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異世界旅情TSもの(仮題ひなたBocco‼ 略して鉈矛)六話 魔族の領域

街は既に戦場だった。

ミリムにフードを被せ、逃げる民衆に逆らって城を目指す。

走る。

民家が燃えている。

煙でむせた。

魔族は空中の兵力のみで城に狙いを定めているようだ。


「これじゃ街燃やしてるの城の魔導士だよ……」


思わず漏らす。

あきれたもんだ。


「助けて……」


燃え盛る民家に逃げ遅れているのは奴隷身分。

助けようとしたが、次の瞬間無情にも民家は崩れ落ちた。

声はもう聞こえない。

また救えなかった。


「ミリム、誰が攻撃してるの!?」

「大将軍の誰かだと思うけど……」

「これがひなたの救いたい国かっ!!?」


リルシュの声には怒りが込められている。

船の中で説明はしたけど、正直この国は腐っている。

それを改革するにはまだ力が足りない。


「アタシ、止めてくる!!」

「えっ!? ミリム!?」


立ち止まり、フードを脱ぐ。まずい。


「待ってるから……」

「えっ?」


ぎゅっと抱きしめられるとフードを押し付けて飛び立っていった。

待ってよ。こんなお別れやだよ……


「ひなた! こっちにも逃げ遅れた人が!!」


ああもう。

ミリムのフードを背負い袋に押し込むと、リルシュとともに住民救出を優先することにした。




「こっちのおっちゃん重傷だ! ひなた!」


駆け付け、神聖魔法を行使しようとする。

不意に腕を掴まれた。


「小さな神官様、こちらを優先して貰おうか」


恰幅の良い男性。貴族なのかな。

なんだ、かすり傷じゃないか。


「ひなた!」


男性を突き飛ばし重傷のおっちゃんに駆け寄る。


「今助けるからね。頑張ってね」


神聖魔法行使。すっと顔色が良くなる。間に合った。


「貴様…… 司教に報告するからな!」


司教…… ナーゼか。いいよ、もう。

勝手にしろよ……


夢中でけが人の元へと走り回った。


「ひなた! その人もうダメ! こっち!!」


リルシュは的確に重傷者を見分けてくれた。

命の選別(トリアージ)

災害時には手当すれば助かる重傷者の治療が最優先されるが、もう助からない重傷者との判別は難しい。

野生のカンとでも言うべきか、リルシュがその役割を担ってくれたおかげで治療に専念できた。

とっぷりと日は暮れた頃、くたくたになって休んでいると一人の兵士がやってきた。


「勇者ひなた殿ですね?」


なんだ?


