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博士の憂鬱な月曜日

作者: 久坂

「月曜日なんて嫌いだ」

そうレオナルドが言い出したのは日曜日の朝のことだった。

朝食の食卓に焼き立てのトーストを並べていたミアは(また何か始まった)と半分呆れ混じれでむっつりと不機嫌な幼馴染みの顔を見上げる。


「考えてみてくれミア、月曜日の憂鬱を。二日間の素晴らしい休暇の後に訪れる色彩のない陰鬱な仕事の山。しかもようやく一日を終えようが後には連続して四日間も仕事が待っている!」

「今日は日曜日で、目の前には素晴らしい朝食がある訳だけれど」

「だからこそ、だ。この時間との落差を思えば月曜日の陰鬱さが際立つだろう」

「仰々しく言っているけど、要するに仕事が嫌ってわけね」

エプロンを外したミアは、さっさと席につくと朗々と語るレオナルドを横に、たっぷりのバターをトーストに塗る。さくっとトーストにかじりつけば、外はカリッと中はフワッと、口の中に幸せの味。

「聞いているのかミア!」

「あー、うんうん聞いてる。ほら、冷めるから早く食べたら?」

「む……それもそうだな」

トーストをいそいそと手に取ったレオナルドは、さくっと噛り付くと目元をとろけさせた。わかりやすい。顔が輝いている。

「うまい」

「うん、そうね」

「幸せの味がする」

「うん、そうね」

ミアは笑いながら、自分ももう一口トーストをかじった。

これくらい普段から分かりやすくシンプルならいいのに、この幼馴染は一々言い回しが大仰なのだ。もっともそれは彼の明晰な頭脳ゆえなのかもしれないが。


王国史きっての天才魔法使いレオナルド・ドートリル。

魔法については天才であるが生活能力は皆無な彼に、ミアは休日の間だけ家政婦のようなことをしている。

そもそもの始まりは、母にお使いを頼まれてレオナルドの家を訪れたことだ。

実家が隣同士であるため、幼い頃はほぼ毎日時間を共にしていたが、時が経つにつれてそんな時間は目減りし、レオナルドが魔法使いとして名を挙げて独り立ちしてからはなおさら顔を合わせることも無くなっていた。

そんな幼馴染の家を訪れるのは、当然初めて。しかし何度ベルを鳴らしても出ず、不躾を承知で鍵が空いたままだった玄関に足を踏み入れて——ミアは絶句した。

恐るべきゴミ屋敷状態の家の中。積み上がったゴミの中にレオナルドは空腹で行き倒れていた。

即座に回れ右したかった。が、流石に放置するわけにもいかずミアは家を片付け、食事を作った。休日を丸々二日使って!

そしたらレオナルドはいたく感動し、ミアを雇いたいと言い出したのだ。

一応ミアには仕事がある。雇われるとかは無理だ。

とはいえ幼馴染。仮にも幼馴染。人間としての尊厳を全て放り投げたようなゴミ屋敷に生活能力皆無のレオナルドを放置するのは気が引けて、休日の間の手伝いだけならとミアは頷くことになったのだ。


「月曜日が嫌だ」


(また言い出した)

食事をおえ、まったりした休日の昼間を堪能していたミアは焼きたてのクッキーを前に絶望の表情を浮かべるレオナルドに呆れた目を向けた。

「クッキー嫌なの?」

「嫌じゃない大好物だ」

「よかった。ちょっと焼きすぎちゃったのよね」

まだ温かいクッキーをレオナルドの口に突っ込めば、レオナルドは一瞬びっくりしたように目を見開いて、すぐに頬をほころばせた。

「うまい」

「でしょ? 冷めたらもっと美味しいわ」

「もう一枚食べてもいいか?」

「どうぞ。あ、そうだ。どうせ食べきれないだろうし、余った分は明日職場に持っていってもいい?」

途端、レオナルドの顔があからさまに絶望を浮かべた。

(しまった)

