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覚悟を決めろ

「突っ込んでいくというか、鹿子の発言は私のせいだから」

 咲良は電話の相手が鹿子ではなく、大樹だったことに慌てた。


「ふぅん?」

 大樹が電話の向こうで咲良の言葉の続きを待つ気配がする。咲良は仕方なく、淳の日記のことを話し、そのリアリティに鹿子があんな発言をしてしまったのだと説明する。

「それで?なんでそこに咲良はわざわざ関わりにいくわけ?こんなこと言いたくないけど、咲良は宇宙船の乗組員で、あのアカウントの注目度だって鹿子さんや俺より……はぁ……とにかくさ、鹿子さんを慰めたいだけなら直接声をかけるだけにして、ネットでの発言は取り消しておきなよ」

 大樹は初め、怒りを滲ませた声で早口に言い、ため息をつくと咲良を気遣うように言葉を締めくくった。


「消さないよ」

 咲良は自分が意固地になっているのを自覚しながら答えた。


「は?」

 大樹が心底驚いた声を出す。

「いやいやいやいや!!地球が爆発するなんて本当に思ってんの?」


「……大樹は、さ。これまで過ごしてきた場所が火の海になってもなんとも思わない?」

 咲良は自分でもずるい質問をしていると思いながら、大樹の答えを誘導するように言葉を紡ぐ。


「俺達はただの庶民だぞ。お偉いさんにコネがあるとか、お金持ちとか、そういう力を持ってないんだぞ」

 大樹は、咲良が逆の立場におかれたら答えただろう言葉とそっくり同じ答えを口にした。

「それに、地球が爆発するかどうかの確固たる証拠はないんだろう?最初のミサイル発射まであと何日だと思ってるんだ」

 大樹は優しく、しかし理論立てて咲良を落ち着かせようとする。

「あと四日だね」

 咲良は自分の宇宙船発射日に一日足して答えた。すでに何機かの宇宙船は空に旅立っており、咲良が乗り込む予定の宇宙船が飛び立った二十四時間後に最初のミサイルが発射される。


「……咲良が地球を離れるまでって考えるともっと短いだろう?」

 大樹が探るように問い掛けて来る。


「まぁ、最終便でも、三日後だもんね」

 咲良は、自分がどの便に乗るのかをぼかして答えた。


「そんな短い時間で、お国のお偉いさんが動くとでも?」

 大樹の気遣うような声の響きには、無駄なことはするべきじゃないという気持ちがこもっている。


「でも、でもね。地球が爆発しない根拠がないと私安心して出発できないよ」

 こう言えば大樹がなにも言えなくなるのを分かっていて、咲良は言葉を選ぶ。鹿子の癖を真似て、咲良は髪の毛を人差し指にまきつけながら、大樹が電話の向こうで大きくて長いため息をつくのを聞く。それ以降、大樹がなにも言わないので、咲良はスマホから耳を離した。通話時間をカウントする数字が増えていくのを見つめる。30秒ほどたってようやく、大樹が決意したように息をのむ音が聞こえ、咲良はスマホを耳につけた。


「分かった。地球が爆発しない根拠を提示すれば良いんだな。咲良、俺が勉強できないの知ってて無茶苦茶なこというんだから」

 大樹は笑い声を滲ませながらそう宣言すると、「またな」と言って電話を切る。咲良は大樹まで巻き込んでしまった心苦しさを感じながらも、もし、大樹が本当に地球が爆発しない根拠を持ってきたら鹿子にも伝えようと考えていた。


 咲良は鹿子に電話をするか迷い、先に自分のSNSを確認することにした。


「うぇええ……」

 咲良は自分のアカウントに着いた反応の数が四桁に達しそうなのを見て呻いた。反応している、その殆どが咲良にとって初対面のアカウント。鹿子や大樹の心配が大袈裟ではなかったことを咲良は理解した。覚悟していたつもりだったが、めまいがするような気持ちに咲良は追い込まれる。

 それでも咲良は、小さく息をつくと心を落ち着けてざっと目を通した。半数は『咲良のアカウントが宇宙船の乗組員に選ばれた人のものであるか?』という真偽の問い掛け。残りは、『地球が爆発するわけがない。どうせ咲良は宇宙に脱出済みだから関係ないだろう。地球上に残る人を見下して楽しんでいるのか?』というものだった。ごく僅かに咲良のことを心配しているような文面が混じっているがそれも『発言は撤回した方がいいんじゃないか』というアドバイスが文中にちりばめられたものばかりだった。


 面白がる言葉と、刺のある言葉、咲良の立場を心配した言葉。三種類の、しかし根本的には咲良の発言を拒絶した反応がずらりと並ぶ様子に、咲良は自分のしでかしたことの大きさを自覚し、怖くなった。行動するべきではなかった。大きな後悔の波が押し寄せてきて、咲良の頭にアカウントを削除してしまいたい気持ちが膨らんでいく。その流れを止めてくれたのは一つのコメントだった。


「是非、お話を伺いたいです。三日前、食事に来てくださった、あのお店でお待ちしております」

 そのコメントに咲良は大樹と行ったレストランを思い出す。優しそうに微笑む燕尾服の男性……。危険だろうか、と咲良が迷っていると燕尾服の男のものと思われるアカウントから追加のコメントが来た。


「ミサイルで、店を焼きたくはないのです」

 その文章を読んだ途端、咲良の頭の中に見事な内装が思い返された。どこもかしこも磨き上げられた、高級感のある光景がありありと目の前に浮かぶ。埃一つないどころか、招かれた人が緊張してしまう程のインテリア。それを維持してきたのは、店の人であるという、当たり前のことに咲良は気づく。


「そりゃ、嫌だよね」

 咲良は呟いた。お気に入りの雑貨をごみ袋に詰めなくてはいけなかった痛みを思い出す。どうしようもないじゃないか、無力な自分が声を上げたって仕方ない。咲良自身が思い込もうとしてきた理屈が腹の底から沸き上がる。まるで湯が湧くようにブクブクと熱を持って咲良の思考を支配しようとする。体の中はカッカと燃えるような熱さを感じているのに、咲良の体は震えていた。


「怖い」

 誰も聞いていないから、咲良は本音を呟ける。

「すごく怖い」

 騒がせたことを謝罪すれば、この恐さは一瞬にして消え失せるだろう。そもそも、いくらなんでもお偉いさん方が地球を壊すほどの攻撃をするだろうか。成人したばかりの人間が思いつくようなリスクが見えてないなんて事がありえるだろうか?


「どうせ、あと、三日!」

 咲良は勢い良く両頬を叩いた。ダメで元々。なにをしようが、しまいが、咲良にとって三日後には失うものの事だ。ならばせめて、この恐怖の中で一人立つ鹿子の側にいてやろうじゃないか。咲良は遅れてきた頬の痛みを笑う。

 その勢いで燕尾服の男性へ、「先日一緒にいた友人ともう一人。三人連れで行っても良いですか?」と送った。



「ありがとうございます」

 燕尾服の男からの返事を確認した咲良は鹿子と大樹に連絡した。


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