「国王陛下がお呼びです」




謁見の間へ。

リルシュには何があっても何もしないよう言い聞かせておいた。

どうせろくな事は言われないと思う。


「リルシュ。この国、人間社会はダメなんだよ。私が変えてみせるから……」

「大丈夫だ。人間を信じたわけじゃない。ひなたを信じるって決めたんだ」

「ありがとう……」


二人で膝をつく。

国王の発言は案の定ポジティブなものではなかった。


「此度の襲撃、そなたは今までどこで何をしておった?」

「……。ケト商会に縁がありまして、交易の開拓を……」

「わしがそなたに命じたのは魔王討伐。そのような事は命じておらんわ」

「……」

「申し開きせぬか。まあよい。次こそは勇者として働いてもらおう」

「と、言われますと?」

「魔王城に報復攻撃を仕掛ける。隣国にも連合に加わるよう打診しよう」


確かにこのタイミングでの反撃は魔族側も隙をつかれるかもしれない。

それだけの戦力をどこかに温存してあったのか。

魔王城にはミリムは帰っているんだろうか。


「そなたには単独で先陣を切って貰いたい」


なるほど。これは多分治療を後回しにされた貴族の告げ口が届いているな。

危険な任務に放り込んで勝てばよし、負けても厄介払いになる。

この騎士位の徽章もそろそろ役に立たないだろうな。


「分かりました。私とこの子で魔王城に突入します」

「それでよい。明日出立せよ。明後日全軍進軍させる」


一日しか猶予はないか……

ちらっとリルシュが視線を寄越す。

王の首を取りたきゃ取れる。そういうアイコンタクト。

いいや、ここでコイツが消えても国が混乱するだけだ。

首を横に振ってみせる。

城を後にする。


「いいのか? 魔王城ってミリムの城だろ?」

「うん、それなんだけど……」


さっき包帯でもないかと荷物をひっくり返したときに気づいたことがあった。

ミリムに押し付けられたローブ。

拡げてみると地図が刻まれていた。

あの一瞬でやったんだろうか。そういえば初めて会った時も地図出してくれたっけ。


「それが魔王城か?」

「たぶん、このルートは安全なんだと思う」

「そうか、それなら先回りして人間どもをやっつけてやろう?」

「ダメだよリルシュ。兵士一人ひとりは命令されてるだけなんだ」

「じゃあミリムの部下を見殺しにするのか?」

「戦闘自体を回避する。まずは魔王城に急ごう」

「ひなたは優しいな」

「もう出会った誰かが悲しむの嫌なんだよ……」


この地図はきっとミリムの信頼なんだ。なんとしても応えなきゃ。


ケト商会へ急ぐ。

最速の交通手段を手に入れたかった。

帆布を使えば気球くらい作れるか?

用意している時間が無駄か?


「これはこれは勇者様、いかがなされたかな?」

「フォンさん! どういうことですか!?」


先日は土下座していた男。今は堂々と。行く手を私兵が塞ぐ。


「どうもなにも、商人は金で動くもの。アナタお金持ってないでしょう?」

「その獣人のお嬢さんなら高く買ってもいいですよ?」


飛び出そうとするリルシュを止める。

そうか。甘かった。

この間に全部根回しされていたのか。

アリアカザール王国を捨ててケト商会だけ手に入れるなんて虫のいい話は無理か。

まずい、それなら一刻も早く魔王城に向かわねば……


風が吹き、セイルはそれを受けた。

外が騒がしい。なんだ?


もやいが()()()()。船が離れる。


「お嬢! 俺たちはお嬢についていくぜ!! グラトロー共和国で待つ!!」


なんだよ。泣かせるじゃないか。


「わかった!! 必ず行くから!!!」

「グラトロー共和国?」

「確かここから東にある貿易都市国家だよ。なんとか首の皮一枚繋がったってとこか」

「そこに向かうのか?」

「もちろん、魔王城の後にね」



最初の拠点、宿の一階、カウンターに有り金全部置く。


「食料と、足! なんでもいい! 一番速い移動手段は何ですか!?」

「ふぇ!? う、馬でしょうか!?」

「すぐ用意できますか!?」

「先ほどそちらの方が乗って来られたものが……」


久々に話す少女は剣幕に驚いている様子だった。

馬か……

馬にも休息は必要だ。魔王城までもつか……

いや、その前に乗馬経験がない。


「リルシュ、馬乗ったことある?」

「ああ、それがどうした?」

「手綱、お願い……」


リルシュは一瞬驚いた顔をしたが


「ああ、まかせろ!」


頼もしい。

適当に食事を済ませて手綱をリルシュに任せて後ろに乗る。

高い、馬ってこんな高いの?

びびってる場合じゃない。馬には神聖魔法は効くのか?

騎兵の航続距離を延ばす目的で組み込まれた術式があった。

神への祈りも戦争の道具にされる。どこも同じか。

でも、今は助かった。


神の加護を受けた疲れ知らずの馬は夜通し駆けた。

魔王城へ、最低限の荷物でいい。片道でいい。

一刻も早く、軍に先に乗り込まれたら終わる。

そういうレースだった。


畑を駆ける。

湿原を駆ける。

森を駆ける。

古城を横目に。

ひたすら北へ。

北の大陸”魔界”とこの大陸を繋ぐ地峡、海岸が両側に見える。

ここを超えると魔族の領域だ。

馬を止め、降りてビンを取り出す。


「こんなところで何をするんだ?」

「暴力だよ」

「へ?」

「これは暴力で、死なんだ」

「???」


リルシュにはちんぷんかんぷんだった。

そりゃそうだ。今から試すことが何を引き起こすか?

