表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/14

005 朕、観戦し、原父を失ふ。

  幸運の日の朝が来た。

 ちんが国プシと敵国ゲシアとの決戦の日だ。

 玉座の間の中庭に出たちんが前にひざまづくは、騎士75名、戦闘メイド60名、うち7名がプシが誇る精鋭という、総勢135名。

 

 ちんの横に控える総婦長そうふちょうが、まなじりを決し、

 「我、精霊が加護を受けし本日が幸運の日の決戦の見届人なり。

 諸君ら、このプシ国の最高戦力を持って、敵国ゲシアを見事うち破る姿を精霊様にお見せせよ。」

 と、檄を飛ばす。

 

 135名は、皆、声を揃え、

 「「「はっ!!」」」

 と応える。

 

 ちんは、うなずいた。

 戦いのことに口は出さず、ただ精霊の加護を思い頷いてみせるというのが先王とうさまの教え。7歳となったちんは、もうしっかりと王としての務めを果たすことができる。

 

 とはいえ、まだ朝は早く、幸運の季節といえど、肌寒い。ちんがそう思ったことを見て取ったのであろう。総婦長そうふちょうが、まなじりを戻し、ひざまづき言った。

「姫王閣下。外はまだおさむうございます。さ、駕籠かごの中へ。」


 すかさず脇にひかえていた侍医じいが目配せをした。医務隊の者たちがさっと動き出し、駕籠かごの中を確認し、粗相がないことを確認すると、駕籠かごの入り口の裾をそっと持ち開けた。兵たちを見下ろせるよう高い位置に作られた姫王壇ひめおうだんに登っていたちんは、転ばないよう添えられた総婦長そうふちょうの手に右手を支えられつつ、階段を一段一段降り、駕籠かごの中へと導かれた。

 

 その間に兵たちは中庭を出て、戦場に向かう準備をはじめる。ちん駕籠かごの中のちいさな炬燵おこたに足を入れたところで、総婦長そうふちょうが、外に立つ大老じいや侍医ジイに目配せをした。

 駕籠かごが静やかに、しかし、力強く持ち上げられた。大老じいや炬燵おこたに足を入れているちんに向かい、

 「姫王閣下、ご武運を!」

 と、強い声で言う。

 

 思いの外強い、その声を聞いたちんは、大老じいやたちに任せておけば玉座のあるこの城は安心だなと思いながら、うなずいた。


 ☆


 総大将であるちんを中心に、プシ国軍は歩を進めていく。

 ちん炬燵おこたの側にはべ総婦長そうふちょうが決戦の布陣を説明してくれる。前を固めるは精霊の定めに従い、右手に騎士60名、左手に戦闘メイド60名。そして、精鋭である執事長しつじちょうが、ちん駕籠かごの前を油断なく固める。駕籠かごを抱えるは、小太りの騎士8名。皆、ちんのそばにちこう寄ることが許される高貴な家の出の者にして、力持ちさんである。さらに、万が一に備え、駕籠かごの左右それぞれを3名ずつの騎士が固めている。

 ちんは、そうかとうなずいた。

 

 進軍のあいまに、総婦長そうふちょうが、本日の戦の見立てを説明してくれた。話の中心は、やはりちんが軍の7名の精鋭たち。総婦長そうふちょうは7名すべてと剣や杖を交えた試技を行い、すべての者の隔絶した実力を確かめたという。

 「50年に及ぶ戦闘メイドとしての私の経験の中で、あのように隔絶した力を持つ者を見たことはございません。例年、敵国ゲシアは、我が国プシよりも少し多くの軍勢を出して参ります。本日、幸運の日を決戦の日とすると伝えられたゲシアは、例年よりも多くの軍勢を出してくるかもしれません。しかし、敵兵が我が兵の2倍、いや、たとえ3倍の数で襲ってこようとも、あの7名ならば、ちいとも問題にしないものと、この総婦長そうふちょう、確信しております。」

