異世界旅情TSもの(仮題ひなたBocco‼ 略して鉈矛)五話 怒れる獣
「先に盟約ラインを越えて侵してきたのはそちらだからな、人狩り」
月明りの下、力なくうな垂れた男の首を掲げるは小柄な獣人の少女。
その背格好はひなたやミリムとそう違わない。
男は断末魔をあげることすら許されず。
ぐぢゅっという音をたてて喉は握り潰された。
獣は男を投げ捨てる。
「ケト商会…… か……」
血の滴る爪を舐める。
獣の瞳は妖しく碧に光る。
そこに震えながら近づく、幼い人間の女の子。
ミルク壺を抱えている。
「う、うわあああああああああああ!!」
女の子がミルク壺を離す前にその首を刈る。
がこっと壺が割れ、こぼれる液体。
青い炎が上がり、獣は女の子の骸から飛びのく。
「子どもまで捨て駒かっ!!」
たちまち炎に包まれた女の子をせめて苦しむ前に、一撃で葬れたことを喜ぼう。
自分より幼い、こんな子供に。
懐に火種、酒を持たせて突っ込ませる。
確かに火の手は大きくなり、それ以上の獣人たちの追撃は阻まれた。
「くそっ!! 撤退する!!」
ひなた達の入港したニューカザール村から南方、半島の南端にあたる海岸に多くの小舟が群がっていた。
アウトリガーを持つ、小型だが長距離も航海できるボート。
その主である獣人たちは遥か南方、地図にない大陸から大群を率いてやってきていた。
大陸は獣人の楽園だった。
ネコ科の獣のような耳と尻尾を持つ彼らは独自の文化圏の形成とともに独特の身体強化魔法を身に着けていた。
彼らが盟約ラインと呼ぶ緯度から北の民への迫害は黙認していた。
それは古代に交わされた停戦条約のようなもので、人間からは忘れ去られていた。
ケト商会はそのラインを越え、奴隷狩りを行っていた。
目に余る暴挙は、ついに大陸本土の”獣王”の怒りを買った。
彼らもまた海を渡って侵攻していた。
アリアカザール王国の橋頭保、ケト商会を滅ぼすために。
悲劇に散った同胞の魂を大地へと還すために。
それは彼らの信仰だった。
少女は”獣王”大ガラシュの娘、名をリルシュ。
母の雄姿を学ぶだけの予定だった。
”獣王”は女性だった。
「母上の容態はどうか!?」
「はっ! 熱は下がり、今は小康状態を保っております!」
返事をせずに小屋に入る。
急ごしらえのベッドに横たわる”獣王”は病と闘っていた。
「リルシュ…… 狩れたか……?」
「だめだよ! お母様!!」
体を起こそうとする”獣王”に駆け寄り、止める。
「うん…… 皆殺しにしてやる……」
「大地の憤怒、為すべき時機かと思ったが……」
自分が病に倒れたこと。
それは神が咎めた誤りだったのか?
”獣王”もまた、信仰に囚われていた。
ひなたとミリムはリゾートを満喫していた。
あきれるほど青い空、白い砂浜。照り付ける太陽。
薫るのは南国の花々。
到着してから一週間ほどが経っていた。
サトウキビは拍子抜けするほどあっさりと見つかった。
輸入はあったのだからそりゃそうか。
お茶、天然ゴム、香辛料……
片っ端から変わった植物を集めてもらっていた。
ジャガイモはあったからもしや、と思って森に立ち入りもしたが、カカオやバニラはなかった。
ミリムが喜ぶと思ったんだけどな。
まあ充分喜んではいるようだ。
今だってココナッツ片手にはしゃぎまわっている。
ここからは生産効率を上げることを考えよう。
ちゃんと畑を耕して畝を作ること。
サトウキビは草なので根本に土をしっかりと入れて充分なスペースを作ることも大事だ。
逐次追肥するのも必要だ。
収穫後、残った株から再度育てることで何度も収穫が可能になる。
栽培ノウハウを教えるだけでも生産量は二倍三倍になるだろう。
作付け面積も増やしてもらおう。全部買い上げても問題ない。
そういえば王都の農業はどんな風に回しているんだろう。
人間の排泄物は肥料として活用されていなかった。
ここはテコ入れできるかもしれないな。
「ひなた様」
声をかけてきたのはここを取り仕切る獣人の青年。
「どうしました?」
まずは笑顔を返す。こういう小技も慣れてきた。
それに対して青年の表情は強張ったものだった。
「それが……」
南端の村が襲撃された。子供を含む9割が犠牲に。
大勢の武装した獣人を見たと。
背筋に冷たい汗が流れる。
なんてこった。
「その後も散発的に周囲の畑が焼かれ、北上しているようです」
それはまずい。
とってもまずい。
「ひなた…… 大丈夫?」
考え込んでいるとミリムが覗き込んでいた。
できれば戦闘は避けたいところだが、話ができるかわからない。
「ミリム、戦闘、いける?」
「アタシ強いよ?」
得意げに腕をあげる。力こぶはない。
とっても頼もしいな。
「頼りにしてるよ……!」
また情報不足だ。
敵戦力は? 数は? 武装は? どんな風に襲ってくる? 目的は?