想像できる者はこの世界にはいない。

ここら一帯の生き物たち、ごめん。

砂浜に術式を書き、発動する。

海水の中から中性子の余分にひっついた水素、を含む水を抽出する。

はたしてうまくいくかどうか……


「飲み水?」

「それ飲んじゃダメだよ」

「???」

「普通の水よりちょっと重い、特別な水なんだ」


重水で満たされた瓶を埋める。

大きく()()()()()()()()くらいの倒木を転がして印にした。



魔界に入ってからも道は続く。

ミリムの示してくれた道順通りに。

焼ける暁にオレンジと紫の混じる海岸づたいに森をぬける。

確かにそのルートだと魔族に見つかることもなく、魔王城を眺める丘までやってきた。


夜通し走ってきたんだ、神聖魔法で誤魔化していても水を飲ませ餌を与える必要はある。

ここまでか。森を出れば魔族に見つかるかもしれない。


幸い泉があったので馬を休める。

都合のいいことに、少しくぼみになっていて、森の外から見える場所じゃなかった。

魔王城の水源もここなのかもな。


「ひなた……」


リルシュがもじもじしている。

どうした?


「その……」


トイレなら何度か止まってしたはずなんだけど。


「痒いんだ……」


恥ずかしそうにリルシュは股間をかいていた。

しまった、やられた!


「な、なにを」

「いいから脱いで!!」


こっちは真剣なんだ。

リルシュの下半身を脱がすと思いっきり顔を近づける。


「ええええええ!? み、みるなああ!?」

「いた」

「へ?」

「馬のたてがみからか……」


ヤツはリルシュの育ったばかりのささやかな繁みを掴んで動かなかった。

シラミなんて現代日本(もといたせかい)じゃ性病か子どもに集団発生するくらいだからなぁ。


「ミリムが虫さされで熱病になったの見たよね? リルシュのお母さんも」

「あ、ああ…… これも、厄介なのか?」

「発疹チフスって病気になるけど…… 大丈夫だと思う。剃るよ?」

「へ? ええええ!?!?」


所持品唯一のまともな刃物。死せざる戦士の剣。

それは剣というより刀だったが、勇者が手にした宝剣の最初の用途は仲間の陰毛を剃ることとなった。

しょりしょり。


二人で泉で水浴びして、衣服は全部焚火で炙った。

アタマジラミで頭に大発生ってならなければいいけど。

まあその時は覚悟して丸坊主になるか。

私は復元術式使うという奥の手があるんだけど。

リルシュだけ尼さんスタイルはかわいそうだしな。

どっちみち見つかったら終わりなんだ。

気にせず全裸で並んで仮眠をとった。




「さて…… どうしたもんかねぇ?」


スマホの時計に目を落とす。

軍が動きだすタイムリミットまで20時間といったところか。


「まあ、やれるだけやりますかね」


虚勢だった。無理やりにでも笑うしかない。

立ち上がり、リルシュを起こす。

行くよ、魔王城に。


地図は城の中まで示してあった。

泉から歩いてそう遠くない場所に、内側からしか開かないはずの”出口”は開いていた。

そうか、緊急時の脱出路なんだ。

内側から開いている、ということはやったのはミリムに違いない。

狭い通路を抜けると広間に出たが、肩幅ほどのらせん階段が続く。

暗く、狭くはあったが危険はなかった。

階段が天井に続いている。

ここがゴールか。

無条件でミリムだけに会えるとは限らない。

覚悟を決めて天井を持ち上げる。

飛び出した瞬間空気が凍り付いた。


「人間!? 一体どこから!?」


魔族の兵士が武器を構える。

ここは玉座の裏側!?

