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サプライズ

\パンパカパーン/

「お待たせしました」


「あっ、ありがとうございます。誠さん」


 宮本さんの試験の見直しが終わったタイミングで、誠さんがこちらに来て声をかけてくる。そして、コーヒが2つと紅茶が2つがテーブルに置かれる。


「残りもすぐに持ってくるね」


 誠さんはそう言ってさっさとカウンターの方に戻っていった。……あれ?


「残り?まだ何か頼んでたっけ?」


「うん。何かは……お楽しみ」


「?」


 俺の問いに小畑さんが答える。今日の注文は席に座る前に俺と宮本さんがコーヒーを頼んでその後に続くように有輝と小畑さんも紅茶を頼んでいた。その時はそれ以外何も言ってなかったと思うんだけどな。俺に気付かれないように注文してたってこと?


……変なもの注文してないよな……?いや変なメニューがあるわけではないんだけど。


「お待たせしました」


「ありがとうござい……えっ?」


 すぐに誠さんがやってきて、テーブルに運んできたものを置いていく。置かれたものは3つのケーキだった。


「では、ごゆっくりどうぞ」


 ケーキを一つずつ置いたあと、そう言って誠さんは去っていく。


「はい、ということで!」


「石川、ハピバー!!」


「石川君、お誕生日おめでとう」


「翔太、誕生日おめでとう!」


「……あり、がとう……」


 ひとりハピバだったけどおめでとうと言われたので、ついありがとうと言ってしまったけれど全然理解が追い付いていない。誕生日1か月以上前に過ぎてるし。


「石川ケーキ食べれる?阿部はケーキ無理なんだってさ。人生の2パーセントくらい損してるよね」


「あ、大丈夫……。嫌いなものは特にないから……」


「じゃあ、石川君、好きなのをどうぞ……!」


 宮本さんがそう言って俺の前にケーキを3つ並べる。左からチーズケーキ、イチゴのショートケーキ、チョコレートケーキ。


「えっと……じゃあ、これで……」


 チーズケーキを取ると、宮本さんと小畑さんが話し合ってショートケーキとチョコレートケーキをそれぞれ取っていった。


「そんな感じでサプライズ誕生日会でーす!」


「お前ちょっと声落とせ。テンション高いのは良いけど周りみろ」


「えっと、改めて、おめでとう石川君」


 皆のやり取りを聞いていると困惑と嬉しさの割合がだんだんと嬉しさに傾いてきて、サプライズ誕生日会という言葉をもう一度自分の中で繰り返した時に、やっと自分が祝われているということがストンと胸に落ちてきた。


 中学生の時は、朝に「おめでとう」と言われて、夕飯が少し豪華なものになるくらいだったので、こうしてそれ専用の場を作られて祝われるのは少し新鮮だった。ケーキも母親が苦手だったから出てくることはなかった。妹の誕生日の時には、遥はケーキが好きだということもあって頼んで買ってもらっていたけど、俺の誕生日ではケーキは出ないのが普通だった。


「……ありがとう」


「じゃあ、どうぞどうぞ」


 急かされて、ケーキを口に運ぶ。


 久しぶりに食べたケーキは、思わず涙があふれそうになるほどおいしかった。





 その後は普通に話しながらケーキを食べた。小畑さんは「ちゃんと言ってくれれば当日にパーティーしてたのに」と言っていた。そして有輝は、「『本日の主役タスキ』と『バースデーケーキ帽子』を家から持って来ようか迷ってたけど、ここでやるのにそれをつけさせるのはなあと思ってやめた」と言っていた。それはやめてくれて本当によかった。あったら絶対小畑さんに着けられると思うから。宮本さんは「昨日やることに決まったから、誕生日プレゼントがなくて……」と言っていた。いや、宮本さんは2日前にキーホルダーくれたばかりだよね。プレゼントするのが好きだったりするんだろうか……?



