救世主有輝
「おい!何やってんだよ!」
そう言って有輝が、殴られて壁にもたれて座っている俺の前に立つ。
「ああ?なんだよ」
「やめろよ!何やってんだ!」
「なんでそんな奴かばうんだよ。そいつの噂、知らねえのか?」
「翔太はそんな奴じゃない!」
……2,3週間の付き合いで俺の何がわかるというのだろうか。でも、それは中学の時に幼馴染や家族から言ってほしかった言葉だ。それが、一番仲良くしているクラスメイトの口から聞くことができたのは、何というか、とてもうれしかった。
「ったくうるせえなあ!」
そう言って、山本が有輝に拳を振るおうとする。自分が殴られる分には一向にかまわないのだが、それはダメだ。
俺は山本に思いっきりタックルをかます。
「あ、この野郎!」
残りの二人が殴りかかろうとしてくるが、それを避けて足を払い転ばせる。……あ~、やっちゃったなあ。やっちゃったなあ……。まあ、仕方ない。
「ごめん、有輝。巻き込んじゃって」
「え、ああいや、翔太こそ大丈夫か?」
「うん、大丈夫。……取り敢えず逃げよう」
「え、あ、おう」
二人で逃げ出す。後ろから、いきなり反撃されて放心状態だった3人が「おい、待て!てめえ!」とか言ってるのが聞こえる。この状況で待つ馬鹿がどこにいるというんだ。
全速力で走って、グラウンドに着く。殴られたり蹴られたりした箇所が結構痛いな……。
「はあ、はあ、はあ、翔太、お前、走るの速くないか?」
「え。ああ、大丈夫?」
「ああ、ちょっと疲れたけどな……」
逃げるためとはいえ全力で走ってしまった……。まあいいか。とりあえず、
「ありがとう、有輝」
「は?」
「え、心配して探してきてくれたんじゃないの?」
「そうなんだけど……。俺、何もしてなくね?」
「いや、そんなことないよ」
「……それならいいけど」
何やら腑に落ちないような顔をしているが、本気で感謝している。「そんな奴じゃない」と言ってくれたことが本当にうれしかった。
「それなら、色々教えてくれよ」
「え?」
「いや、なんか最近様子おかしかったし。今流れてる噂も関係あるんだろ?まさか、ここまで巻き込んどいて教えてくれないのか?」
「俺は、巻き込まないように注意してたと思うんだけどなあ……」
「まあまあ、結果的にこうなったんだし、無理にとは言わないからできるなら教えてくれよ」
「まあ、そうだな。巻き込んじゃったしね」
腕時計を見ると、昼休みが始まってから10分くらいしか経ってない。それならこの場で話すとするか……
俺は、少し前に宮本さんと落とし物を探した、グラウンドの端のほうに歩いて行き、座って中学でのことを有輝に話すことにした。