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息子が帰った後

 閉まった後のドアの前で、動けなくなってしまった。頭の中が真っ白になり、翔太に言われた「お邪魔しました」という言葉だけが頭に鳴り響いている。


 翔太が一人暮らしを始めてから1か月。帰ってきた翔太は中学の頃から変わらず、顔を隠したままだった。


 そうなってしまったのは中学3年生の時の、あの一件から。未だに何があってあのようになってしまったのかはわからない。


 あの時、翔太の様子が変だとは思っていた。でも何かあったのかを聞いても、何もないとしか答えてくれなかった。そんなとき翔太の幼馴染である澄香ちゃんが私に話があると言ってきた。澄香ちゃんは翔太とずっと仲がいいはずなので、私が知らないことも知っているんじゃないかと思いながら、その話を聞いた。その内容は、翔太が友達の好きな人を奪ったという話で、翔太も何も言わないことから本当にそうなんじゃないかということだった。


 昔、同じように翔太が疑われたことがあった。その時の翔太は、疑われながらもずっと無実を主張していた。その主張をしないのであれば、その話は本当なのではないかと思ってしまった。


 そして、私は間違えてしまった。翔太を叱ろうとした次の日から、翔太の様子は更におかしくなっていった。帰ってくる時間は遅くなり、家では部屋にこもり、前髪で目を隠し、ほとんど話をしなくなった。


 何も聞かずに叱ろうとした私達を、もう親とは思ってくれていないようだった。夫は仕事で忙しく、少ない時間で話し合ってもしっかりした結論は出なかった。その後学校で設けられた話し合いの場でも、翔太は何も主張しなかった。それどころか自分はいじめられていないといったようなことを言うくらいだった。


 もう、何が正しいのかわからなくなってしまった。


 そのまま、何があったのかもわからず、どうすればいいのかわからないまま今のような状況になってしまっている。


 今日、翔太が帰ってきて、一緒にご飯を食べてお話をしたら、また昔みたいになれるんじゃないかという期待があった。そんな甘い期待は、打ち砕かれた。


「ちょっと、お母さん!?」


 いつの間にか涙が出ていたらしい。ああ……私は、どうすればいいんだろう……。


***


 実家を出るとき、あまり深く考えずに「お邪魔しました」と言ってしまった。自分で言ったことなのだが、気分が落ち込むのを感じる。


 ……なぜ落ち込んでいるんだろう。


 中学時代は友達も家族もどうでもいいと思っていた。でも、高校生になって、友達ができた。じゃあ、家族はどうなんだろうと思ったのだ。このままでいいのだろうか。俺はどうしたいのだろうか。


 考えながら帰ったが、もやもやしたまま何も結論は出なかった。

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