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電話

お久しぶりになってしまって、すみません!


実家から帰ってきて、喫茶店で誠さんと話をした後のお話です。いい感じ?のところで更新が止まってしまって、本当に申し訳ない……。

「翔太君、……翔太君」


 トントンと肩を叩かれる。


 ……あれ?


 呼ばれた声に反応すると、外から雨の音がしていて、近くから香ばしいバターの香りがしてきていた。目を開けると焦点があわず、視界がぼやけている。


「……あ、れ?」


「おはよう。今は……夕方の5時半だね。時間は大丈夫かい?」


「え、あ、……はい。大丈夫、です」


 誠さんの言葉を聞いて状況を理解した。


 どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。ここに来たのは確か3時半くらいだったはず。コーヒーを一口だけ飲んだ後、少し誠さんと話してからの記憶がないから……2時間近くも寝ていたらしい。


「すみません、寝てしまって」


「気にしないでいいよ。おなか空いてるだろうし、これを食べな」


 俺の顔を確認してから、誠さんは「寝てるときにお腹が鳴ってたよ」といいながらオムライスと水を俺の前に出してきた。


「ありがとうございます……」


 頭があまり働いていなくて、反射的にそう答えた。確かにおなかが空いている。「ぐぅぅ」というおなかの音を聞いたら更にお腹が減ってきた。だからか、出されたオムライスはいつもよりも、前に一度食べさせてもらった時よりも、美味しそうだ。


「……いただきます」


「うん。……あ、お代はいいからね」


「え、いや、払いますよ」


「頼まれてないのに勝手に出したものでお金はとれないよ。まあ、まかないみたいなものだと思って」


 優しく笑って店の奥の方に行ってしまう。うーん……。まあ、そう言う事なら、ありがたくいただいて、いいのかな……?


「……ありがとうございます。いただきます」


 オムライスをすくって口に運ぶと、空腹なこともあってか、驚く程においしい。たった一口で元気が出てくる気がする。



 ……今日の、母さんの料理はどんな味だったんだろうか。


 ふとそんなことが頭に浮かぶ。でも、いくら思い返しても頭が揺さぶられるような、あの感覚以外は思い出せなかった。




「あれ?」


 数口食べてから、他のお客さんがいないことに気が付いた。


「今日……今ってもうお店閉めたんですか?」


「ああ、うん。今日は元々早めに閉めるつもりだったんだよ。明日は休みにするから。言ってなかったかな?」


「そう、だったんですね……色々と、すみません」


 俺が寝てしまったから、残ってくれていたのか……。こうしてオムライスまで作ってくれて。……起こしてくれればよかったのに、というのは俺が言うことではないか。


「大丈夫、大丈夫。もう美智子は休んでるしね」


 誠さんは笑ってそう言う。


 ……本当に、申し訳ないな。




「ふう……。少しは休めたかな?」


 急いで食べようと思ってオムライスをスプーンで掬ったところで、誠さんがカウンターの中の椅子に座って話しかけてきた。


「あ、はい……」


 誠さんは座ったまま作業を続けている。


 ……。


 えっと、何か話したほうがいいだろうか。……とはいっても、何の話をすればいいのか……。バイト中なら普通に話せるのだけど、寝る前のことを思いだすと、いつものように言葉が出てこない。


 そう言えば、寝てしまう前にはいろいろ抑えられなくて、中学の事とか家族とのことをトラブルという一つの言葉でまとめて今日のことを話してしまった気がする。相談を聞いてもらったんだし、そう言うこともちゃんと話したほうがいいだろうか。……いや、でもそんな長くなるような話を今からするのもな……。


 ……それより、早く食べて、食器を洗って帰ったほうがいいか。いつまでもお邪魔していられないし。



………

……


 ―ポロロポロロン……


「!」


 あと数口で食べ終わる、というところで普段はあまり聞かない携帯電話の着信音がポケットから聞こえてきた。


 驚きから一瞬で心臓の鼓動が速くなった。そして、それは落ち着くことなく、どんどんと速くなっていく。


 母さん、だろうか。そう言えば、電話するとか言ってしまっていた。


「……」


 一気に体温が下がったような感覚に襲われながら着信元を確認すると、予想通り、母親の名前が表示されていた。


「電話かな?」


「あ、はい……」


 誠さんの問いにそう答えたけれど、応答ボタンを押そうとする指が震えて動かない。


「……翔太君?」


「……」


 深呼吸をしてから応答ボタンに指をやり、携帯を耳に当てた。


「もし――」


『あっ、翔太!遥、翔太のところに行ってない⁉』


「……え?」


 何を言われるかと身構える前に予想外のことを言われて、つい聞き返してしまった。


『翔太のところに行くって言って出てってから、連絡が取れないの!慌てて出ていったし、傘も持っていかなかったし、何かあったんじゃないかって――』


 ……まだ五時半だし、心配しすぎじゃないだろうか。もう遥も中2なんだし。


 というか、俺のところに来る?……なんで?


「……今家にいないからわからない。取り敢えず、今から家に行ってみるから」


『そ、そう……』


「見つけたら連絡する」


『お願いね。私は家の近くを探すから』


「うん」


 耳から携帯を離すと、ポロン、という通話が終了する音が小さく聞こえた。


 遥のことは少し心配ではあるけれど、……要件が自分の件でなかったことに安心してしまった。


「……大丈夫かい?」


「あ、はい。ちょっと、急いで帰らなきゃなので、すみません」


「……うん。気を付けて」


 携帯をポケットに入れて、鞄を背負った。


 これで、家に遥が来ていればそれでいい……。


 居たら居たで……。いや、居たほうがいいのは明らかなのだけど。


「失礼します」


 急いでドアを開けると、カランカランというベルの音と同じくらいの大きさで雨の降る音がしていた。






「はっ、はっ、はあ」


 雨の中を走っていると髪が邪魔で仕方なかった。服も重たくなって走りづらいし、いつもよりも息が上がるのが早い。


 とはいえ、家は近いのでもうすぐ着く。もう、そこの角を曲がればすぐだ。



「はあ、はあ……」


 家の玄関の方に目を向けると、座り込んでいる遥がそこにいた。


 ……取り敢えず、良かった……。


 そう思ったところで、足音がしたからか遥がこちらに顔を向けた。


「……お兄ちゃん」


 遥は今まで見たことがないくらい、暗い表情をしていた。


 ……これからどうすればいいだろう……。









「あっ、翔太君、傘……」

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