 その3人はケーキを食べ終わって俺がバイトに戻るのと一緒に俺の分の会計もして帰っていった。


「いいお友達だねえ」


 俺が制服に着替えて戻ってくると、誠さんがそう言ってくる。


「そうですね……。俺にはもったいないくらい」


「もったいないって……そんなことはないんじゃないかい?ほら、類は友を呼ぶって言うだろう?いい人の周りには良い人が集まるものだよ」


「……」


 それなら、あの3人は例外なんだと思う。ほんとに奇跡的にできた友達なんだろう。



~~~



 試験返却の次の日、今日は5限までは普通に授業があり、6限は終業式だ。それが終われば夏休み。


学校がないとなるとやることがないし、有輝たちに会う機会も減ってしまうと思うので俺はあまり楽しみだとは思えないんだよなあ……。家だと電気代を考えると冷房もあまりつけたくないし、学校がないというのは色々と不便だ。図書館にでも行きたいけど、近くの図書館の場所を知らない。自転車で行けるくらいの場所にいい図書館があればいいのだけど。


 後で調べてみようと思いながら教室に入る。


「よっ、翔太」


「おはよ」


 先に来ていた有輝といつも通りの挨拶を交わして、鞄を置いて席に座る。


 ……なんだか、周りからの視線がいつもよりも多い気がするな。


 ……ああ、昨日宮本さんが教室に来たりしたし、それ関連だろうか。試験の結果は知られると難癖付けられるかもしれないから嫌なんだけどなあ……。


 まあ、嫌がっても仕方ないか。実力で取った結果だし、堂々としているしかない。


「……なんか言われてる?」


 もしかしたら勘違いかもしれないので有輝に聞いてみると、微妙な顔をして目を泳がせる。そして言いづらそうにしながら教えてくれた。


「あー……ちょっと耳を澄ませてた感じな……、宮本は翔太に勉強を教えていたせいで自分の勉強に集中できていなかったんじゃないかみたいなことが言われてるみたいだ」


「は?」


 えっ、何それは。


「お前ら一緒に帰ってるって言うか、一緒に学校出てることよくあるから、そういうところからもつながってるっぽいな……」


「ええ……」


「まだこのクラス内でしか言われてないみたいだけど」


 それはそうだろうな。学年中でそう言った話が広がれば経験上その学年の階ではずっと痛い視線を向けられるけど、今日はこのクラスに入ってからだった。


 ……ていうか、宮本さんって2位で自分の勉強に集中できなかったんじゃないかとか言われんの?凄いな。


 一緒に喫茶店に行っているっていうのだって、試験の1週間前からは宮本さんが試験勉強に集中したいと言っていたから一緒に入っていないんだけど。


 パッと教室内を見渡すように顔をあげると、数人が反応するように目を逸らす。


 普通の声で話すことでもないので小声で有輝に向けて話す。


「宮本さんが今回も2位だったのってもう知られてんの?」


「知られてるからこういう噂になってんじゃね?」


「あー……」


 まあ、それはそうか。まあ、なんというか……そうなるのか、という感じだ。


 クラス内で俺のことを有輝の次に知っているであろう澄香の方を見ると、普通に自分の席に座って友達と話していた。


「……どうしようか」


「どうって?」


「いや、否定したほうがいいかと思って」


「……」


 俺がそう言うと有輝は目を見開いて固まってしまう。


「えっ、どうしたの」


「いや、予想外だったというか……放っておこうって言うかと思ってたから」


「いや、宮本さんが嫌かもなあと思って」


「あー……そういうこと」


 宮本さんも関係ある話だし、宮本さんが嫌なら否定しておくべきだ。……まあ、そんなに嫌だと言うほどの話でもないと思うけど。俺に負けたのが広まるか、自分が本気じゃなかったという話が広がるかどっちかということだし。


「……ま、宮本は嫌なんじゃないかとは思う」


「えっ、そうかな?」


「本気でやったのに、手を抜いてたって言われるようなもんだろ?俺なら嫌だ」


「あーそうかー……」


 どうしたもんか。何も言われてないのに、俺が1位だったというのもヤバい人だしな……。



 ――キーンコーンカーンコーン


 否定するにしてもどうしたものかと思っていると、チャイムが鳴った。


 ……明日からは夏休みだし、宮本さんが嫌だと言うなら今日中にどうにかしないといけないよな……。うーん……。

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