 と総婦長そうふちょうは締めくくった。

 毎夜聞いている御伽噺オコタばなしよりもだいぶ長く続いた総婦長そうふちょうの話はいささか難しかったが、戦場を前に、ちんが眠くなることなどなかった。


 (つまりは、50年もの間に戦闘を極めた総婦長ばあやが認めた7名は、御伽噺オコタばなしで聞いた、一騎当千いっきとうせんというもの。)

 そう理解したちんは、ちんがプシ国軍の勝利を確信した。

 

 その時、側を固める騎士より、総婦長そうふちょうの下に、執事長しつじちょうからの伝言が届いた。その言葉に、一度数を聞き直したらしい総婦長そうふちょうだったが、もう一度数を聞き直すと騎士を下がらせた。

 「姫王閣下。敵国ゲシアとの兵を、執事長しつじちょうが確認したとのことです。」

 その後、すうっと息を吸って吐いてしながら、総婦長そうふちょうは静かに敵兵の数をちんに伝えた。

 「敵兵は、騎士1050名、戦闘メイド350名とのこと..精強な7名、ならば、何の問題もないかと。」

 その言葉は、ちんにもわかりやすく、区切り区切りだった。


 ちんは、うなずいた。

 (一騎当千いっきとうせんとして、戦闘メイド6名の方は随分と余裕がある、か。執事長しつじちょうの方も問題なし、と。)

 メイドたちの御伽噺オコタばなしを通じ、7歳にして、既に掛け算・割り算という高度な算法を取得済のちんには簡単な計算だった。

 

 ちんが計算を終えた時、外から数多くの叫び声が聞こえてきた。いくさの始まりを告げるときの声だろう。


 声が大きすぎたので、ちん駕籠かごの中の炬燵こたつに潜り丸くなった。

 「姫王閣下、良くてございましてよ。」と言い、総婦長そうふちょうは、炬燵こたつから出ているところであるらしい、ちんの背中を優しくなでてくれた。

  

 ☆


 気がつくと、ちん総婦長そうふちょうは、駕籠かごの中で二人寝入っていた。

 

 寝入りながらも総婦長そうふちょうは、ちんの右手を支え、ちん駕籠かごから出した気になっていた。彼女は、

 「はて、なぜにわたくしは姫王閣下をかように危険な地へとお連れしたのやら。」

 と、まるで起きているような寝言を言ったが目は覚まさない。

 

 ちん炬燵こたつに丸くなったまま、そう言った総婦長そうふちょうの手に支えられ、外に出たような気となった。外では、既に駕籠かごを地面に置いていた、担ぎ手の8名は脇にひざまづき、いつでもちんを守れるよう、構えていた。駕籠かごの前には、後ろの手を組み、執事長しつじちょうがどっしりと構え、戦況を見守っている。

 

 その時、ちんは何者かにスッと抱え上げられた気がした。その抱き上げられ方が自然で優しいものだったので、ちんは久しぶりの抱っこをいやだと拒みはせず、そのまま高所へと抱っこされていった。

 こうして、ちん炬燵こたつに丸くなって眠ったまま、高所から戦況を見据えることとなった。

 右手のちんが軍の騎士60名は既に、敵の戦闘メイドと交戦を始めていた。敵の戦闘メイドの服は黄色い。戦闘メイドといってもいろいろな服があるものだな、とちんは見て取った。左手の戦闘メイドのうち、側近の精鋭メイド6名を除く者たちも既に前に出て敵を攻めていた。精霊の定めに従い、騎士と戦闘メイドのどちらが敵本陣を攻めるかは王が年少の国が決める。ちんより年下の王などいるはずもなく、戦闘メイドが攻めると決めたのは、ちんが国プシだった。取り決め通りだな、とちんは見て取った。

 

 精鋭メイド6名はちんの眠る駕籠かごの近くで、執事長しつじちょうと同じく落ち着いて立っている

 ちんを空中を抱っこしているものは、総婦長そうふちょうと良く似ている気がする声色で、

 「精霊の定めに従い、本年に新たに戦闘メイドとなった者は、皆、殿しんがりを務めることとなります。先に出た戦闘メイドが皆倒れることがあるまで、ここを動くことはありません。」

