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友達

 一日休日を挟んで木曜日。昨日は、大量の荷物を持ったおじさんを手伝ったら、喫茶店のバイトをしないかと誘われたりしたのだが、取り敢えずは学校だ。


 ガラッとドアを開けると、相変わらずの冷たい視線。噂はすっかり浸透してしまったみたいだった。


「おはよう、有輝」


「お、翔太、おはよ」


 挨拶を返してきた有輝は、何やら上機嫌だった。


「なんかあったの?」


「いや?翔太からおはようって言ってきたの初めてじゃないかと思ってな」


 そういわれれば、声をかけられておはようと返したことはあったけど、自分から言ったのは初めてな気がする。特に意識しての行動じゃないけど、指摘されると恥ずかしい。


「い、いや、そんなことないんじゃない?」


「いーや、あるね」


 そんな話をした後、有輝が周りを見渡す。


「それにしても、噂はもう完全に広がってるな……。違うって言わないのか?」


「いや、噂の出所が澄香なら意味ないよ。みんな澄香の方を信じるだろうし」


「……」


 有輝が微妙な顔をする。……実際、クラスの中心人物の澄香の方が信用あると思うから、そんな顔されてもな……。


「何も言わないのは認めてるみたいに見えるだろ。今からでも言っといたほうがいい」


「いや、いいよ」


「良くないだろ」


「いいって。これから実害がなければ。」


 そうだと思い込んだ人は証拠でも出さない限り意見を変えないだろうし、それなら言うだけ無駄だと思う。知っていてほしい人が、わかってくれているならそれでいい。



 その後は、特に何事もなく、一日が終わった。昼休みに宮本さんが来るかもと思っていたのだが、来なかった。まあ、変な噂が立ってるやつにわざわざ近づくやつはいないよな……。まあ、いいや。



 そう思っていたのだが、そんなことはなかったようだ。一日経った金曜日、部活がある有輝を見送った後、明日からゴールデンウィークだなと思いながら帰宅の準備をしていたら宮本さんがやってきたのだ。


「石川君。そのちょっと話がしたいんだけど、良いかな?」


「え、うん。良いけど……」


 教室で宮本さんと話しているのは、相変わらず視線が痛いので取り敢えず場所を変えることにする。


 やってきたのは校舎裏。とはいっても、そこそこ人目に付く場所だけど。ここまで歩いてくる間、露骨に避けてごめんと言って、それに対する「ううん」という返事以外に全く会話をしてないので、滅茶苦茶気まずい雰囲気になっている。昼休みに俺を訪ねてきた時は結構元気で積極的な感じがしたのだが、今は一緒に探し物をした時みたいな感じがする。そんな様子の宮本さんが、意を決したように口を開いた。


「この前聞いた噂って本当なの?」


 そう思い込んで、そう決めつけてる人に主張をするのは無駄だと思うけれど、こうやって聞いてきてくれるなら、ちゃんと否定する。


「……違うよ。友達の好きな人を奪ったとか人の彼女を奪ったとか、そんな噂が流れてるみたいだけど、そんなことはしたことないよ」


「そうだよね!よかった!」


 そう言ってくる宮本さんはこの前みたいに元気な感じになっていた。様子がこの前と違うと思ってけど、警戒していたのだろうか。この場所も割と人目に付くし。でも、俺が否定しただけで警戒を解くのもどうかと思うけど。


「色々言われたんだけど、やっぱり信じられなくて……」


「ちょっと昔色々あったんだよね」


「そうなんだ……」


 その反応からは昔の話を聞きたいという考えはないようなので、特に話そうとは思わない。


「その、石川君」


「何?」


「私と、と、友達になってくれませんか?」


「え?」


 急にきてびっくりした。それにしても、友達か……。有輝を友達だと認識してからなんというか、抵抗が薄れたような気がするが、それでもなってくれないかと言われると躊躇してしまう。


「……なんで、俺なんかと?」


「なんで……なんで?うーん……なりたかったから、かな?」


 噂を鵜呑みにしないで、俺のことを信じてくれた人にそういわれるのはうれしかった。それに、一緒に昼食を食べた時も……フラッシュバックが起きるまでは楽しかった。友達ってこうやってできるものだっけとも思わないでもないが……今日から俺と宮本さんは友達になった。


 またもう一人友達ができるなんてな……。友達というもののハードルが下がっただけなんじゃないかとも思ったけど、そんなことを言ってもどうしようもないので考えないことにしよう。

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