ここで待ってたらやられる。先手を打つしかなかった。
相手が”軍”であるなら下手はできない。
こちらに軍と呼べる兵力はなかった。
ケト商会の傭兵団はさらに南方の島々に向いて出港していた。
逃げることも考えたが、船に乗れなかった人は見捨てることになる。
自分の一瞬の迷いがエリックを殺した。
逃げるな、攻めろ。
新しい魔法を考えている時間はない。
手持ちの魔法を全て目の前の対象複数に向けられるよう調整する。
全てが一瞬にして大量虐殺可能な超大技ばかりだ。できれば使いたくない。
楽観的観測に過ぎないけど、一発ぶっ放せば交渉のテーブルについてくれる可能性はある。
まずはまだ攻撃されていない畑、集落の防御を固めなきゃな。
落とし穴くらいは掘れるはずだ。
時間が惜しい。
交通手段がない。
「ひなたくらいなら運べるよ?」
ミリムは優秀だった。
ぶら下がって空を飛んだ。
おお、速い。
羽にしてもそんなに筋肉があったとは思えないのだけど、魔族は筋繊維自体が別物なんだろうか。
サトウキビ畑が続き、途切れると集落がある。
手始めにここから守りを固めよう。
「大丈夫ですか!?」
落ち着いて対応を、と言おうと思った。
「ひなた、危ない!!」
ミリムの回し蹴りが空中から飛んでくる。
それを食らって吹っ飛ばされたおかげで奇襲を躱すことができた。
「ちっ……」
獣人の少女。背格好は大差ない。灰色の髪を乱雑にくくり、敵意を剥き出しで低く構える。
相手は一人か?
状況を把握する前にミリムが飛び出していた。
「こいつっ!!」
見えない大鎌を振り回すようなミリムの攻撃、これも魔法なのだろうか。
獣はその悉くを身軽に躱す。
「ひなた、下がって……」
よく見ると集落の住人は全て人質に取られていた。
「ミリム、だめ!」
「わかってる!!」
ミリムの懐に飛び込む獣。掌底を突き上げ顎を狙う。
のけ反って躱し、後転、空中で羽ばたく。
獣は前転した勢いで逆立ちし、空を蹴り上げる。
ばちっという音とともに魔王はバランスを崩した。
地に墜ち、飛び起きる。獣はいない。
下。構えが低すぎる。足を刈りに来る。
跳ねて躱し、後ろ回し蹴りで首を狙うが頭一個下にある。
体術じゃ分が悪い。
距離をとる。
「ひなた…… 殺していい?」
ミリムの顔が怖い。
こんな顔させたくないんだ。
「あなたたちの目的は何!?」
「目的? 目的だと? お前たちは同胞に何をした!!」
「しまった! ひなた!!!」
まずい。
獣はミリムの脇をすり抜けひなたに狙いを定めた。
まだここで死ぬわけにはいかない。
咄嗟に使ったのは二つめの魔法。
気圧の塊は獣には躱され、そのまま空へ駆け抜けた。
風が吹いた。耳が痛い。
対流圏を穿ち、暖かく湿った空気を成層圏まで打ち上げた。
それは急激に冷やされ大きな雲を生む。
やがてそれは雨となり、大地に降った。
「なんだこれは…… お前、何をした!!?」
「は、話をしよう!!」
獣に掌を突き出す。
余裕はない。話ができないなら次は蒸散魔法を。
表情が消えるのが自分でも分かる。
獣は一瞬びくっと震え、逡巡した。
「いいだろう、聴こう」
ほっとした。この子が爆散するところも見たくはない。
「私はひなた。ケト商会の者じゃない。この世界を変えに来たんだよ」
獣は話を聞いてくれた。
大人しくなるとその素振りはただの同世代の少女だった。
どしゃぶりの雨を凌ぐため、小屋の軒先に入る。
事情を話す。
「全部納得したわけじゃないからな!」
「うん…… ありがとう」
彼女が怒っている理由は類推できた。
ケト商会が行っている奴隷狩りだろう。
それは早急にやめさせたいと思っている。嘘偽りない。
「ひなた、寒いよ……」
「雨に打たれたからね…… ごめん」
濡れたミリムの肌を拭う。
かたかた震えている。
雨に濡れてもそこまで寒いような気温ではない。
「……ミリム?」
顔が真っ赤だ。様子がおかしい。
「ミリム!!」
額に手をあてる。明らかに熱い。
そうだ、なんでこんなこと失念していたんだろう。
東南アジアを旅行するなら予防薬を使うじゃないか。