月曜日を連想させるものは禁句だった。

「明日……月曜日……忌まわしきは月曜日……」

「…………」

「月曜日……この幸福から突き落とされる絶望感……」

「……いや、ごめんって」

ミアは、淀んだ空気を醸し出し始めたレオナルドの口に再びクッキーを突っ込んだ。

「そんなに月曜日がいや?」

彼の考えていることはいつも小難しくて大仰で、ミアには少し難しい。だから月曜日が嫌なのも、ミアには想像がつかない何か深い理由があるのかもしれない。でもわからないから仕方ない。

「何を言ったって月曜日は来るんだから、それなら不満を長々と垂れるよりも今を楽しく過ごすほうが有益じゃないかしら」

月曜日は確かに面倒だけれど、悪いことばかりでもないはずなのだから。

ね、とミアが再びレオナルドの口にクッキーを突っ込めば、目を見開いたレオナルドは慌てたように口の中のクッキーを咀嚼して、飲み込んだ途端に口を開いた。

「——それだ」

「え?」

「月曜日を来なくすればいいんだよ!」

「…………はぁ?」

どこからその結論が出てきた、とミアは胡乱な目を向ける。


「そうと決まれば月曜日を消してしまおう!」


そして、この面倒な幼馴染は天才魔法使いなのである。


「——もう月曜日は来ないな!」

キッチンで朝食を作っていたミアは自分の部屋から飛び出してきた幼馴染の満面の笑みに、はぁ?と眉根を寄せた。

「月曜日? なにそれ」

「一週間のうち最も忌まわしき、七日間の始まりとなる暗黒日だよ!」

「なに言ってるのよ」

ミアは胡乱な目を向ける。

「一週間は六日間よ。火水木金土日。月曜日なんてないわ。頭おかしくなったんじゃない?」

トーストを卓上に並べて、ミアはエプロンを外す。

「そうだ、明日からのご飯なんだけど冷凍庫に作り置きできてるから。ちゃんと欠かさず温めて食べてね」

どちらかというとこのすぐに食事を忘れる幼馴染をこまめに監視していたいところだが、残念ながらミアにも仕事がある。

ミアの言葉に、レオナルドがハッとした顔をした。

「……明日は、火曜日か?」

「なにを当たり前のことを」

「休みは、今日までか……?」

「当然でしょう」

ミアは呆れた目を向ける。

「今日が日曜日なんだから、次は火曜日よ」

「ミアは明日仕事に行ってしまうのか!!」

「……行ってしまうのかって、そもそも私の本業はそっち——」

がっとミアの肩が掴まれた。面食らって固まるミアに、レオナルドが声高に宣言する。

「それなら月曜日から金曜日までを消してしまえばいいんだ!」

「——は?」

ぽかんとしたミアを放置して、レオナルドは自分の部屋へと駆け込んでいった。




「今日は日曜日じゃないか! ミア!」

「はぁ? 分かってるわよ」

「じゃあ何故君は働いている!?日曜日は休日だろう!?」

「…………あなた、とうとうあたまがおかしくなった?」

職場に駆け込んできた幼馴染に、書類をまとめていたミアは冷え冷えとした目を向けた。

ミアの職場は役場の受付である。カウンター越しに身を乗り出してきたレオナルドの顔は切迫しているが、ミアからすると辟易としてしまう。周りから向けられる好奇の視線が痛い。