 と解説した。なるほど、そのため、ちんそばを7名もの精鋭が固めることになっているわけか、とちん得心とくしんした。

 

 その時、右手に黄色い戦闘メイド達が群れをなして現れた。執事長しつじちょうがスッと前に出た。昨日言っていた通り、執事長しつじちょうにとって、これしきの数の戦闘メイドは何の問題もないのであろう。執事長しつじちょうが撫でるように触れるたびに戦闘メイドがパタパタと倒れていった。倒れた敵の戦闘メイドには、総婦長ばあやほどではないにせよ年配の者も多く、ちんは敵の戦闘メイドたちに少し同情した。執事長しつじちょうが前にでたことて、ちんが騎士たちも勢いを取り戻していた。執事長しつじちょうから離れ一人となった戦闘メイドを3、4名で取り囲んだり、執事長しつじちょうが倒した戦闘メイドが何かを隠し持っていないかと疑ってかその身体を手で慎重に触ったり、黄色い服を引き割いてさらに調べを入れる者など。

 

 ふと気が付くと、左手が騒がしくなっていた。そちらを変えり見たちんは、抱っこする者に、

 「あれはなんだ。」と、興奮して問うた。

 その者は、ちんを空中のっこから地上へと降ろし、語りだした。

 「精霊の定めに従い、騎士たちは、倒したメイドたちを我がものとすることができます。とはいえ、戦闘メイドたちはいずれもなかなかの強者、そこで騎士たちは3、4名で1名のメイドを囲むのが常道とされております。」

 

 ちんは、数が合わない場合はどうするのだと思い、「それで良いのか?」

 と問うと、その者は、

 「いえ。倒されたメイドたちはしばしば哀れなものです。そうしたメイドの多くは、3、4名の騎士たちに代わる代わるなぐさみものとされます。そうして気を失ったままその地に捨て置かれたメイドたちは、そのまま凍死とうししたり、けだものにその身を喰らわれたりいたします。この地の戦闘メイドの多くはそうして命を落としていきます。」

 

 ちんは、わなわなと震え興奮し、その者に言った

 「それは、可哀想ではないか!!」

 その者がいう、ナグサミとかケダモノとかいう専門用語の方は分からなかったが、凍死とうしという言葉の意味するところは、ちんの心に寒気おぞけを与える。

 「こんなお外で、炬燵こたつもなしに放りおかれるなんて。」

 

 「はい、その通りです。そして、気を失った残りの戦闘メイドのうち、年若いものや器量が良いとされた者は、戦奴隷センドレイとして虜囚りょしゅうとされます。戦奴隷センドレイの扱いは、国により異なるそうですが、精霊の定めに従い、子をなすことに努めることとされています。」

 

 ちんは、

 「そんな、精霊の定めで良いというのか?」

 と、声をかすれさせて、その者に言った。センドレイという言葉は、御伽噺オコタばなしで聞いたこともなかったが、何か良からぬものであることは間違いないだろう。扱いが異なるとは何だ。オコタも与えられずに、メイドたちが寒い思いをするとしたら、どうしたものか。

 

 その時、ちんは、その者により再び空中へと抱っこされたようだった。空から見下ろすと、先に出ていたちんが戦闘メイドのほとんどが倒されていた。既に戦闘メイドたちのかなりは、何かを隠し持っていないかなどと疑っているのであろう敵の騎士たちの手でその身体を探られていた。すでにメイド服の引き裂かれているものもいた。寒そうではないか。ちんの心に寒気おぞけが走る。

 

 その時、静かに殿しんがりを努めていたちんが精鋭メイドの方から、初めて声が上がった。

 『しんぱい~。』

 いつもちんをお姉さんように『だっこ~』してくれていたリサだった。

 そのとおり、ちんは心配なのだった。


 続いて、ミカコが

 「いや~、こりゃひどいすね~。」

 といつもの明るさは保ったまま言った。

 そう、これはひどいことだと、ちんも思っていた。


 イープが怖い顔のまま、ニヤリと笑った。戦闘態勢というヤツだろう。

 シズカも無言のまま、敵の騎士たちをにらみつけている。

 

