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噂と呼び出し

「え?」


「なんか、友達の恋愛相談に乗ったのに、その相手の子に手を出したクソ野郎とか、そんな噂が流れてるみたいだぞ」


 一瞬頭が真っ白になった。澄香がいるから、もしかしたらと最初は思っていたのだが、3週間くらい経ったし大丈夫だろうと思っていたのだ。それに、それが有輝の口から聞かされたということもショックだった。有輝は友達じゃない。だから、別にいなくなってもいいと思っていたのだが、実際にそういう状況にさらされると辛い気分になる。……まあ、いいか。別にまた一人になるとしても、中学の頃に戻るだけか。それでも、辛い気分になるな……。


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」


 そう言って、トイレに走る。


 個室に入り、こみ上げてくる吐き気を抑えながら考える。教室に入るまでは特に何もなかったし、噂を流したのは澄香だろう。じゃあ、なんで今?学校が始まって3週間も経って、なぜ今更噂を流すのか。ここ数日で変わったことと言えば宮本さんのことか。俺が宮本さんと関わったことが原因なのか。……俺が誰とどう関わろうがどうでもいいだろうに。いったい何を考えているんだろう。


 これからどうしようか。噂は間違いなのだが、中学ではそれが事実かのように扱われていた。同中学の奴に噂が本当なのかを聞けば、本当だと答えるだろう。反論するべきだろうか。中学の時は、反論をする気力もなく何もしなかった。今になって反論しても、今更何を言っているんだって話になるだろう。ああ、もういいか。どうにでもなれ。


 取り敢えず、教室に戻る。


「お、翔太。大丈夫か?」


「ああ、うん。大丈夫」


 周りからの視線が痛い。今の俺の姿を見て、人の好きな人に手を出せるような奴に見えるのだろうか。かなり地味な奴に見えると思うんだけどな。



 4時間目が終わり、昼休み。さっさと、教室を出ることにする。


「おい、翔太。どこ行くんだよ」


「悪いけど、一人にして」


 やってきたのは屋上に行くための扉の前。教室の空気は中学時代に戻ったかのようだった。ゴミでも見るかのような冷たい視線で見られるのは、慣れっこだと思っていたが慣れるようなものじゃないな、あれは。クラスメイトとはほとんど関わらないようにしているのだが、あの様子だと澄香の発言力は大きいみたいだ。


 教室に戻っても辛いだけなので昼休み中ずっと同じ場所にいた。この前と同じように5時間目が始まるギリギリに教室に戻る。


 教室に入るだけで、周りがざわつく。……この感じも懐かしいな。


 結局、その後は何もなかったし、何もしなかった。



 次の日、登校すると昨日より状況は悪化していた。……まだ有輝は来てないのか。


「おい、石川」


「……何?」


「昼休みに話があるから、ついてこい」


 ああ、これも懐かしい。殴られるかなこれは。今話しかけてきたのは山本竜太郎だっけ。髪を染めていて、かなりガタイが良い、不良っぽい見かけの人だ。俺が通うこの栄南高校はそこそこの進学校のはずなのだが、やっぱりこういうやつはどこにでもいるのだ。


「あーうん、わかった」


「絶対来いよ」


「わかったよ」


 はあ、なんでこうなるのだろうか。



 四時間分授業を受け、昼休み。はあ、嫌なことが後に控えてると時間の進みが早い早い。毎授業半分くらいの時間に感じた。


「おい」


「ああ、うん」


「え、翔太、どこ行くんだ?」


「ああ、気にしないでいいよ。大したことじゃないから」


「え、いや……」


 巻き込みたくはないので有輝にはそう言って、山本の後ろを歩く。山本とよく一緒にいる田口と橋本もいる。はあ、まだ4月なのにもうこんなことが起きるなんて……


 連れてこられたのは体育館裏。……定番だな。人目に付きにくいし、声を上げても意味がないな。


「なあ、お前、次は宮本に手出そうとしてんの?」


「え?」


「中学では、人の彼女奪ったって噂じゃねえか。次は宮本を狙ってんのかって聞いてんだよ。あれか?弱みでも握ってんのか?」


 あーあ、噂が誇張されてる。好きな人を奪ったって噂だったはずなんだけど。……と言うか弱み?あー、そう言う解釈になることもあるのか。まあ、どうでもいいか。


「いや、狙ってないし、弱みとかも別に――」


「嘘つけや」


 話聞けや。何言っても聞かないだろうけど。多分彼らはストレスのはけ口が欲しかったんだろう。悪い噂があって、学年の有名人に手を出そうとしているなんてやつがいたから、そいつを使ってストレスを発散したいだけなのだ。多分、彼らの中では弱み云々も事実になっているんだろうな。正義の味方面してストレス発散できるなんてこれほどおいしい話はないということだろう。しかも、その噂の発信源はクラスの人気者の澄香だ。もしかしたら、お近づきになれるかもとか考えているのだろうか。


「お前、ほんとに調子乗ってんじゃねえぞ。陰キャのクソ野郎が」


 クソ野郎と言われるほど、きみと関わりを持ってないと思うんだけどなあ。まあ、間違ってもないと思うけど、話を聞いただけでクソ野郎と言っているのか。はあ、これが元幼馴染の澄香によってもたらされたものだと思うと、笑えてくる。いじめられるのは3回目だが、1回目はそばにいてくれて、2回目はごみを見るような目で見てきて、3回目は加害者側。ほんと、冗談みたいだな。


「お前、何笑ってんだ?おい」


 今までの中で一番の怒気をはらんだ声が聞こえたと思ったら、頬に激痛が走る。衝撃でかけていた伊達メガネが飛んでいった。ああ、刺激してしまったか。これは俺が悪いかな。話している最中に笑いだしたら、そりゃあ怒りだしても仕方ない。


 3人のうちの2人から暴言を吐きながらの殴る蹴るをされながら、いつ終わるだろうかと思っていたところに声が聞こえる。


「おい!何やってんだよ!」


 これは、有輝の声だろうか。ああ、巻き込みたくなかったんだけどな……

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