳ねようと試みる。
「逃がすかよ!」
だがそれを見越していたフリオは、鎧の力によって増幅された俊敏さも相まってアーシア以上の速度で飛び掛かった。
「やめっ…手を離せっ!」
「誰が離すかよ! 勇者になってからこっち、お前にはグチグチうるせぇ事を言われて鬱憤が溜まってんだよ!」
あの兄妹を案内した時に見せたように、アーシアは事ある毎に勇者フリオを非難していた。
それは「人間を守る」という使命感を帯びた美少女の苛烈さの表れではあったのだが、それをフリオは「自分の邪魔をする人間」としての認識しか持ち合わせなかった。
「暴れんなよ……! 俺はお前の、未来の旦那様だぜ!」
「誰が、貴様なんかのっ……!」
ジタバタと暴れまわるアーシアを、増幅された 膂力で無理やり押さえつけるフリオ。
その熱でアーシアの体からは汗と美少女のたまらない香りが振りまかれていき、羽交い締めにしようと試みるフリオを熱狂的な欲望に塗れさせていった。
しかし、そこにフリオにとって迷惑極まる来客がある。
コンコン、と扉をノックする音と共に、先程勇者が暴力を振るった相手の声が聞こえて来たのだ。
「あっ、あのー……フリオさん、ちょっといいですか? アレンらしい黒いバケモンがこの街に向かってるって情報が入ってきたんですけど……」
兄妹を洞窟で襲った時には考えられない程へりくだった声で、扉越しにフリオを呼ぶのはドルベの声だ。
魔力が込められた魔導具を貸し与えられた粗暴な顔の男は、その武器の試し打ちをしに街の郊外へと出ていた筈だった。
「テメェ、邪魔すんな! 来たんだったら、さっさと迎撃しに行きやがれよカス野郎!」
暴れまわるアーシアを押さえつけながら、扉の向こうに向かって罵声を放つフリオ。
「あの兄妹が、こっちに来ているのか!?」
そして必死にフリオを引き剥がそうと剣を手放し、抵抗するアーシアからは驚きの声が上がった。
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