「一週間は土日しかないんだから、日曜日に毎回休んでなんていられないわよ。休みはひと月に八日間でしょ」

「八日間……っ!」

レオナルドが絶望の表情を浮かべるが、ミアからすれば困惑しかない。

「ほら、話なら後で聞いてあげるからあっちいってて。今仕事中だから」

「ミア!!」

レオナルドが悲痛な声を上げる。ミアが無視して仕事に戻ろうとすると、ぽん、と後ろから肩が叩かれた。

「何か大事な用事があるみたいだし、ちょっとなら抜けてきてもいいわよ?」

「先輩」

にこっと綺麗に微笑んで見せた先輩が、ミアをカウンターから立ち退かせて代わりに席につく。

「あの、すみません。ありがとうございます」

「あら、いいのよ」

そして、悪戯っぽく笑った。

「後で何があったか聞かせてね?」

「……期待されているようなことはないですよ」

ミアの言葉には答えず笑って、先輩はひらひらと手を振った。



「——1週間をいじくった?」


レオナルドの説明を聞いて、ミアは呆れた目を向けた。人気のない役場の裏口。置かれた椅子に腰掛けたレオナルドを見下ろして、ミアは額を抑える。

「なにしてるのよ」

「信じるのか」

「信じるっていうか……意味わかんないけどあなたがそういうならそうなんでしょう」

一週間といえば土日の二日間だから、レオナルドのいう七日間というのには酷く違和感を覚えるが、レオナルドがそう言うならそうなのだ。どんなにでたらめでも、それを可能としてしまうのが天才魔法使いなのである。

「なんでそんなことしたのよ」

「……月から金がなくなれば、休日だけになると思って」

「あなたって、賢いくせにお馬鹿よね……」

はぁ、と溜息をついてミアは苦笑する。

「休日だけで過ごせる訳がないでしょう。どこかで働かなきゃ世の中は回らないのよ」

「それは……うん、いや、そうだな。その通りだ」

「そんなに仕事が嫌? あなたの仕事なんて半分趣味みたいなものじゃない」

ミアは眉を下げてレオナルドを見下ろす。それとも何かミアの知らないところで、世の中を休日だけにしたくなるほど嫌なことがあったのか。

「…………平日は、ミアがいない」

「心配して損した」

ミアは労りの気持ちを消し去って冷ややかな目をレオナルドな向ける。

「私にだって日常生活があるのよ。そんなに家政婦が欲しいならプロを雇えって何度も口を酸っぱくして言ってるじゃない」

「それこそ何度も言っただろ!俺はよく知りもしない人間を家の中に入れたくない!絶対に嫌だ!!」

(威張ることじゃないし)

子供みたいに駄々をこねだしたレオナルドに、ミアは溜息をつく。そう、そうなのだ。この天才魔法使い、もの凄く気難しくて変人なうえに、超のつく人見知りなのだ。だから仕方なく、レオナルドの扱いに慣れたミアが世話をすることになっているのである。

「そもそも、ミアが仕事をやめて俺のところに来てくれれば、今の職場の倍額払うっていってるのに!」

「私、この仕事嫌いじゃないのよね」

大変だけれどやりがいもある。忙しいくらいが性に合っているのだ。ミアの言葉にレオナルドはぐっと口を噤むとそのまま顔を伏せてしまった。

「だから……俺は……」

「…………」

ぐすっ、とかすかに響いた鼻をすする音にミアは眉を下げる。

(あぁもう……)

すとん、とその場にしゃがみこんで、ミアは伏せられたレオナルドの顔を覗き込むように見上げた。ミアの視線に、赤くなった瞳を誤魔化そうとしたのか慌てて目元を擦り出すので、その手を止める。