 その時、総婦長そうふちょうが、寝言で、

 「姫王閣下、あれは敵王ではないかと、推察いたします。」

 と言ったのが空中で抱っこされているちんの耳に入ってきた。

 この空中から見ても、遠くにある立派な駕籠かごのことだろう。駕籠かごが開き、遠目からもデップりとしていると分かる男が中からゆっくりと出てきてきた。


 先王とうさま以外の男は全て嫌いなのてあろうカンマが、険しい目でそのデップりの方を見据え、

 「蛞蝓風情なめくじふぜいが。」

 と言い、顔をしかめた。

 玉座の間の裏手のお庭にでた時、博学のユリコが、葉の裏についている小さな蛞蝓なめくじを指差し教えてくれたことがある。とてもちいさかったのでデップりとは思えかったが、確かにその身体は丸かった。あの蛞蝓なめくじが凍死せずにそのまま大きく大きく育ったら、デップりとしてくるのかもしれない。

 

 そう思ううちにも、残りのちんが戦闘メイドたちは、周りを取り囲む敵騎士たちによって、前から後ろから棒のようなもので何度も何度も突かれ、倒されていった。

 

 ちんが最後の戦闘メイドが倒れるのを見て取った時、

 メイド長のユリコが、静かに言った。

 「この、下衆ゲスが。」 

 それを合図にしたように、一騎当千の精鋭メイドたちが動きだす。


 ちんには専門用語であろう下衆ゲスの意味は分からなかったが、精霊の定めに従い、ここからは本年に戦闘メイドに加わった、精鋭6名の出番だということは分かっていた。

 

 ☆

 

 ゲシア国の騎士、および、おこぼれに預かろうと隣国から集まり決戦に加わった騎士たちはたかぶっていた。本日が決戦となったことにより、プシ国の戦闘メイドたちに思う存分のことができるのだ。何よりも、わずか7歳の幼女が新王となったプシ国に新たに加わる戦闘メイドたちはきっと若い。思う存分のことをその者たちにできるのは、本日をおいて、他にはない。

 プシ国の前衛の戦闘メイドたちを全て倒した騎士たちは、倒した戦闘メイドたちに存分のことをするのは概ね後回しにして、精霊の定めに従い、現れた6名の後衛メイドたちをとり囲んだ。基地たちが6名の容姿に歓声を上げた数分後、騎士たちは

 (約束が違うじゃないかー。)

 と、地に伏して、泣き叫けぶこととなった。


 ☆

 

 一騎当千とはこのことを言うのであろう。ちんは精鋭メイドたちから、行動でこの四文字熟語の意味を納得してくれた。先程の執事長しつじちょうとは異なり、6名が皆、派手に騎士たちを消し飛ばしていた。飛ばし方は6名がそれぞれのようだったが、飛ばされた騎士たちがその後起き上がってこないことは共通していた。

 そして、最も多くの騎士たちを吹き飛ばしていたカンマが、早くもデップりが出てきた駕籠かごのあたりまでたどり着き、集まってきた側近らしきものを次々と倒すと、最後に、ちんは聞いたことがないおそらくは何かの生き物である名をデップりに向け告げてののしった後、デップりを倒した。

 そのことを確認し終えたちんが反対側を見ると、既に執事長しつじちょうが、敵の戦闘メイドを全て倒し終えていた。倒れている戦闘メイドのうち総婦長ばあやに年が近そうな者の多くが黄色いメイド服を着たままであることにちんは少しホッとしたが、年が若そうな戦闘メイドの中には服を剥ぎ取られ、騎士たちかそのままで身体検査をしている様子が空中からも見て取れた。抱っこされたままその様を見ていたちんは、寒気おぞけがした。「もうよい。」と、ちんは抱っこを振り払い、うたた寝をしていた駕籠かごの中に戻り炬燵おこたに丸まった。


 ☆

 

