中学時代 前編
「私と付き合ってよ」
中一の7月くらいだっただろうか。クラスの人気者の女子にそう言われたのは。俺は、当時恋愛に全く興味がなかったため、断った。
それがいけなかったのか、次の日から俺はクラスメイトから露骨に避けられるようになった。多分、俺が振った女子の指示だと思う。俺はクラスメイトのみんなと仲良くしていたと思っていたので、かなりショックを受けたことを覚えている。
そして、クラスメイトほぼ全員から無視されるようになってしばらくすると、今度は俺がテストでカンニングをしただとか、女子を振ることを楽しんでるとか、小学生の時に暴力で問題を起こしたと言った、噂が流れるようになった。テストの点は良かったのは真面目に勉強をしてきたからだし、女子に告白されたのはクラスの人気者の子以外に2人いたのだが、ちゃんと誠意をもって断ったつもりだった。小学生の時の暴力問題に関しては、俺は被害者だ。
でも、実際テストの点は良かったり、女子を振ったことがあったり、小学校の暴力問題自体は存在したりと噂の内容に近いことがあったからなのか、その噂は事実かのように広がっていった。集団で無視したりあらぬ噂を流したりと完全にいじめなのだが、俺はそれをすぐに担任に報告し、担任が注意をしたためそれはすぐに鎮静化した。
それでも、クラス内では完全に浮いてしまい、腫れもの扱いになってしまう。そんなときに、俺を支えてくれたのが、幼馴染の澄香と親友の立花亮介だった。亮介は小3の時からの親友で、ずっと仲が良かった人物だ。
二人はクラスが違ったことと、いじめの期間が短かったことで、いじめについては知らなかったようだが、クラスで話す人がいなくなってしまった俺のところによく来てくれて元気づけたりしてくれた。二人とも俺と同じバドミントン部だったこともあり、部活でも一人になることはなかった。
***
ここまで話して有輝が突っ込みを入れてくる。
「え、細川さんと幼馴染なの?」
「うん。実家が斜向かいなんだよね」
「マジか……。え、でも、今回の噂の出所って」
「ああ、澄香でしょ?そうだろうとは思ってる。それも、この後の話に関わってんだけどね」
「……翔太って、そんなにモテたの?」
「えー、あーまあ、そうだな……中1の夏までに3人から告白されたかな」
「それ凄くない?」
俺は話を続ける。
***
中2になっても、噂は完全にはなくならず、クラスでは浮いてしまっていた。しかし、中2のクラス替えで親友の亮介と同じクラスになったので、あまり苦ではなかった。
このころは澄香と亮介とは仲良くしていたのだが、夏休み明けのある日に、俺にとっては大きな事件が起きる。まあ、割とありがちな話なのかもしれないが。
部活を終えて教室に忘れ物をしてしまったのを思い出し、教室に向かうと教室内から声がしたのだ。それは、聞きなれた澄香の声とその友達らしき人の声だった。
「違うって!翔太とは幼馴染なの!」
「ええ?だから仲いいの?」
「そうだよ!幼馴染だから仕方ないから、仲良くしてるだけだし」
まあ、幼馴染だから揶揄われてそんなことを言ってしまったのかもしれないと言われるとそれはそうなのだが、家族以外で話せる相手が澄香と亮介しかいなかった俺にとってはかなりつらい出来事だった。その後からは、澄香と話しにくくなってしまい、顔を合わせても挨拶をする程度になってしまった。
***
「……そろそろ時間か」
「あ、うん、そうだね」
「あと話したいことは1つだけだけど……どうする?」
「放課後でもいいか?今日は部活ないし」
「わかった」
教室に入ると、当然のように視線がこっちに向けられる。向けられるのは冷たい視線……だとおもったのだが、何人かは驚いたような顔をしている。?なんでだ?
「お前、さっき制服の汚れは落としてたけど、頬の傷とか残ってるんだよ」
ああ、なるほど。教室を見渡すと結構の人数が、驚いたような、憐れむような目を向けてくる。中学の時は80パーセント以上はごみを見る目だったが、流石に高校生になると違ってくるみたいだな。……なんで、澄香が驚いた側にいるんだ?仕向けたのはお前だろうに。
「まあ、そんな気にしなくていいか」
「いや、ほんとは保健室行かせたいんだけどな……。せめて顔洗って来いよ」
別にこの程度で保健室なんて行く必要ないだろうに……。まあ、顔洗ってくるか。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」