「腫れちゃうわ」

仕方ない。この幼馴染は、こういう奴なのだ。

「どうやって一週間を弄るなんてことしたの?」

「……………………まず一週間は七日間であると定義された認識を覆すことが必要だから、最初に世界の——」

「あ、いいわ。詳しいことはいらない」

「……だから、世界の決まりをちょっと書き換えたんだよ」

「ふーん」

ぐすっと涙を拭う幼馴染を眺めて、ミアは空返事をする。全く意味がわからない。そして正直、ミアにとってそこはどうでもいいのだ。

難しいことはよく分からないし、聞いていると眠くなる。ただレオナルドがそれで楽しいのなら応援するし何か成功したならそれを一緒に祝いたい。

この面倒で手のかかる幼馴染のそばにいるのは、実は結構やぶさかでもなかった。

「そんなにいうなら、もっと頻繁に顔出してあげる。毎日は無理だけど、仕事終わりにごはんくらい作りに行くわ」

ね?と笑いかければパッとレオナルドの顔が輝いた。でもすぐに、口籠る。

「…………それだと、ミアの負担が大きいだろ?」

レオナルドの言葉にミアはきょとんとする。

「そんな発想があなたにあるとは思わなかった」

「あるよ!それくらい!!今だってかなり無理してるだろ!!」

「別に無理なんてしてないけど……」

「でもやっぱり、疲れてる!」

レオナルドはきゅっと眉間を寄せて言い募る。

「謝礼も受け取ってくれないし!」

「ちゃんと材料費は貰ってるじゃない。それどころか私の分まで払ってくれてるし」

「……ミアの休日がなくなってるだろ!」

「今更? それに私、あなたの家で充分寛いでるわよ」

掃除したり料理したりはするが、それ以外の時間は割とダラダラとしている。レオナルドの小難しい話を聞いたり、一緒に買い出しに出たり、レオナルドが何やら小難しいことをしている横でのんびり本を読んだり昼寝をしたり。

「私が好きでやってるんだから、お金はいらないのよ」

お金を受け取ったら、それはただの仕事だ。幼馴染の付き合いとかじゃない。お金で繋がった契約になってしまう。そんなのはミアは嫌だった。

「さ、私はそろそろ仕事に戻らなきゃ。終わったら家に寄るけど、何が食べたい?」

立ち上がりながらミアがレオナルドを振り返ると、服の裾が掴まれた。

「どうしたの?」

「あ……いや、もう行くのか」

「もうって、そもそも今は仕事中よ」

ミアは苦笑して、幼馴染の頭を撫でた。その髪は無駄にサラサラしている。

「ちゃんと世界は元に戻しておくのよ。よく分からないけど、歪み?とか何とかが起きちゃうんでしょ?」

「……わかった」

まったくもう、仕方がない。

こくんと頷いた幼馴染に、ミアは微笑んでもう一度その頭を撫でた。



目覚まし時計の音が響く。

カチッと時計を止めたミアは、もそもそと起き上がった。カレンダーが示すのは月曜日。

「…………変な夢を見た気がする」

朝食用のトーストを焼きながら、眠気覚ましのコーヒーを啜って首を傾げる。

はて、どんな内容だったか。

(まぁいっか)

まだぼんやりとした頭は、それ以上考えるのは面倒だと告げていた。

朝食を終えたミアは手早く身支度を整えて、バタバタと職場に向かう。

仕事は好きだ。やりがいもある。忙しいくらいがちょうどいい。

……が、面倒なことだって当然ある。

「ミア〜、落ち込まない〜」

「いえ、ご迷惑おかけしてすみません……」

「あのクレーマーは仕方ないよ。気にするだけ無駄無駄。次行こ、次」

先輩に肩を叩かれて、ミアは苦笑して頷く。

いつまでも落ち込んでいちゃいけない。やらかしたことを挽回するには、次の仕事をちゃんとしなくちゃ。

でも、嫌なことは続くものだ。

連続して面倒な客に当たったり、書類の小さなところが間違っていて一からやり直しになったり、どっぷり暗くなった窓の外にミアは溜息をつく。今日やろうと思っていたことが、思った以上に残ってしまった。