迂闊だったか、戦うしかないのか。

リルシュも姿勢を低くする。

横から威厳を気にして無理に張ったような聞き覚えのある声が空気を破った。


「待て! アタシの客人だ」

「ミリム……」

「勇者ひなたよ、敵ながらよくぞここまで参った」


そういうのは玉座の表側でやろうよ、後ろ向きだとかっこつかないよ。

なんだよ、泣きそうじゃないか。


「も、もし、仲間になるとい、いうのなら、せ、世界の半分をやろう……」


その台詞、こっちでもあるんだな。

声震えてるじゃないか。

威厳なくなるぞ。


黙ってミリムを抱きしめた。


「ふぁ、これ、これしか、これしか止めかた思いつかなくて……」


泣き出しちゃったよ……

へたり込んじゃったよ……


「元から味方だよ。私は。ミリムの」


ミリムの手を取り起こしてやる。

きゅっと抱き寄せる。


「ありがとう」


リルシュはざわつく兵士に睨みをきかせてくれていた。

ミリムの肩をりっかりと掴む。


「さ、魔王なんでしょ?」


ぽんと頭をたたく。

ぐしっと涙をぬぐうとミリムは高らかに宣言した。


「人間の勇者、ひなたは我が手に落ちた!! これより彼女とここにいる獣人リルシュは我が配下とする!!」


これどうなんだ? という戸惑いはあったが、兵士たちもついにおおおお! と声をあげた。


「ミリム! どういうことだ! 配下になった覚えはないぞ!」

「まあまあ、そこは魔王という体裁があるんだよ」

「ご、ごめん……」

「ひなたはいいのか?」

「私はいいよ。それより…… ミリム、ひとつ頼めるかな?」

「う?」


魔王城の一番高いところに登ってみたけど、まだあのビンは見えない。

リルシュと二人カゴにのせてもらって飛べる魔族にさげてもらう。

大空高く。

もちろんミリムも一緒だ。

よし、目印が見えた。


さて。

できるかどうか。


「みんな、直視しちゃダメだよ」


魔導書に新たな術式を加える。

デューテリウム。中性子を余分に持った重水素。

これを高温、高圧環境に晒してやれば核融合反応が起きる。

まさに太陽そのものを生み出す術式だった。

光学収束魔法も重ねて使う。

あたりが暗くなる。

太陽光をいくら集めたところで太陽の表面温度までしか上がらない。

太陽の中心、太陽核の温度が必要だった。

魔法、それはこの世界特有の理に干渉する力。

いままで色々手探りだったけど。

これからも手探りなんだろうけど。

おそらく体のどこかに蓄えられている魔力を消費して理を曲げるんだと思う。

無理な術式は成立しない。無茶な術式は魔力を奪う。

正確なイメージも重要だった。

おばけカモシカを吹っ飛ばしたときにイメージした水分子。

それに二つくっつく水素原子には二つの中性子をぶら下げて電子が回る。

いける!!!!

材料はあそこに置いてきた。

魔力なら全部もってけ。

一点へ圧縮する。

光を重ねる。

陽子、くっつけ!!!!