 その刹那、ちん炬燵おこたは、先程、抱っこされていたところよりも、もっともっと高いところにあった。下には黒々としたものに囲まれた、小さく青白い陸地があった。


 「あれは、プシチャク。」

 ちんはつぶやく。

 そう、下にある陸地は、大老じいや総婦長ばあやが仰々《ぎょうぎょう》しくちんに手渡した、精霊の定めの書の表紙に描かれていた、精霊の統べる地プシチャクの形だった。ちんは、そのプシチャクはなんとなくとても大きなもののように思えていたが、そうではないようだ。それに、あの青白さは、冷たくて、ちんが嫌いな氷という奴なのだろう。プシチャクは青白く光る氷に覆われていた。そして、たぶんもっと冷たい黒々したものに取り囲まれていた。

 ただ、ちんは今度は炬燵おこたの中だったので、寒気を感じることもなく、ただ、そうなのだな、とその小さなプシチャクの地を見ていた。

 

 【われには、もう時間が残されていないから、最後の希望の、でも今はまだ小さき君にプシチャクという世界を見せてしまうよ。】

 ちんに誰かが話しかけてきた。炬燵おこたごとちんを大きく抱っこした者なのだろう。

 

 この幸運の季節、プシチャクの地では、今みたばかりのものと似たような戦争せんそうがいくつもいくつも行われていた。ちんは、それはいけないことだ思っていたが、大きく抱っこされたままに見ると、戦争せんそうを得意げにおこなっているものたちは、皆が皆、ただちっぽけだった。

 

 【世界を見せてしまいながらも、われには、もうこの地の未来を導く力はない。ここから先は、君とわれが古き友に託す。本当はゆっくりと君とお話がしたかった。ごめんね。】

 炬燵おこたちんは、それからしばらくの間、大きく抱っこされたままだった。フルキトモとやらは何者かなどと思いながら、ちんは温かな炬燵おこたに潜り込みながら、小さなプシチャクの地を見つめ続けた。

 

 ☆

 

 ちんは、ちんがプシ国の初陣を観戦し、その後、大抱おおだっこされ、幸運の季節のプシチャクの地を見た。

 

 ちんは、そして、精霊の定めの下にある戦争せんそうというものが嫌いとなった。けれども、成人となる12歳までに、精霊の定めの下で、幸運の季節を5度経験することとなった。それは、プシ国にとっては、一騎当千の者たちが五度の決戦で隣国を破り、ちんがプシ国を併せ6国を支配する王となることを意味していた。

 

 一騎当千の者たち、ちんが精鋭メイドたちは、その間も夜な夜な御噺おこたばなしを続けてくれた。ちんは、御噺おこたばなしを一騎当千のメイドたちに読んでもらいながらも、御伽噺オコタばなしの登場人物のような一騎当千の者たちは何者なのかを考え始めるようになっていた。プシチャクには、ちんが精鋭メイドと騎士長の他に、一騎当千の者はいるのだろうか。仮に、一騎当千の者と、一騎当千の者とが戦うことになったら、どうなるのか。

 

 あのちん炬燵おこたを大きく抱っこくれた者が見せてくれた光景は、ちんがこの世界についていろいろと考えはじめるきっかけとなった。先王とうさまが幼きちんに与えてくれた小さな幸せは、もう、今のちんの手にはない。

 

 それから5年、ちんがまもなく12歳という頃、博識のユリコが「トーテムとタブー」という不思議な御噺おこたばなしを読んでくれた。そう、今やその温もりの記憶も薄れた先王とうさま原父ゲンプとなり、もうこの地にはいらっしゃらない。ちんは、大きく抱っこくれた者を、【大抱おおだっこ様】と呼ぶようになっていた。【大抱おおだっこ様】はきっと精霊ではない。【大抱おおだっこ様】は原父ゲンプでもなかったが、先王とうさまのやさしさを少しだけ感じさせてくれた。

 

 先王とうさまが玉座の間で与えてくだされたやさしさ、【大抱おおだっこ様】がプシチャクの地を下に少しだけ再現してくれたやさしさ、そのやさしさにむくいるに、私はこのプシチャクを救わなければならない。12歳を前にちんはそう決意した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