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第十話:アルスの誓い

 やっと暴風のような怒りが胸の中から消えた俺は、冷たいダンジョンの中で冷静さを取り戻していた。


「エル、マ……」


 未知の力で身体を変貌させて怒りに支配される前に、最後の理性で壁に座らせたエルマの亡骸を立ち尽くしながら眺める。


「ごめん……ごめん、エルマ……」


 胸から流れた血はエルマの服を真っ赤に染め上げ、もう二度と動くことは無いのだという事を否応なく伝えて来ていた。

 当然何度も自分の中に渡された「癒やし」の力を使ったり、それを持ち主に返そうとした。

 だが物言わぬ体になってしまった最愛の妹は、まるで眠っているかのように安らかな顔で瞳を閉じている。


「なんで、こんな事に……」


 頭の中に、今までエルマと成長してきた平穏な生活の光景がフラッシュバックしてきた。


 幼い頃から一心同体と言わんばかりに成長をしたエルマ。

 「兄さん、兄さん」と泣きそうな顔で俺の後ろを着いてきていた姿。

 今はもう死んでしまった父さんや母さんと暮らした、あの穏やかで温かい毎日を思い返していた。


「……」


 そこで俺は、自分の頬に何かが流れている事に気が付く。

 指で拭ってみたその液体は、いつの間にか流れ出していた涙だ。


「泣いてたのか、俺……」


 未だに現実感が湧いてこなかった。

 

 何をするにも、どこにいるにも一緒だったエルマ。

 その最愛の妹は、今目の前で死体となっているのだ。


「……どうしてなんだ……」


 どこで歯車が狂ってしまったのか、俺にはわからない。


――――俺が妹を連れて国王の所へ向かったから。

――――追放を受ける時、妹を家に帰しておかなかったから。

――――ドルベという兵士に剣を抜かれた時、もっと全力で抵抗しなかったから。

ーーーーいや、最初に俺が「勇者の仲間達に入りたい」なんて願いをエルマに打ち明けたその時からなのか。


 俺はあの玉座の間で言われた、国王からの言葉を思い出す。


『これで勇者の名声を蹴け落とそうとする貴様の叛意はんいは明確となったわ、逆賊ぎゃくぞくめ!』


 俺たちが一体何をしたって言うんだ?

 どうして妹は死ななければいけなかったんだ。


 何もかも判然としない。


「……」


 だが、俺にはあまり時間が無かった。


 俺は妹を殺された上に、直接の仇であるドルベと言う兵士を討てなかった。


 今こうしている間にも、俺が反逆者となった事は奴から伝令が飛んでいるかもしれない。


 そうだとしたら、いずれ故郷の村にもお触れが届くだろうし、そうなれば魔王軍の支配地域にほど近い村など、ただでさえ少ない商人などの往来を禁止されたり重税を課されたりするかもしれないのだ。


 それだけはなんとしても避けたいし、何より俺はエルマの体を生まれ故郷の土に埋めてやりたい。


「……」


 俺は気がつけば、物言わぬエルマの顔をもう一度じっと見つめていた。


「……早く帰ろう、エルマ。俺たちの家に……」


 体の中に眠る、俺とエルマのスキルが混ざった力を感じる。

 何故か今はあの暴風のような怒りが巻き起こらない事を確信した俺はスキルを発動させて、自分の姿を理性持つままの獣の姿に変貌させた。


 幸いというべきか、ここに連れてこられる馬車の中から見えた景色は見覚えがあった。

 このダンジョンの位置は村に近く、それとは反対の方向に進んだ先が荒くれ達に囲まれた思い出のある街だ。

 その先に大きな砦、そして王都と続く道があった。


「ちょっと乗り心地は悪いかも知れないけど……我慢してくれ、エルマ……」


 俺は妹の亡骸を背中に乗せたまま、生命の気配を感じない、暗いダンジョンの中を入り口に向かって駆け走って行った、


 俺自身「これが最後の帰郷になるだろう」という確信を、傷跡の残る胸の内に秘めながら。









 それから俺は、行きとは大違いの速さで故郷の村へと戻った。


 ちょうど何かの用で入り口に立っていたらしい親友のエリックは、真っ黒で大きな狼型の獣と化した俺をひと目で見抜いたらしかった。


 だが俺は、ここで大きく一芝居を打つ。


 まずはエルマをそっと地面に横たわらせてやると、俺に「アルス、どうしたんだ!? エルマに一体、なぜがあったんだよ!?」と驚くエリックに牙を剥く。


 そして俺の作られた敵意をしっかりと感じ取ったらしいエリックは恐怖に震えて、「アルス……!?」と困惑の声を漏らした。


 だから俺はその感覚を更に大きくさせてやる為に、俊敏な動きでエリックを押し倒して首元に喰いかかろうとしたのだ。


「うわあぁっ! やめろ、アルスっ!」と悲鳴を上げるエリック。


 それを聞いた村の男たちも続々と集まってくる中で、俺はエリックにさも押し返されたかのように身をひるがえした。


 涎をたらし、唸り声を上げる俺に対して「お、お前……アルスなのか……!?」と驚愕の色に染まる皆。

 

 それで俺が正常な状態では無くなった事を理解して貰えたと踏んだ俺は、スッと体を反転させて村から離れて行った。


(ごめん、皆……。ごめんな、エルマ……)


 王国の反逆者となった俺には、エルマを葬ってやる資格など無い。

 これなら皆は俺を「エルマを死なせ、自分自身も正気を失った」と勘違いするだろう。


 例え後から王国の兵が来ても、この村は一切関係が無いと突っぱねてくれるだろう。


 それによって、村は平穏のままで居られるのでは無いかと思った。





「……」


 俺は村が豆粒程に見える、あのエルマとの楽しい旅路が始まった場所に戻ってきていた。

 あの、エリックから貰った木の実を食べて妹と笑いあった場所に。


『エリックさんてば、こんな悪戯するなんて!』


 俺の脳内に、あの可愛らしい笑みを見せてくれたエルマの顔が思い出される。


 それをポッカリと胸に穴が空いたような気持ちで噛み締めていた俺だったが、次に脳裏に浮かび上がるのはあの三人の男の顔。


 話を全く聞くこと無く、俺を王国の反逆者として断じた国王。

 そして恐らく、裏で全ての糸を引いていた勇者フリオ。

 ……そして、俺の目の前で妹を殺した兵士ドルベ。


「……あいつら、だけは……!」


 俺はその三人の顔を、永遠に忘れないようにと記憶の中に焼き付けた。

 

 そしてもう一度、エルマと旅をした道を猛然とした速さで駆け始める。


「……あの三人だけは、俺がこの手で……!」


 失ってしまった物が二度と帰る事は無いと知りながらも、この胸に残る怒りと憎しみを抑えきれなくなっている事を自覚しながら。


 それは俺の、そして優しかったエルマから与えられた使命のようにも感じられた。

 


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