あなたが穴を覗くなら
こんばんは、遊月です!
『殺伐感情戦線』作品、2話目です!
似たものを感じた二人、何も起こらないはずなどなく……
本編スタートです!!
自分でも、どうかしてると思う。
わたしにはそっちの趣味なんてなかったはずだし、そもそもまだ名前すら知らない、しかも年齢もどれくらいかわからない――ただ制服を差し引いても未成年なのはわかる――女の子に、どうしてキスなんてしようと思ったんだろう。
だけど、彼女も拒まなかった。
どうして? どうして?
疑問符ばかりのわたしに比べて彼女のキスは慣れたもので、仄かに煙草の臭いもするような気がして、頭がくらくらした。舌を吸われて、口のなかも舐められて、ついには胸にまで手が伸びてきて。
『うっさいなぁ、家来たってことはいいんしょ? 大人しくヤらせろよ』
「……や、」
「可愛いね、お姉さん。震えてるよ?」
『由依ちゃん処女だったんだ? あぁ、だからそんなんこだわってたんだ。わぁ、くっそめんどい』
「や、……だ、」
「お姉さん?」
やめてよ、もう。
もう終わったんでしょ。
なら、もう出てこないでよ!
『あのさ、泣いたって手遅れだから。認めろよ、もう俺とヤったんだよ、由依ちゃんは。もう動画もあるし、しばらくは俺のものな』
「やだ…………っ!!!」
「わっ、」
ずっと声が聞こえる。もういないはずなのに、ずっと声が聞こえるの、嫌だ、嫌だ、わたしそんなんじゃない、ただ綺麗な恋をしたかったの、あんなレイプみたいなんじゃなくて、わたしを愛してくれる人と、わたしも愛せる人と……っ
嫌だ、汚い、臭い、べたべたする、気持ち悪い、汚い、怖い、消えたい、嫌だ、助けて、嫌だ、見ないで、もう全部嫌だ――――
「大丈夫」
「いや、」
「大丈夫だから!」
耳元で強く叫ばれて、気付くとそこは雨が降る公園。
街灯の明かりに照らされて青白い彼女の顔が、まっすぐにわたしを見つめている。その瞳に映るわたしがどんな顔かまでは暗すぎて見えなかったけれど、雨に散らされていく桜の花びらを背負う彼女はとても綺麗に見えて。
「ねぇ、お姉さん」
「……ごめんなさい」
彼女の服はびしょびしょで、さっきまではなかった汚れもあった。わたしが突き飛ばしたのはあの男じゃなくてこの娘だったんだと気付いて、申し訳なさでいっぱいになった。
自分からキスしたくせに。
拒まなかった彼女を理由にして、さんざんキスしたくせに。
そのくせ、もういない人の影を勝手に見て、彼女を突き飛ばしたりなんかして……!
「いいんだよ、お姉さん?」
優しく、優しく。
「やっぱりあたしたちは似た者同士だったね」
「え?」
いっそ甘くすら聞こえるような声で、彼女はねっとりと囁いた。耳を唇で挟まれて、全身に鳥肌が立って力が抜けてしまう。可愛い、と囁く声が、幼い外見から想像できないほど艶かしかった。
「あたしもね、人を殺したの」
「…………え?」
静かに囁かれる声は、わたしの心だけじゃなくて全身を強く握りしめるような響きだった。
前書きに引き続き、遊月です。
最後の言葉、それはあまりにも恐ろしく……
次回で完結いたします。
ではではっ!!