年間100万人もの命を奪う感染症、マラリア。
細菌やウイルスではないその微細な病原体は蚊を媒介し感染する。
他の疾病も可能性があったが、一番恐れるべきはそれだった。
この子を連れてきたのは自分だ。
魔界にいれば感染することはなかっただろう。
いや、今すべきことは後悔じゃない。
マラリアの薬なら知っている。
キニーネ。人類が最初に手にした抗マラリア薬。
それは南米にしかないアカキナノキの樹皮から作られた。
このあたりの植物相はアジアに近い。果たして存在するか。
召喚魔法と同じ要領で手に入れることはできないか。
それとも体内のマラリア原虫を直接攻撃する魔法は?
そうだ、神聖魔法に病を治す魔法はあったはず。
ローブからその術式を読み出す。
おかしい、神聖魔法が発動しない。
このあたりでは信仰されていないのか?
いや、違う。
魔族を救うこと自体が神の恩寵のイメージに背くのだ。
役立たずな神もいたものだ。
焦る。苛立つ。
何かないか、何かないか、何かないか?
「母上と同じだ……」
「リルシュのお母さんも熱出してるの!!?」
「はは…… 神の怒りを買ったんだ……」
「これは病気。私が治すよ。ミリムも、大ガラシュさんも」
必ず何か方法があるはずだ。そう信じて言い放つ。
ミリムを荷車に寝かせてニューカザール村へ急ぐ。
村にはここ一週間自ら収集したり、集めてもらった素材がある。
その中に使えるものがあるかもしれない。
これも違う、それも違う。
やはり魔法を試すしかないか?
「お嬢! 船の薬は見たのか!?」
航海士が心配して声をかけてくれる。
そういえば船にもある程度の薬草は載せたはずだ。
樹皮なんてなかった気がするけど……
目録に目を通す。
「あ…… あったああああああぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!」
クソニンジン。
クソなどという名がついているが、独特のニオイはドリアンのように文字通りではない。
葉は確かにニンジンに似てるっちゃ似ている。
マラリアに効く漢方で、数年前に中国人のおばちゃんがノーベル賞をとっていたはず。
とりあえずこれをミリムに突っ込もう。
その間に神聖魔法の一般魔法展開を試みよう。
信仰に頼らない、一般魔法での回復魔法。感染症ならば免疫賦活だろうか。
自己免疫疾患にならないか。アレルギーにも気を付けなければならない。
「リルシュ! お母さんをここへ連れて来られる!?」
”獣王”は予定と違って、平和に病人としてケト商会の村へと運ばれることとなった。
数日。
「ひなた…… アタシが死んだら…… 次の魔王に……」
「一緒に帰るの!!」
高熱と小康状態を繰り返す。マラリアで間違いなさそうだ。
クソニンジンが効けばいいが……
「こんな屈辱……」
「お母様!!」
大ガラシュは暴れようともしたが、止めるリルシュに抗うことはできない程衰弱していた。
二人分け隔てなく親身に看病するひなたの姿にリルシュは自分の認識を改めていた。
さらに数日。
奴隷狩りを終えた船が入港してくる。
構えるリルシュより、笑顔の裏に憤怒を隠していたのはひなただった。
「全員もといたところに帰して謝って来てください」
事情を知らない彼らは少女の”命令”を鼻で笑ったが、すぐに後悔することになる。
ひなたの光学収束魔法は彼らが口答えする度にそこいらを焼いた。
連れて来られた人たちの体調も一人一人確認していった。
性的暴行を受けた女性もいた。犯人は船内にいる。
神聖魔法で体は治せたが、精神面は癒せない。
犯人は誰か? その問いすら彼女には辛いものだろう。
歯がゆい。
罪を裁く法もないんだ。
かつて男性だった記憶がどうにもならない性的衝動を覚えている。
女性となった今、他人を文字通り受け入れる恐怖も想像がつくようになっていた。
どうにかしなきゃ。いや、どうにかする。
今は、ごめん。
さらに数日。
ミリムはすっかり回復していた。
クソニンジンは効果があった。
魔族が強靭な種族だということもあっただろう。
