不意打ち
ぴーひょろろろ……
宮本さんと一緒に体育館の方を見に行くと、有輝のチームは接戦で、小畑さんのほうはちょっと勝つのは難しそうな感じだった。相手によく動けている人が2人いて、その2人が点をポンポン入れているので結構点差が開いてしまっている。
「あー、ちょっときつそうかなあ」
「こういう時こそ、応援しないとね!」
「そうだね。有輝の方はいい試合してるなあ」
有輝も目立った活躍をしている感じではないけれど、要所要所でいい動きをしている。結構上手いな。
「七緒ー、頑張れー!」
宮本さんはとても楽しそうに応援をしていた。結構テンションが高いし、こういうイベントごとが好きなのかもしれない。俺は、声は出さなかったけれど、いいプレーがあったときや点数が入ったときには拍手を送っていた。
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「負けちゃったよー」
「おつかれー、いい試合だったよ」
「相手が強かったね」
「そーなんだよ……。あの二人、中学ではバスケ部だったんだって」
上手いわけだ。この球技大会はその種目の部に入っている人は出場禁止になっている。そんな中で、つい半年ほど前まで部活として取り組んでいた人が入っていたら、一方的な試合になってしまうのは仕方ない。
「へぇー、まあ、お疲れ様」
「勝ちたかったなあ……」
戻ってきた小畑さんとそんな会話を交わす。有輝の方はじりじりと点差が広がっていて、このままいったら勝てそうだなといった感じだ。
「あ、石川はどうだった?」
「引き分けだったよ」
「0対0?」
「うん」
「ほー……、石川、サッカー上手かったね。中学でやってたの?」
「……やってないよ。授業の時くらいしか」
「そうなの?」という小畑さんは、覗き込むように見てきていた。普段から少し感じていることだけど、目をじっと見ている感じだ。別に噓を言っているわけではないのだけど……。サッカーをした記憶は、学校での授業と小学校の昼休みくらいだ。あの時は、みんなでワイワイと……いや、やめよう。そんなことを考えても仕方がない。
「まあそんなことより、有輝も結構いい試合してるよ」
「……お、勝てそうじゃん」
小畑さんはコートの方に目を向けて言う。試合も終盤に差し掛かっていて、このままいけば逃げ切れそうだ。
「よーし、応援しよう!」
小畑さんが有輝のことを応援すると、コート内の有輝は少し恥ずかしそうにしていた。俺もそうだったけど、応援の声で結構騒がしい中でも小畑さんの声はよくとおるんだよな……。
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あれから、有輝のチームはしっかりと勝ちを収めていた。
そして、俺は2試合目が終わったところだ。ちょうど時間が被ってしまっていたので、いつもの3人は応援にはいない。
試合結果は残念ながら負け。0対1で負けてしまった。手を抜いていたというわけではないが、俺が守っていた方の反対側からシュートを入れられてしまった。これで、次勝たないと、午後の準決勝に進むことは出来なくなってしまった。……まあ、正直別にいいのだけど。
「さてと……」
みんな体育館で試合をしているはずだし、体育館に向かおうか。……いや、小畑さんはもう終わってるかな?スケジュール的には終わっていてもいいころだったはず。まあ、終わっても体育館で元気に声を張って応援しているだろう。
人ごみを避けるようにして、裏道のようなところを通って体育館に向かおうとした時、声をかけられる。
「ねえ」
耳に刺さるような声。普通の人が聞いたら凛とした声だと思うであろうその声を、俺は凶器のように感じてしまう。多分、声に明らかな不満が込められているせいもあるんだろう。
顔を向けると、澄香の敵意を含んだ視線が刺さってきていた。
体が震える。体温が一気に下がっていく。見ている景色に見えるはずのないものが映りこんでくる。聞こえてこないはずの声が聞こえてくる。
『人の好きな人を奪っておいて、被害者の俺に何か用かよ!』
あの時の澄香と今の澄香は同じ目をしている。いや、普段の教室でも同じような目をしているのに、なんで今、こんなに体が震えるんだ……?……1人だからだろうか。有輝も宮本さんもいなくて、今、周りには友達がいないから?
そんな思考は徐々に鈍っていく。
「なんでちゃんとやらないの?」




