表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/47

過ぎる日常

ひゅーー・・・・・・・・・・

 球技大会が終わり、また平穏な日常が続いていた。


 球技大会で澄香と色々とあったから、日常が崩れるんじゃないかと警戒していたけれど、特に何があったということはなく、平和な日々を過ごしている。


 今は放課後で、バイト先の喫茶店に来たところだ。


 ――カランカラン


 扉を開けると、席には見たことのあるお客さんが数人と、カウンターの中に渋いおじいさんがいる。


「こんにちは」


「やあ、翔太君。美月ちゃんもいらっしゃい。今日もブレンドでいいかい?」


「誠さん、こんにちは。はい。お願いします」


 そういえば、一つだけ変わったことがある。バイト先の喫茶店を宮本さんが気に入って、結構な頻度で客として訪れていることだ。


 落ち着いた雰囲気が気に入ったらしく、「こういう大人な雰囲気の喫茶店ってちょっと憧れだったんだよね」と言っていた。初めて来たときは有輝と小畑さんもいて、働いているところを見られるのはちょっと嫌だったのだけど、宮本さんが来るのはもう4回目なので流石に何も感じなくなった。


「あ、ちょっとだけ勉強をしてもいいですか?もうそろそろ試験なんです」


「うん。大丈夫だよ。奥の席のほうがいいかい?」


「あ、はい。ありがとうございます」


 マスターの誠さんと宮本さんがそんな会話をして、宮本さんは店の奥の方の席へと行って、ノートを開きだした。こういう落ち着いた場所のほうが勉強もはかどるのだろうか。今は常連さんが数グループ来ているだけなので……というか、あんまり席が埋まることもないので勉強するのは何も問題ない。……俺も、今度頼んでちょっとここで勉強してみようかな……。


 そんなことを考えながら、コーヒーを入れる準備をしている誠さんに声をかける。


「着替えてきますね」


「うん。……あ、翔太君は試験勉強の方は大丈夫なのかい?僕は一人でも大丈夫だから、美月ちゃんと一緒に勉強していてもいいよ?」


「ありがとうございます。大丈夫です。そんなに切羽詰まってないので」


「そうかい?それならいいんだけどね」



~~~



 さっさと着替えて帰ってくると、ちょうどコーヒーが入ったようだったので、それを宮本さんがいる席へと運ぶ。


「ブレンドコーヒーです」


「あ、ありがとう。石川君」


 どの教科の勉強をしているのかと思って見て見ると、古文の勉強をしていた。


「石川君は試験大丈夫なの?」


「まあ、何とかなると思う。……って言うか、宮本さんのほうが余裕ありそうだけど。新入生挨拶とかしてたし」


「うーん……、私、文系科目がちょっと苦手なんだよね」


 そう言って、開いていたノートをこちらに向けてくる。そのノートは綺麗にまとめられていて、苦手だと言っている人の物とは思えない。……まあ、古文が苦手な人と得意な人のノートの差なんて知らないけれど。ただ、勉強が得意そうな人のノートだな、とは思った。


「へえ……、じゃあ、2年になったら理系に行くの?」


「うん。石川君は?」


「うーん、まだ決めてないよ」


「そうなんだ……」


「まだ決めるまで時間はあるしね。じゃあ、勉強頑張って」


「あ、うん。ちょっとだけしたら終わるから」


「うん。わかった」


 何か納得がいかないところでもあるんだろうか。宮本さんはすぐにノートに目を落としていた。


 カウンターの方に戻ると誠さんが話しかけてくる。


「この時期だと、初めての試験になるのかな?」


「そうですね。前期中間試験です」


「いいねえ、試験……。学生らしくて」


「学生側からすると、全然良いイベントではないですけどね」


「そうだけどね、翔太君も僕くらいの年になったら、同じように思うんじゃないかな」


「そうですかね……」


 することがない時はこんな感じで雑談をしていることが多い。今日はいないけれどカウンター席に座っているお客さんがいたら、そのお客さんとも一緒に話したりもする。宮本さんも普段はカウンターに座っているのでその一人だ。


「あ……、キッチンの方行ったほうがいいですか?」


「ああ、そうだね。食器が溜まっていたら、洗っておいて」


「はい」


 仕事があるかもしれないということなので、キッチンの方に向かう。


 キッチンに着いて、制服のポケットに入っている三角巾を取り出す。最近はずっと前髪が目を覆っているのが普通だったから、この瞬間はまだ慣れない。髪が入るようにして三角巾をすると、視界が開けて明るくなる。


「こんにちは、美智子さん」


「ああ、翔太君、こんにちは」


「えーっと……」


「あー、丁度洗ったところだったから、今は大丈夫だよ」


「そうみたいですね。わかりました。じゃあ、戻りますね」


 することがないのにいつまでもいても仕方がないので、キッチンの入り口で三角巾を外し、前髪を下ろす。


「もったいないねえ……。……ああ、ごめんね」


「いえ、大丈夫です」


 最初、キッチンに入ったときには「なんでこーんなに髪を伸ばしてるんだい。もったいない」と言われたのだけど、何か事情があると察してくれたらしく、あまり言われなくなった。



 カウンターの方に戻ると、丁度お客さんが帰ろうとしているところだったので、レジの対応をする。


 ……会計の方法なんて知らなかったけど、やってみれば結構簡単で、何事も経験ってことかなあ、なんて思う。


 対応を終えて、カウンターの方に戻る。ちらっと宮本さんの方を見ると、ノートと問題集を開いて何やら悩ましそうにしていた。


 試験か……。もう試験までは一週間くらいしかない。俺や宮本さんは部活をしていないから、それなりに勉強の時間がある……いや、宮本さんは家の手伝いがあるとか言っていたからそんなに時間はないのかな。わからないけど、宮本さんは新入生挨拶をするくらいだし部活をしている二人のほうが心配だ。


 大丈夫かな……。まあ、赤点を取ったりはしないと思うけど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