リルシュはあのビンに細工がしてあることはわかっていたが、何が起こるのか予想もできなかった。

ミリムはひなたのことだから、とんでもないことをしようとしているだろうと思っていた。

それでも。

たとえそれでも。


夕暮れ近いというのに、地面に太陽があった。

その黄色にもピンクにも紫にも見えた火球はほんの一瞬、経験したことない眩しさで輝いて爆ぜた。

あたりは真夏の炎天のように明るくなった。

真っ白な世界は意識する間に終わる。

あまりに眩しく、影がよりくっきり濃くなったような気がした。


「ミリム、風が来る! 逃げて!!」

「へ!?」


暫くしてぼぉんと重い音が響く。

水素は陽子ひとつの原子だ。

コレが二つくっつくとヘリウム3となる。

生まれたヘリウム3同士はくっついてヘリウム4となり、陽子ふたつを放出する。

それはまたヘリウム3となる。

連鎖する反応はエネルギーを放出しきるまで続く。


地面の太陽を包む水蒸気の真っ白な大きなドームは空を駆け登り、キノコ状になった。

途中で一度折れ、なおも勢いは衰えず成層圏まで育つ。

めりめりと地表を大気が舐める様子が近づく。


「爆風が来るよ!!」


空気の塊に押し上げられるように。

全員舞い上がる。

これだけ離れていても熱い。

うはは、もうなるようになれだ。

環境学者として生態系を破壊する行為に罪悪感はなかったわけではない。

それでも会話できる人間(ヒト)魔族(ヒト)の戦争というのはなんとか止めたかった。

この力に民衆は怯えるだろう。

しばらく引っ込んでてくれ、それでいい。


「うわあぁぁぁあああ!!! リルシュ!」

「ミリム!!」


リルシュはミリムに掴まれたみたいだな。

やばい、落ちる。

ここまでは考えてなかったな。いつも行き当たりばったりだ。

あ、女の体って落ちるとき股間ヒュンてならないんだな。


ミリムはリルシュを態勢を立て直した部下に託すと翼をぴっと体にまとわせて頭から降下した。


「ひなた!!!!」


ばさ、と翼を開く。もう地面はすぐそこ。

大地にキスする前にミリムの腕の中にいた。

あはは、助かったよミリム。


「先に、先に言ってよおおおおおおお」

「ごめんごめん、あんま自信なくってさ……」

「こ、今度は何したの……?」


ミリムが青ざめているのは私が墜落したからか、その威力を見たからか。

改めてそこを見ると、細く繋がっていた大地はなくなり、海水がなだれ込んでいた。

キノコ雲が降らせる雨と海水のうねりですぐにその境界はよくわからなくなっていった。


「私の名前、太陽って意味なんだ」

「へ?」

「太陽を作ったんだよ……」


魔王は悪戯っぽく笑う少女が味方でよかったと心底安堵した。

この世界にはまだ存在しない暴力だった。



馬を回収して魔王城を見学する。

あ、注意してね、そいつシラミついてるから。

まあミリムは下の心配は要らないけど。

うん、人間から簒奪して生活している魔族に作れる建物ではない。

過去に人間が作った城なんだろう。

長らく使われていなかったであろう厨房や入浴施設も発見した。

なんだ、あんなに汚かったのに。お風呂あるんだ。

驚くことに人間も何人か暮らしていた。

こちらでは奴隷身分ではあったが、ミリムが帰った一昨日に急に待遇が改善され混乱していた。

よしよし、一次産業の担い手は大事にしないといけない、と教えたことを早速実践しているようだ。


土地も痩せているようで畑を作ろうと試みた跡、のような有様だった。


「ひなた、そっちは汚いよ!?」


ミリムに止められるも踏み入れたそこは、汚物が貯められているエリアだった。

むせるような悪臭が鼻をつき、ハエが雲のように飛ぶ。

しかし、その一角は湯気を放っており、発酵が進んでいることがわかった。

なんだ、川に垂れ流して汚染させている王都よりしっかりしてるじゃないか。

作物の種さえ手に入ればすぐにでも農業改革はできそうだな。

心配するべきは赤痢やギョウ虫くらいか。

虫下しも探そうか。


「ひなたは臭いのが好きなのか?」


いぶかし気に鼻をつまみながらリルシュ。


「うん。リルシュのことは好きだよ?」


一瞬の間。


「ど、どういう意味だっ!?」


