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頼もしい

ガヤガヤざわざわ



「へー、なるほど……。それでかあ」


 昼休みになって、どうせすぐに耳に入るだろうからと思ってクラスで言われていた話を宮本さんと小畑さんに話すと、小畑さんからそんな反応が返ってきた。隣で宮本さんは不満そうな顔をしている。


 それで、という反応は想定してなかったな。


「うん?それでって言うのは?」


「いや、クラスの人たちの様子がちょっと変だったから」


 変、ということは、周りの人はその話を知っているのに何も言ってこなかったのか。宮本さんたちは人気もあるし、あちらのクラスでもこの話が広まってるようなら、宮本さんを心配するような声もあったんじゃないかと思うのだけど。


「何も言われなかったの?」


「あー……うちのクラス、美月に石川についての話をするのNGみたいになってるところあるからさ」


「え、ちょっ、七緒」


「あ」


「え、なにそれ」


 え、何それは。どういうこと?


 宮本さんに名前を呼ばれて、小畑さんがしまった、という顔をする。その様子からして小畑さんが口を滑らせたのだろう。


そんな話は聞いたこともなかった。普段、良く知らない人たちが話している内容を小耳にはさんだりということはない……というか、あまり聞かないようにしているのでこういう話は有輝が教えてくれることが多い。


 有輝は知っていたのだろうかと思って目線をやると、有輝は驚いた様子もなく学食の辛みそラーメンをすすっていた。


 この様子だと知ってはいたんだろうな。聞いたことはある、という感じだろうか。


「ごめんごめん、気にしないで」


「いや、気になるでしょ」


 少し焦ったように笑いながらそう言ってくる小畑さんに俺は即答した。俺の話はNGって……何があったんだ。


「ほ、ほんと、大したことないんだよ。ちょっとクラスの人が美月を怒らせただけで」


「七緒」


 いつもよりも少し低い声で宮本さんが小畑さんの名前を呼ぶ。その声は少しの怒りを含んでいて、まあ、なんというか……ちょっと怖い。小畑さんもアワアワしてるし。


 それにしても、怒らせた?それは、大丈夫なのか?俺のことでクラスの人と喧嘩になったとかだったら申し訳なさすぎる。それでクラスで孤立したりなんかしたら大変だ。


 心配と罪悪感がこみ上げて、大丈夫なのかを聞こうとしたところで有輝が会話に参加してくる。


「……まあ、問題ないならそれは良いとして、宮本がこの話が広まるのは嫌じゃないかって話だな」


 半目で小畑さんに視線を送っていた宮本さんがその言葉を聞いて、はっとしたようにこちらを向く。そして、申し訳なさそうにしながら答える。


「私?……私よりも石川くんのほうが……」


「いや、俺は別にいいんだ。色々言われるのは今更だしね。ただ、有輝と宮本さんが手を抜いたみたいに言われるのは嫌じゃないかって話になってさ。宮本さんが嫌なら、ちゃんと訂正したほうがいいでしょ」


 俺がそう言うと、宮本さんは口元に手をやって少しの間固まる。何か考えているようで、その目から真剣に頭を働かせているのがわかる。


 ……嫌か嫌じゃないかという話だし、そんなに考えることないと思うんだけどな。


 俺としてはそんなこと気にしないよとさらっと言ってくれたら良かったんだけどな。俺の成績について広まったりすることがなくて済むから。俺は宮本さんが嫌がるかもという可能性は考えたけど、思い至った次の瞬間にはそんなこともないかと思っていた。だから、宮本さんが気にしないと言うんじゃないかなと思っていた。だけど、こうして悩んでるってことはそうじゃないんだろうな。


 しばらくして、つぶやくように宮本さんが言う。


「……嫌、かな」


「そういう事なら、何とかして訂正しないとだな」


 有輝が嬉しそうにしながらそう言う。


 ……いや、なんでそんなに嬉しそうにしてるんだ。……まあ、いいや。今はそれより……。


「どうしようか」


 そうと決まったなら、訂正する方法を考えなければ。


「まあ、急に俺は定期試験1位だ!って言いだしたら変人すぎるもんな」


 有輝が一番シンプルで適当な案をあげる。そんなことしたら、また色々と言われるに決まってる。下がりきった印象が更に下がって、また中学の時みたいに不正だカンニングだと言われる未来がありありと見える。


「あ、その辺は何も考えてないんだ」


「いやあ……俺ら、クラスメイトとの交流はほぼないからなあ」


「そうなんだよね……」


 小畑さんの問いに対して、有輝が答えて俺もそれに続いた。交流がないのは俺のせいなので本当に申し訳ない。まあ、有輝はバドミントン部の人たちとは普通に仲良くしていると以前に言っていたのでそれは安心している。……同じクラスにバドミントン部の人はいないけれど、いたら色々変わっていただろうか。