「今日はもう上がれ。まだ月曜なんだから、帰ってゆっくり休めよ」

帰り支度を終えた上司に肩を叩かれて、ミアは目を瞬かせる。

「でも……」

「明日できることは明日やればいいんだ。お前はもっと上手くサボれよ」

笑顔で去っていった上司に、ミアはちらりと書類の山を見た。


やめだやめだ。今日はもう充分頑張った。

バン、と立ち上がってミアはさっと帰り支度を整える。

向かう先は、もう決めていた。


「ミア!?」

驚いた顔で玄関から転がり出てきた幼馴染に、ミアは片手に持っていた食材の入った袋を見せる。

「夕飯、作るから一緒に食べよ!」

お酒やつまみになりそうなものも買ってきた。こういう時は、パーっとやるに限る。

もう食べた?と聞けば、レオナルドはふるふると首を横に振る。

「あ、でも、そのだな」

「何?」

ミアは家に上がると、違和感に気がつく。なにか、食べ物のいい匂いがする。

怪訝な顔のミアに、レオナルドがもごもごと口を開く。

「その、もう、夕飯は作ってしまったんだ。……分量がよくわからなくて大量に出来てしまったから、ミアも食べないか?」

ミアは「へ」とかつてなく目を点にした。


「…………美味しい」

「ほんとか!?」

「うん……びっくりするくらいおいしい」

レオナルドが作ったのはシチューだった。

信じられないくらい大量の。本人曰く、味付けに試行錯誤しているうちに量が増えていったという。

「まさかレオがこんなに美味しいシチューを作れるなんて……」

ミアは、ちらりとキッチンの方向を振り返る。何をしたらそんなに汚せるのか、というほどものの散らばった惨状は思い出すだけで頭が痛いが、それも目の前のシチューを思うと消えてしまう。

「すっっごい美味しい」

「よかった! 初めて作ったからどうなるかと思ったが、ミアが喜んでくれたなら成功だな! ミアの持ってきてくれたワインも美味いぞ!」

「でしょ。それ絶対レオが好きそうだと思ったから」

「あとこのサラダも美味い!パンも!」

よかった、とミアは微笑む。レオナルドはシチューしか作っていなかったので、急拵えでミアが用意したのだ。

「そのパンは新しくできたところのでね、前から気になっていたの。他にも美味しそうなの色々あったから、今度行こうね」

「あぁ!」

満面の笑みのレオナルドに、つられてミアも笑顔を浮かべる。

するすると、凝り固まっていた気持ちが解けていくような温かい感覚。

気分良くシチューを口に運んだミアは、レオナルドの言葉に固まった。

「ミアに頼るだけじゃダメだと思って作ってみたが、やっぱりミアみたいには出来ないな」

「…………どうしたの、急に」

心臓が嫌な音を立てた。それは、つまり——。

「ミアは好きで僕のためにいろいろしてくれているんだろう?だから少しでもお返しをしたいと思ったんだ」

ミアは、きょとんと目を瞬く。

「次の休日までに練習しておこうと思っていたんだが、まさかミアが今日来てしまうとは。しかし僕は今日、ミアの気持ちが少し理解できた! たしかに作った料理を相手が喜んでくれるのは嬉しい!」

「……私も、仕事帰りにこんなに美味しいシチューが食べれるなんて思ってなかったから、嬉しい」

ミアはワインを傾ける。

「仕事終わりにご飯があるって、幸せね」

仕事は嫌いじゃない。でも、どうしても辛い時がある。

それでも帰ってこうして気持ちが解れるなら、もうそれだけで次の日も頑張れる。

「………………そうか」

「どうしたの?」

「大切なのは、気持ちなんだな!」

「え?」

「月曜が嫌なのは、楽しいことがないからだ!だから楽しいことをこうして作れば——」

「レオ、食事中だから座って」

勢いのあまり立ち上がっていたレオナルドが、ハッとした顔で座り直す。

「そういえばあなた、月曜が嫌だ嫌だって昨日騒ぎまくっていたわね」

ミアはくすっと笑った。

「あぁ。だが、世の中は仕事をしなくては回らないからな……だからまずは労働のいらない社会を作ることが先決だと考えていたんだが、労働がなくとも楽しみがなくては何も変わらないと僕は気がついて——」

ペラペラと語り始めたレオナルドに適当に相槌を打ちながら、ミアは微笑む。

相変わらず何を言っているのかは分からないし滅茶苦茶な人だかけれど——。


「好きだなぁ」


レオナルドが首を傾げた。

「——ん? 何か言ったか?」

「いいえ、なにも」

にこっと微笑んだミアにレオナルドがつめよる。

「いや!それは何か含みのある顔だ!君は僕を馬鹿にするとき口角を右斜め五度釣り上げ——」

ミアは語り出したレオナルドを前に、機嫌よくシチューを口に運ぶ。


あぁ、こんな月曜日なら悪くない。

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