顔真っ赤だ。とがった猫耳がくるくる回る。この子もかわいいなぁ。

今度はお尻が痒いとか言い出さないよう衛生管理ちゃんとしよう。

ふたりとも、嫁入り前の乙女なんだからな……


立派なお城とは対照的に貧相な食卓に、なんとか間に合わせの調味料で味付けした到底料理とは呼びたくない何かで彩りを添えた。


入浴施設は使い物にならなかったので例の泉にやってきた。

脱ぐ。もう寒い季節じゃない。

三人で水と戯れながら今後のことを話す。


「アリアカザール王国とはもう決別したものと思ってる」

「ひなたはもう魔王軍だもんねー」

「いいのか? その、故郷じゃないのか?」


そうか、リルシュにはまだ言ってなかったっけ。


「私は異世界から召喚されたんだよ」

「な……」


ミリムには最初に会ったときにお互いのことを話す機会があった。

リルシュが仲間になってからはミリムもいたし、あんまり身の上話もしてなかったな。


「地面に太陽作ったのもね。異世界の魔法って言えばいいのかな」


ここはぼかしておきたい。知らなくていいこともある。

世界を破壊しかねない力を背負うのは一人でいい。


「そうだったのか……」

「アタシもこないだ父親死んで、天涯孤独になったよ?」

「ミリムは強いんだな」

「あはは、そのかわりひなたが来てくれたもん!」


抱きつかれる。頬ずりまでしてくる。泉で冷えた肌にミリムのぬくもりが伝わる。

スキンシップ強め。男にはやるなよ?


城に戻る。

さて、人間の軍は流石にあの爆心地の海を越えてはこないだろう。

ひとまずの目標は作物の入手、ひとまずの目的地はグラトロー共和国。

別のルートで南に海を越えなきゃな。

次の冬を豊かに過ごせるくらいの物資を調達しなきゃいけない。

来年にはアリアカザール王国を()()

覚悟を決めていた。

絶対王政から議会制にして下水整備と農地の輪作を徹底する。

漁業は大型定置網を使おうか。

矢印型に網を打つ琵琶湖の”エリ”漁を複数やらせてもいい。


いや、まずは魔王城だな。ミリムの国だ。一歩先に潤わせてやろう。

漁の仕方は伝えて旅立つか。

お風呂の修繕も頼んでおかないとな。


よし。今度こそ気球を作ろう。

裁縫くらいできるだろう。布くらいあるだろう。

熱気球である必要はない。最も軽い気体、水素を使えばもっと小さくて済む。

水は魔法で操りまくってきたんだ。

飛行船ヒンデンブルグ号爆発事故の原因は水素が燃えたからじゃない。

燃えやすい塗料で外皮を塗ったせいだ。

天候は操れる。


考えが纏まると二人が待ってる寝室へ向かう。

報告のために、寝るために。

ミリムがどうしてもと聞かなかったんだけど。


外はもう暗く、壊れかけた燭台の火が揺れる。

テラスに吹き込む風は夏の花の香りがした。

魔界に咲く花、か。


リルシュがミリムの髪を編んでいた。


「ひなた、おかえりー。リルシュ、上手いんだよ?」

「いや、これはだな……」

「あはは、二人髪長いもんねー」


何故か照れるリルシュ。

そうだなぁ、この姿になったとき髪あったのめんどくさくて肩で切っちゃったけど。

シラミには短いほうがいいけど、女の子なんだもんなぁ。


「もといた世界でそういう経験あんまなくてさ、リルシュ、教えてくれる?」

「じゃあリルシュの髪、練習だーい」

「い、痛くするなよ!?」


どうせこれから寝るんだから朝には乱れるんだけど。

まあいいか。

平和な魔王城の夜はこうして更けていった。

逆流性食道炎再発で苦しんでます……

ちょっとペース落ちるかもしれませんがよろしくお願い致します。

あまり小説形式でものを書いたことがなく、TRPG一人プレイのつもりで書いています。

さて、これから三人パーティで珍道中やります!

まだリルシュの一人称を出してないのですがボクっ子にしようか迷ってます(笑)

もしかすると文字数少なめの日常編とか挟むかも?

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[気になる点] 逆流性食道炎の再発について。 大丈夫ですか? [一言] めっちゃ面白かったです。 続きがよみたいです。
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