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第九話:勇者の甘すぎる算段

「……で、じゃあアルスが俺たちに復讐しようとこっちに来てるって事かよ」

「た、多分そうだと思います……!」


 フリオは目の前で痛みに耐えながら自分に答える、ドルベを心底見下しながら質問をしていた。

 

「チッ……!」


 苛立ちを隠さず、舌打ちをしながら頭の中で思考を巡らせていた。


 算段は全てが真逆の結果となってしまった。

 兄を殺して妹を手に入れる筈が、妹の方が死んで兄は自分たちに復讐をしようとしているらしい。


「お前なんかに任せたのが、失敗だったなぁ!」

「ぐぎぃっ!」


 収まりがつかないフリオは、目の前の無能を更に蹴る。

 二発、三発とそれを続ける。


「ぐっ、ぐひぃっ!」


 アルスによって腕を失い、さらに暴行を加えられた事でドルベはすっかり縮こまっていた。


「ケッ……!」


 ただ震えて暴力から身を守るばかりの兵士を見下ろしたフリオは、そのまま自分の荷物が置かれた部屋の片隅へと向かってからゴソゴソと何かを取り出す。

 それは大きな筒状の、この世界の一般人には見覚えの無い材質で作られた物体。


「オラ」

「……?」


 ゴドン、と地面に放り投げられたソレをドルベは不可解な目で眺めた。


「これは王国が開発中の、魔導兵器の試作品の一つだ。俺が魔力を込めてるから、もう撃とうと思えば撃てるようになってる」

「へっ……?」


 疑問符を浮かべて自分と大筒を見比べるドルベに、フリオは更に苛立った声で言い放つ。


「へっ、じゃねぇよ。こっちに来るんだろ、アルスは? お前がこれ使って、自分で決着着けるんだよ」

「……!」

「これの威力は折り紙付きだ。なんせ、別の街で逆らった奴の家にでっけぇ大穴を空けちまったぐらいだからな」


 フリオの言葉は真実だった。

 勇者としての身分に加え、この男には、ある力がある。

 

 スキル「魔力増幅」。

 

 それはフリオを勇者としての身分に持ち上げる事に成功させた、神から与えられた唯一無二の力だった。

 フリオは自らの中にある魔力をいくらでも増幅させる事が出来た。

 それはすなわち自分が魔力を切らしてしまう事が無いという意味である。

 

 現在王国で勧められている「魔導兵器」という物は、要するに攻撃魔法を誰でも簡単に使えるようにするという目標で作られた武器。

 全てが人間の体内に宿る「魔力」をエネルギー源として動く、これまでの武器防具や魔法の存在を全て過去のものに変えるような軍事兵器だった。


 それをフリオは、文字通り無限のエネルギーを使って常に全力の状態で放つ事が出来る唯一の人間なのだった。


 フリオは最早王国軍の新しい力である魔導兵器軍にとって、なくてはならない存在。


 魔導兵器の欠点は誰もが想像し得る「魔力エネルギーの枯渇」という問題たが、それをフリオは全く無視して使用出来るし、何より大きな魔導兵器には莫大な魔力を使用する。


 スキル「魔力増幅」は王国の尽きないエネルギー源として破格の能力にほかならなかったのだ。


「こいつを使って、俺があのバケモンを……!」

 

 ドルベは自分に与えられた物の威力を知るなり、自らの中に闘志が湧き上がるのを感じていた。


 それはまるで今までの自分の失敗を全て帳消しに出来るかのような、夢の武器だ。


「……ありがてぇ! これなら、あのバケモンだってイチコロだぜ……!」

「よかったな」


 そう言ったフリオは、盛り上がっているドルベをもはや無視するかのように酒に酔った頭をフル回転させ始める。


 ――――スキル「獣化」とやらがどれほど強力な物かは知らねぇが、これなら何とかぶっ殺せるだろ。一応、面倒になる前に街を出とくか……?


「……」


 ――――いや、別にいいか。まさか本当に『死なない』訳じゃあるまいし。コイツが頭と首に攻撃を食らってもピンピンしていた、なんて話はどうも胡散臭くなってきたしな。


 それに、この『魔導兵器』という物がいかに強力な武器か。

 

 フリオは頭の中で、一度だけ見ていた光景を思い返した。

 それはつい最近、騎士団長のアーシアに与えられた『聖剣』の能力を垣間見た時の話だ。


 この街と王都の間には、一つの大きな砦がある。

 そこで魔王軍との戦争に備えて最新の魔導兵器である剣を受け取ったアーシアは、その力を存分に奮ってその場にいた者達を驚かせたのだ。


 若くして騎士団長に選ばれるだけあるアーシアの魔力量は凄まじいとしか言いようが無く、与えられた聖剣はその機能以上の破壊をもたらした。


 聖剣と呼ばれるその魔導兵器は、一振りするだけで内部に溜め込まれた魔力を一方向に向けて全て解き放つ。

 それに本人の魔力を乗せて、繰り出された一撃は、演習地であった平原を轟音と共に駆け抜けて山に大穴を開けてしまったのだ。


――――いざとなったら、うまくあの女にアルスの相手をさせればいいか。ま、その前に俺が片付ければいいだけの話だけどな。


 アルスの力がどれほどの物なのかを、目の前の役に立たないドルベに口で説明されただけのフリオはそんな事を考えていた。


 それはアルスの、まだ目覚めたばかりの力であるという事を考えるような事もできないままに。


「あー? おい、あの……なんて言ったっけ、この街のお偉いさんの、揉み手オヤジは? あいつどこ行った?

「えっ、あ……?」


 ドルベに新しい力を授けたフリオは、そのまま今夜の相手をセッティングさせる為に街の長を探し始めた。


――――へっ、田舎の馬鹿がいくら強くなっても無駄だぜ。俺には無限の力を発揮する、魔導兵器ってもんがあるんだからな!

 

 遠く離れたダンジョンで力を暴走させ、今も尚その能力を急成長させ続けるアルスの事を頭の隅に追いやってしまって。

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