免疫賦活魔法は使わなくて済んだ。
「ひなたー、食べさせてー」
「もう自分で食べられるだろー?」
風邪引いて学校休んだ小学生か。
それでも無事じゃれ合えるのが嬉しかった。
「ひなた…… 誤解していた。すまん」
「気にしなくていいよ。悪いのはケト商会なんだし」
リルシュの認識は完全に変わっていた。
実は看病の間にいつでも襲撃できるようニューカザール村を包囲していた。
ひなたもそれに気づいていた。
そんなことより二人を助けるほうが優先だった。
「ひなたさえ良ければなんだが……」
「ん?」
「その、世界を変える旅…… 同行させては貰えないか?」
迷いがあった。
ミリムも連れまわして病気にさせてしまった。
親玉をやっつければ終わり、そんな目標でもなかった。
何から手をつけようか。
社会的格差を無くすためにはまず全員の生活水準を上げること。
それを支える一次生産の効率化。
王都に戻ったとしても今すぐそれを実行できる権力はない。
それでもこの子を見知らぬ土地へ連れて行っていいものか。
「少し、考えさせて……」
数日後、大ガラシュも概ね回復した。
遥か南方、獣人の大陸があること。その国は女系で太陽と大地を信仰していること。
オーストラリアに比定するのであれば、畜産には最適な土地だろう。
「リルシュを…… 連れていってはくれまいか? あの子には見聞が必要だ。其方は賢い」
”獣王”にも頼まれてしまった。
改めてリルシュに問う。
王都に行って獣人がどのような扱いでも軽率な行動はしないこと。
危険を孕む旅路であること。
正直言ってひなた自身何から手を付けていいのかわかっていないこと。
リルシュはその全てを承諾した。
「頼む」
「……よろしくね?」
リルシュが仲間になった。
旅立ちの朝が来る。
大ガラシュは”獣王”の称号をリルシュに譲って軍を率いて帰っていった。
自分より正しい判断を下した娘こそ王の称号に相応しいと。
”魔王”に”獣王”か……
二人とも見た目はただの女の子なんだけどなぁ。
私もか。
猫耳の青年にお礼を言って船に向かう。
帰りは荷物満載だ。砂糖もたっぷりあるぞ。
栽培マニュアルは作っておいたから次の便から収穫は増えるだろう。
往路にはクソニンジンを積もう。
出港の時には村人全員が浜に集まってくれた。
ひとりひとりにハグして回る。
泣くなよ、おばちゃん。また来るよ。
いいところだったな。
夕方から夜に外出るなよ。蚊に刺されるなよ。
錨を上げろ。
帆は再び風を受ける。
新たな仲間を加え、船は王都へ航走り出した。
「ひなた、これどうしたらいいんだ?」
個室から声がする。
トイレの使い方がわからないのか。
「その穴の上に座って出せばいいんだよ」
「力入れにくいな……」
「手伝おうか?」
「か、構わん!!」
この子はミリムよりは羞恥心あるのかな。
お風呂からは逃がさないけど。
「ふぁぁああああ!! 自分でやるっ! 嗅ぐなぁああああ!!!」
「アタシもされたよー。ひなたの趣味なんだよ」
うん。健康な女児。
趣味にするな。無意味に嗅ぐぞ。
ミリムは嗅がせてくれそうだから怖い。
猫に近い種族なら交尾排卵があるんだろうか。
だとしたら男の子のヤツはトゲトゲなんだろうか。
猫は発情期を持ち、交尾の刺激で排卵誘発が起きる。
そのペニスは逆立つように髪の毛のようなトゲが生えている。
かつては人間にもあったらしい。
リルシュは知ってるんだろうか。
訊くのは今はやめようか。痴女だと思われそうだ。
リルシュはミリムほど汚れていなかった。
体を洗う習慣は魔族よりあるのかな。
お風呂あがり、三人で体を拭いているとぽたりと赤いものが床に落ちた。
「ひなた、血が出てる!」
「何!? 大丈夫か!?」
そうか。
自分の体の変化はあんまり注意してなかったな。
自然排卵動物ならそれに先立って子宮内膜が剥離する。
それは月経血として排出される。
知識としては知っていた。
体験するのは初めてだった。
これが女の体なのか。
君らはまだなのか。
君らの種族は性教育とかないのかな?
