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ニュース

 けたたましく鳴るスマホのコール音に咲良は叩き起こされた。枕元にあるスマホを探り当てた咲良は、電話をかけてきた主を確認することなく通話ボタンを押し、通話口を耳に押し当てる。耳が壊れるかと思うほどの大声が右耳から左耳へまっすぐ通りすぎていき、咲良の目が反射的にカッと開かれた。


「ちょっと、落ち着いて。鹿子」

 鹿子の叫びをモロに聞いてしまった残響がキーンと耳に響いているのを感じながら、咲良は寝起きでうまく回らない舌を動かす。口先では鹿子の話しを聞くようなことを言いつつ、自然とでたあくびに眠気を連れて来られて、咲良は二度寝の検討を始めた。昨日、あつしとの話しが終わった後、ドッと疲れが押し寄せてきて咲良はまっすぐ自分のベッドに身を投げ出したのだった。そこからの記憶がない。どうやら夢も見ずに寝てしまっていたらしいと、咲良は状況を整理する。部屋の窓から見える空は青々と輝き、雀が雲を切るように飛び去っていくのが見えた。


「じゃぁ、さっさとニュースつけて!!早く!!早く!!いますぐ!!走って!!」

 鹿子は声の大きさこそ下げたものの、テンションと口調を加速させて咲良を急かす。

「えー……何をそんなに興奮してるの?というか、鹿子、朝から元気過ぎじゃない?」

 咲良はのそりとベッドから下りてリビングにあるテレビをつけた。

 テレビの中では品良くメイクをした女性が天気図を指しながら週間の天気予報を伝えている。咲良はぼんやりとテレビ画面を見つめて考えた。今日も一日快晴らしい。だけど気温は低いらしく、一枚羽織るものを持って出かけるようにとニュースキャスターがオススメしている。


「見た?ねぇ??見た???ビビるよね。そんなとこまで届いちゃったの!?みたいなね」

 鹿子の興奮は冷めるどころか過熱していくようで、比例して声もだんだんと大きくなる。咲良はスマホを耳につけて通話することを諦めてハンズフリーにした。まさか天気予報で鹿子が興奮する訳がないし……咲良はそう考えながら、鹿子の声には答えずテレビチャンネルをザッピングしていく。一瞬、見覚えのある映像が流れた気がして咲良は慌ててチャンネルを合わせる。だけど、そのニュースはちょうど終わってしまったらしい、どれだけチャンネルボタンを押しても、ピンとくる映像に辿り着けない。鹿子が何のニュースを見ろといっているのか分からないまま、咲良は次々と変わる映像を眺めた。


「ちょっと、咲良?聞いてる??」

 咲良の返事がないことにようやく気づいた鹿子が心配そうに声を出した。


「聞いてはいるけど、鹿子が何にそんなテンション上げてるのか全然わかんない」

 そこでようやく咲良はテレビのニュースから答えを見つけるのを諦めて、鹿子に聞く。


「昨日の数式!あれをなんかものすごい数学の権威が解いたんだって!んで、その人が”この数式をどうしても否定できない”って懸賞に出したってニュース」

 鹿子が、聞いて驚けとばかりに言葉を区切った。

「えっ!?」

 咲良が驚いた声を上げるのを聞いた鹿子は、狙い通りにいったと嬉しそうに言葉を続ける。

「その金額、百万円だってさ。注目度がうなぎ登りよ」


「へぇえええ」

 咲良は感心した声を上げながらしかし、それが本来の目的ではなかったことを思い出す。


「でもさ、数式だけ取り上げられて盛り上がったところで、最初のミサイルは後三日に迫っているでしょう?」

 鹿子の喜びに水を差すとわかっていたが咲良は言わずにいられなかった。ミサイルの発射を止めることが目的である以上、数式が取り上げられることで喜んでも仕方ない気がしていた。


「ところがどっこい!!あの数式に地球の質量を表す公式が含まれていることに気づいた人がいてね。さらに、火薬を用いた被害範囲の計算が含まれてるって言い出した人もいるの」

 鹿子は喜びを陰らせるどころか、さらに炸裂させて言う。

「あつしさんが考えていた通りの展開になりつつあるんだよ」


 電話の向こうで小躍りしているかのような鹿子の気配がした。咲良は鹿子ほど楽観的にはなれず、どこか作り物のお話を聞いている心地でそれを聞く。


「あんまり、嬉しそうじゃないね?」

 咲良が相槌をしないのを気にして鹿子が言う。

「なんだろう、あまり実感がないというか……ここで喜んでうまくいかなかった時が怖いというか」

 咲良は眉間にしわを寄せて答えた。うまくいってほしい気持ちは確かにあったが、咲良が迷い悩み、目をそらしつづけてきた大きな問題がこんなに簡単に解決してほしくない、という不思議な気持ちが沸き起こっている。

「数式一つで、事態が好転するのならどうしてだれも今日までその声をあげてこなかったんだろう」


「声を上げても、情報が埋もれてたんじゃない?」

 鹿子の返事で咲良は自分の考えが声に出ていたことを知った。

「あるいは、情報を出すのが、みんな怖かったんだよ。だって、もし間違ったこと言っちゃったらその発言はいつまでもデータとして残る時代じゃない?遥か昔は”言った言わないの水掛け論”なんて言葉もあったらしいけど、今は”大事な話はまずデータで残す”のが当たり前だし。データとして残ると思えば自信のない思想や発想を外にむけて表現しようなんて思わないよ」

 咲良は鹿子の言葉を黙って聞く。鹿子の言葉に咲良は自分が今まで現状にどう自分の心を合わせるのかばかり考えてきたことに気づかされる。他者に受け入れてもらうことばかり考えて、どうしても伝えたいと考えたり、形にしようとしたことなんてないんじゃないだろうか。

「鹿子は、やっぱすごいなぁ」

 劣等感が咲良にその言葉を呟かせた。

「咲良?どうしたの?」

 鹿子が優しげに問い掛けてきたが咲良はそれに答えることなく通話を終えた。


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