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第十一話:怒れるアーシア


「あの妹ちゃんが、手に入らないなんてなぁ……」


 アルスが自分に向けて復讐を誓った事など考える事も無い勇者フリオは、街の部屋でため息をついていた。


「はーあ……」


 気にかけていた美少女が馬鹿な手下のせいで死んでしまった。

 それを期待していたオモチャが手に入らなかった子供のような気分で受け止めていたフリオは、軽く息を吐きながら次の獲物を探す為に身支度を整える。


「どっかに逃げちまった町長? だっけ? でも探して、掘り出し物の奴隷でも見繕って貰うかなぁ……」


 再び新たな『お目当て』を探そうかと頭を巡らせるフリオ。


 だが、そこに勇者自身にも想像が付かなかった人物が姿を表した。


「勇者フリオ!!」

「おわっ!?」


 その美しい金髪の、美しい鎧装束を身に纏った人物はバンとドアを開け放ちながら大きな叫び声を上げる。

 

 それに思わず驚きの声を上げたフリオは、部屋に乱入してきた者を確認するなり気が抜けたような声をかけた。


「なんだ、騎士団長のぉ、アーシア様じゃんかぁ。脅かすなよな」

「貴様……っ!」

「一人で来たのか? 騎士団はいいのかよ」

「黙れ!」


 へらへらとした態度を取るフリオに対して、怒り心頭の様子で詰め寄るアーシア。


「あの兄妹を追放したその足で、こんな汚らわしい街に来ていたとはな……! やる気の無い奴だと思っていたが、これほど腐っていたのか!」

「へへっ、チンピラに絡まれでもしたか? 駄目だぜ、栄誉ある王国の騎士団長さんがこんな街に来ちゃ」


 フリオは下卑た笑いを隠しもしないで、更にアーシアの不快感を煽るような言葉を放つ。


「ああ、絡まれたさ……! 王都に戻れば、まず第一にこの街の権力者を裁きにかけようと思ったぐらいにはな!」


 アーシアは供の者すら連れずに、馬で一足に勇者が向かったこの街へと乗り込んでいた。

 故に必然、数を頼みにした荒くれ達によからぬ思惑で声を掛けられる事が頻発したのだ。

 中には暴力を持ってアーシアを拘束してしまおうとする者まで現れたので、美しい騎士団長は自衛の為に剣を抜く事態にまで発展した。


「私が王都に戻った暁には、必ずこの街からあのような者達を討伐する任務を陛下に賜ってやる……!」

「やめといた方が良いと思うけどなあ」

「黙れ! 貴様には聞きたい事があるんだ!」

「んん?」


 フリオは何のことだかわからない、という風にとぼけながらアーシアの整った顔を眺める。


「よもや忘れたとは言わないだろう! あの兄妹が陛下によって追放された時、貴様が陛下にあらぬ事を吹き込み、追放するよう差し向けていたのは明白だった! よくも……!」

「ああ、なんだそんな事か。 もっと艶っぽい話かと思ったぜ」


 フリオは大げさなまでに落ち込むような仕草で、怒りを向けてくるアーシアに対して嫌らしい目線を送った。

 

「貴様は一体、何故あの兄妹を排除しようとしたのだ!」


 それを全く眼中に無い様子で勢いのある言葉を放つアーシアに対して、フリオは相変わらず飄々(ひょうひょう)口を開く。


「そんな事聞く為にこの街まで来たのかよ。……じゃあしょうがねぇ、少しだけ話しをしてやるよ」

「……!?」


 アーシアの剣幕を気にもしない様子のフリオはドカリと椅子に座り込んで、机に置いてあったワインをグラスに注いだ。


「……ングッ、ングッ……プハァーッ! いいか、王国の名誉ある騎士団長のアーシア様?」

「……」


 アーシアは腹の中に据え兼ねた物を抱えたまま、臨戦態勢を崩さないままで聞いた。


「邪魔だったんだよな。俺にとって、あの兄妹はよ。あのままだったら王様はともかく国民達にとっての勇者があいつら兄妹になっちまいかねなかったしな」

「貴様……!」

「おっと、待て待て。アンタは俺が全ての黒幕みたいに言ってるけどさ、王様だって馬鹿じゃないんだ」

「!?」

「わかんねーか? 俺は確かにあの兄妹について悪い事は吹き込んださ。だが、それを込みにしたとは言え反逆者として追放するのには理由があるだろ」

「……それは、そうだ」

「思惑があったのさ。俺やアンタにもわかんねー、『お偉いさんの思惑』って奴がさ」

「……」


 アーシアは珍しく神妙な顔で言ってくるフリオに対し、困惑と疑問の交じる表情を浮かべる。


「へへっ。ま、そんな事はどうでもいいさ。俺は今の立場を守って楽しく『勇者様』をやれたらいいんだ」


 だが、そんな事など全く気にもしていないフリオは次の話に話題を変えようとした。


「……で、だけどさぁ。お前って、いい女だよな」

「……何?」


 突然話の方向性が変わった事に、アーシアは訝しむ表情を浮かべる。


「俺と同じぐらいの年頃なのにさ、名誉ある王国の騎士団長様だ。結婚の話だって、引く手数多何じゃないか?」

「貴様、一体何を言っているんだ……!」


 腰に差した剣にそっと手を当て、警戒の色を強めるアーシア。


「俺たち、お似合いの二人だと思わないか? なあ、アーシア……」

「!!!」


 それで金髪の、うら若い女騎士団長はフリオの思惑にようやく気付いた。


「……そこまで、腐っていたのか……!」


 スラリと剣を抜き、それを相手に向ける凛然とした鎧姿のアーシアには再び怒りがともり。


「へへっ。そうこなくっちゃな……」


 酒に酔った勇者は、身に纏った、一見見た目だけは立派な『勇者像』の魔導鎧に力を流し始めた。


 目の前の美しい、堅物の女性を手篭てごめにしてやる為に。






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