ゴールデンウィーク最終日 前半
昨日はバイト先に行って、母さんにサインと印鑑をもらった書類を渡した後、バイトの時間や店内の案内などをしてもらった。
もう、すぐに働きたいくらい良いお店なのだが、今日は有輝と遊ぶ約束をしている。ゴールデンウィーク最終日は部活が休みらしく、
「ゴールデンウィークの最終日空いてる?どっか遊びに行かね?」
「うん。空いてるよ。」
「お、じゃあこれ観に行かね?この映画」
「映画かあ……。……うん、行こうかな。どんなジャンルのやつ?」
「ホラー映画」
みたいな会話をして映画を観に行くことになった。普段はあまり無駄遣いをしないようにしているのだが、バイトも始めるし少しくらい良いだろう。
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家から自転車で20分くらいのところにあるショッピングモールに着く。待ち合わせ場所に行くと有輝はもうやってきていた。肩にはバドミントンのラケットケースを持っている。待ち合わせ時間の10分前には着くようにしてきたのだけど、有輝はそれより先に来ていたらしい。
「お、翔太!」
「おはよ」
「んじゃ、行こうぜ」
「うん。まず席予約しないとね」
そう言いながら携帯を開いて映画の時間を確認する。その時にホーム画面が見えたらしく、有輝が驚いたように言ってくる。
「え、アプリそれだけしか入ってないのか?」
「?うん。最近はあんまりゲームとかしないし。昔はやってたけど」
「ゲームやらない?ってことは家にもゲームないの?」
「今はもってないよ。実家にはあるけど」
「え……普段何してんの?」
「え?普段?うーん……家事と勉強とトレーニングとかかな?ああ、テレビはあるからたまに見てるかな」
「マジか……。……よし!今日は映画見たらゲーセン行こう!ゲーセンで遊ぼう!」
「う、うん」
「今日は遊ぶぞ!」
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最上階の映画館へと向かい、席の予約をして入場が可能になるまで他の映画の情報を見たりしていた。
「お、開いた。なんか買うか」
「あー、飲み物だけ買おうかな」
俺はオレンジジュースを買い、有輝はポップコーンとメロンソーダを買っていた。買ったものをもって入場口を通り、映画の上映される部屋へと向かう。
「なんか映画館の中入ると、なんというか、こう……緊張感みたいなのあるよな」
「……」
「?どうした?」
「いや、なんでもない……」
そうは言ったけど、全然なんでもなくない。幻聴のように頭の中では亮介の声がして、意識が現実から離れていくような感覚に襲われる。
映画と言われて正直気が進まなかったのだが、ここまでだとは思わなかった。というのも、1年ほど前、亮介と例の後輩とその友達の4人で映画を観にに来たことがあったのだ。同じ場所に行くわけでもないし大丈夫だと思っていた。でも、上映される部屋の中に入ったとき、亮介と後輩の声が聞こえてきた気がした。
……頭の血が引いていくような感覚になる。だんだんと周りの音が小さくなるような――
「翔太!」
有輝が少し大きめな声で呼んできた。遠のいていた意識が戻されたような感じだ。
……大丈夫だ。ここにいるのは有輝で、今亮介は関係ない。大丈夫、大丈夫……。
「大丈夫か?急にボーっとして」
「……うん。席いこうか」
「おう……そうだな」
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その後は、問題なく映画を観ることができた。映画の内容には問題があったみたいだけど。
「めっちゃ怖かった……」
「大丈夫?」
「いや、大丈夫じゃない……。今夜風呂入れないかもしれん……」
「なんでそんなに苦手なのにホラー選んだの……?」
「いや、そこはほら、怖いもの見たさというか」
「ちゃんと風呂は入れよ?」
「善処する」
「確約して?」
映画を観ている間、事あるごとに横から「うおっ」という声やビクッとしたことによる音が聞こえてきていた。確かに怖かったのだが、そこまでのリアクションをするほどではなかったと思うのだけど……。
「まあ、休憩も兼ねて昼ごはん食べようか」
「そうだな……」