お手本にならなきゃな。
どうしたもんかな。
出航しちゃったしな。
羽つきナプキンなんて売ってないしな……
ミリムより先でよかったかもな。
これから対応できるからな……
奇しくもその日の夕食は赤米だった。
試行錯誤の末、創傷用のガーゼを詰めることにした。
翌日。
船室をひとつ割いて、男どもを追い出す。
ここは今から教室だ。
ひなた先生の性教育講座、二人ともよく聞けよ?
卵子と精子が受精してー……
減数分裂がー……
性染色体XとYがあってY遺伝子上のSRYの発現により母胎内で男性化……
いや、ここまではいいか。
えー、男の人のはー……
小さな黒板はあったので図説する。
「前から思ってたけどひなた、なんでそんなこと知ってるの?」
「男の人のは、そんな風に変形するのか! ほう!!」
あー獣人はわかんない。魔族はどうだろう。
尻尾トカゲっぽかったし、トカゲならヘミペニスといって二本生えてる。
確かめようがなかった。
「見たことあるの!?」
「経験あるのか!?」
「ないよぉ!!!!!」
興味津々な二人は次々と答えにくい質問をぶつけてくる。
思春期の女の子なんだったな。
そら異性の体には興味あるか。
ぐっ……
すべて正解は知っているのだけれど。
いやいや、二人が素敵なママになれるかどうかの分岐点なのだ。
しっかりしなければ。
テンション低いんだよー。勘弁してくれよー。
男は狼だぞー。変な好奇心とかで簡単に許すなよー。
コイツの子を孕みたい! と決心した相手を選べよー。
襲われることはないだろ、君ら強いから。
男の子は滅っ茶苦茶キモチイイらしくてその快感を得るためバーサーカーになるぞ。
ちょっと誇張して教えておいた。
つられるように数日後ミリムにも来た。
リルシュには来なかった。
風が止んだ。完璧な凪。
航海にはこんな日もある。
帆船は微風すらないのならその場に留まるしかない。
「釣りでもするかー?」
「美味しいヤツ釣ってねー」
「ひなたは天候を操れるんじゃないのか?」
あ、そうか。
気圧に干渉すれば風を作ることはできるのか。
リルシュ、ありがとう。
船は航走する。
漂う幽霊船発見。
三人で探検する。
お宝は…… ないか。
楽しかった。うん。
航海日誌にはおばけイカと戦った話が書かれていたが壊血病が見せた幻覚かな。
ここに来て一つ推論が確信に近くなっていた。
この世界には魔法があって魔族やら獣人やらいるが、神秘存在はおそらくいない。
おばけカモシカだって野生動物に魔法がかけられた存在だった。
魔法のかけられたイカならいるかもしれないが、伝承のクラーケンは多分いない。
その戦術を使う魔族の親玉ならいつも隣にいる。
”魔物”に恐れる必要はないな。
ここ数日でだいぶ寒くなった。そろそろ温帯かな。
色々あったけど、やっぱ南の海はよかったな。
急に寂しくなった気がして胸がじんとした。
船は航走する。
「王都が見えたぞー」
ああ、白亜の城、奥には召喚された山。
そういえばあの車両自体オーパーツだな。
なんかに使えないかな。
動力車だったかなぁ?
ぼんやり見てると、城から煙が上がるのが見えた。
街が…… 燃えてる?
攻撃を受けてる?
まずい、急げ。
「お嬢! 王都が!!」
ゆっくり農業改革、なんて思っていたが甘かった。
城のまわりに取りつく魔族の影と、放たれる炎魔法の光が見える。
いくつかは命中し、または避けられて花火のようにばらけて街へ落ちる。
「何してんだ、それじゃ街が燃えるだろっ!」
たとえ今すぐ城に行けたとて、この戦闘を止める力はあるのだろうか。
「魔族は人間の味方じゃなかったのか?」
「いや、戦争してるんだよ…… ミリムが私の味方なだけ」
「アタシはひなたの味方だよ!! もちろん、リルシュも!!」
魔王はこんなに素直でかわいいのに。
誰の許しで攻撃してんだよ。
戦の風は、魔王、獣王を仲間にしても勇者を捉え、離さなかった。
アクション表現むずかしー。
この回は難産でした。マラリアとクソニンジンをネタにけもっこが仲間になることはかなり早い段階で決めていたのですが、体調不良と相まって文章化に難儀しました。
ひとまずしばらくはこの三人で珍道中したいと思ってます。
どうぞよろしくお願いいたします!!!