笑顔 宮本美月視点
ほわほわほわー…………
「いやー、それにしても、石川が1位だったとはね……」
「1位2位がいるなんて、滅茶苦茶すげえよな」
「……」
「美月?どうかした?」
「あ、いや、なんでもないよ」
私たちの注文を聞いて、石川君はアルバイトに戻っていった。
私は……さっきの光景が私の幻覚だったんじゃないかと思って、自分の事を疑っていた。
さっき、少しの間おでこに手を当てていたとき、普段は見えない石川君の目元が見えていた。
隠すように前髪を伸ばしているので前々からどんな顔なのか気になっていた。実際に見てみると少し見ただけで整った顔立ちをしているのがわかった。そこまでは良かった。
……そのあとの「次も負けないよ」と言った時の、優しいふんわりとした笑顔が頭から離れない。……幻覚?いや、私の脳にあんな笑顔を作り出す能力はないと思う。
石川君は、普段から笑うことが少ない。だから、口元が緩んでいるのを見るだけでも、少し嬉しくなったりする。それが、あの髪の下ではあんな笑顔が浮かんでいたのかと思うと……。
「み、つ、き!」
「うえ⁉」
「ほんとにさっきからどうしたの?……あ、石川に負けたのそんなにショックだったの?」
それは……ショックというよりは、普通に悔しかった。それについては、次の試験ではもっと頑張る。
「ううん、悔しいけど、そう言うわけじゃないよ。ごめんね。ちょっとぼーっとしてただけ」
「そう?」
七緒には見えてなかったのかな……?この感じは見えてないよね。見えていたらこんなに普通なわけがないし。
阿部君は石川君の顔、見たことあるのかな?
……。
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「じゃあ、また学校で」
「おう、じゃあな」
「またあしたね!」
「……」
会計を済ませて、石川君と七緒と阿部君が別れの挨拶をしている。……今はさっきのように笑ってはいないけど、あの下はどんな表情をしているんだろう?
「宮本さん?」
「あっ、えっと……じゃあ、ね」
「うん。また明日」
石川君はそう言いながら、少しだけ笑っているように見えた。
私はさっきの顔が頭に浮かんでしまって恥ずかしくなって、逃げるようにして七緒と阿部君に続いて店を出た。
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駅までは3人で歩いていたので普通だったのだけど、電車に乗って一人になるとさっきの石川君の笑顔が頭に浮かぶ。
……石川君って笑った時、あんな顔するんだなあ……。
石川君の最初の印象は変な人、だった。それと同時に警戒もした。普通の人は知らない人が校庭の隅で探し物をしていても気にも留めないだろう。となると、何かあるんじゃないかと警戒もする。
でも、その日のうちに警戒する必要はないだろうなと思った。そして、思っていたよりも変な人で、優しい人だなとも思った。人の物を探すのに1時間半以上も使う人なんてなかなかいない。それに、何かお礼をしないとと思ったところで、さっさと帰ってしまうのだから、また驚きだった。
それから、石川君と阿部君と仲良くなって、七緒と二人も仲良くなって4人で一緒にいることが多くなった。そして、球技大会の時に石川君の噂の発端のことを知った。本当にひどい話だと思う。……でも、石川君は何もしないでほしいという。じゃあ、私ができることは、普通に友達として過ごすことだと思った。今まで通り、普通に過ごしていくのが一番良いだろうと思った。
……多分、前髪で顔を隠しているのもその時の影響なんだろう。
そして、それから……あの喫茶店に行くようになった。あそこは素晴らしいところだ。コーヒーはおいしいし落ち着いた雰囲気で、石川君と誠さんと話すことができて本当に楽しい場所だ。
……それで、1週間前、みんなでカラオケにいった。とても楽しかったけど、あの時は石川君の飲み物と私の飲み物がわからなくなるということがあった。……今でも思い出すと恥ずかしくなる。石川君は入れ替わってないって言ってたけど……。いや、結局飲んじゃったし……。
……こうして思い返してみると、短い期間ですごく仲良くなったなあ……。高校生になってすぐの時はこんなに楽しい毎日になるとは思わなかった。
また、さっきの石川君の笑顔が頭をよぎる。
「次も負けないよ」か……。……七緒に1位狙いなのか聞かれたときは、出来るだけいい点が取りたいなんて言ったけど、2位だったとなるとすごく悔しい。次の試験までもうあまり時間はない。あと1か月もすれば前期期末試験だ。もっともっと頑張らないと。
嵐の前のほんわか回って感じになったな……。……次話大荒れの予感。
2章からは普通にいろんな視点で書いていこうかな。