 そんなことに思考が逸れたときに小畑さんが話し出した。


「……美月が石川に勉強を教えてたんじゃなくて、石川が試験で1位だったんだっていうのが広まればいいんだよね?昨日の美月のあれはそう言う事だったって」


 そんな小畑さんの言葉に宮本さんは申し訳なさそうにしていたので、気にしないでと言う意味も込めて少し笑いながら答える。


「まあ、そうだね。宮本さんが本気じゃなかったって話が無くなれば何でもいいんだけど」


 別に俺が1位だったということが広まってほしいわけじゃない。むしろそれは広まってほしくない。その情報が広まらずに上手いことできるならそうしたい。……けど、まあ無理だろうなあ。


「おっけーおっけー。それなら、任せて。そこまで仲良くないけど石川達のクラスに同じ部活の子もいるから、その子と話してくるよ」


 「任せなさい」という風に拳で軽く胸を叩きながら小畑さんが言う。


 おお……、結構頼もしいな。俺の中での小畑さんの印象の「頼りになる人」が少し大きくなった。


「おー、んじゃよろしく頼むわ」


「ごめん。押し付けるみたいになっちゃって」


 頼もしいし、本人はなんとなく得意げな顔をしているけれど、凄く申し訳ない。


「いいっていいって、任せなさいな」


「うん、ありがとう」


「ありがとう、七緒」


 小畑さんにお礼を言うと、小畑さんの隣に座っていた宮本さんもお礼を言っていた。




 そんな話をしている間ゆっくりになっていた昼食のペースが戻ったところで、気になっていたことがあることを思いだした。


「あ、そう言えば、さっき俺の話がNGだとか言ってたけど……」


 俺がそう言うと、また宮本さんが小畑さんを若干責めるように半目で見る。小畑さんは「なんで掘り返した⁉」という声が聞こえてきそうな表情でこちらを見てきた。


 ごめん。どうしても確認しておきたくて。


「ごめんってー、美月ぃ」


 そんなことを言って、小畑さんが宮本さんをなだめる。


 長引かせても小畑さんが可哀想なので、単刀直入に気になったことを聞いた。


「その、クラスメイトと仲が悪いとかではない?クラスで孤立してるとか……」


 俺のせいでクラスで仲間外れにされていたら……申し訳ない。そんなことがあるなら、俺は宮本さんたちと距離を置いた方がいいんじゃないかと思う。


 ……それは、……嫌、だな。


「それは大丈夫。普通に話したりするし、ほんとにただ石川の話はされないって感じ」


「そっか……それならよかった」


 それを聞いてほっとした。気を使って嘘をついているという感じではないし、本当に言っている通りなんだろう。


 この三人は俺にとってかけがえのない友達だ。そんな人たちが俺のせいで辛い思いをしていたら……それに気づいてもいなかったんだとしたらと思ったらとても恐ろしかった。……あとで、こっそり二人のクラスの様子を覗いてみようかな……。





 その後は夏休みの予定の話をしていた。有輝はほぼ毎日部活。宮本さんは家の手伝いがあるけど、基本予定はない。小畑さんも部活があるけど、週に2日か3日程度。ほかには家族で旅行に行くとか、お盆にお墓参りに行くとか、そんな感じだった。


 そんな話をしながら、小畑さんが食べ終わった弁当をカチャカチャと片付ける。そして、弁当箱を持って席から立った。


「じゃあ、善は急げってことで、ちょっと行ってくるね。またあとでー」


 そう言いながらひらひらと手を振って小走りで行ってしまう。そんな小畑さんを俺と宮本さんは「よろしく」と言って送り出す。


 そうすると、小畑さんに続くように有輝が席を立って言った。


「あー……ちょっと俺は様子見てこようかな」


「え、なら俺たちも……」


「いや、当事者たちは流石にいないほうがいいだろ」


 まあ、そうか。それだと最初に有輝が言ってた雑な案と変わらないしな。そう思って小畑さんを送り出したのに、反射的に変なことを言ってしまった。


 「じゃあな」と言って有輝は小畑さんを追いかけるように食堂から出ていく。


 そして、俺と宮本さんだけが4人席に取り残された。……半分残っているのにだけっていうのはおかしいか。


 そんなことを思っていると宮本さんがこちらを見て言ってくる。


「……ちょっとしてから出ればいいかな」


「そうだね」


 そう答えると宮本さんは「じゃあ、夏休みに行きたいって言ってたところの話しよう」と言って、この前の雨の日に家で話したことの続きのようなことを話し始めた。





「お!おかえり、翔太」


 教室に戻ると、食堂でちゃんと噂を否定するということが決まったときと同じように嬉しそうにしている有輝がそう言ってきた。


「ただいま……」


 有輝はテンションが高いのだけど、俺の方は全然そんなことはなく、むしろ周りの視線が痛くてテンション駄々下がりだ。


「無事誤解は解けたって感じだな」


「無事……無事かあ……」


 この周りからの視線……特に教室に入った瞬間に気付くほど悔しそうな表情をしていた澄香から送られてくる視線を感じていると、無事という言葉には違和感しかなかった。


 まあ……宮本さんの為だし、仕方ないか。






書く→納得いかない→モチベ下がる→約2週間経つ→ある小説を読む→モチベ上がる→書き直す→投稿


お待たせしました。

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