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魔女の弟子  作者: かじら
魔女の弟子
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魔女の弟子

 帰りの道中私と一真は一言もしゃべらなかった。まるで魔法の歴史を教えてもらった時と同じ雰囲気のようだった。でも、空き地に来た時にそれを一真が破った。


「あ、杖を忘れてきた」


「え、私より先に出てきたのに忘れたの?」


「人間だれしも忘れることはある。ていうことでとってくるわ。蒼生は先に帰っててくれ」


「えー。別にまだ時間あるしここで待ってるよ」


「わかった。早く戻ってくる」


 それだけ言うと一真は来た道を戻っていった。


「全く、日頃から私をからかってる罰だよ」


 独り言を言っていると、奇妙なことに気づいた。


「あれ? ここら辺の空間が歪んでいる? というよりは魔力が集まり過ぎて見えなくなるのに似ている。先生、なんか大掛かりな魔法でもやるのかな?」


 私の好奇心が(うず)き、ツリーハウスに向かって歩き始めた。


 ◇


 一真はまつりとの約束を守るために走っていた。


「やっと着いたか。なんかいつもより道が長かった気がしたけど……気のせいか」


 少しだけ周囲に注意を払いながら歩き続け、ツリーハウスにたどり着く。しかし、そこには人影が見えた。


「あれ、ここって俺とまつり以外は誰も来れない場所だよな……誰だ?」


 ここには先生と同じように高難度の魔法をいくつも使えるレベルの人か、生まれつき魔法に適性を持っている人以外は来れない。後者はここ数年で見たのは自分とまつりのみ。だからその可能性は低い。残るは前者だが違和感があった。具体的には魔力の集まり方だった。

 魔力の集まる量によって空間を曲げることがある。それが今目の前で起きているのだ。


「一体何が起きているんだ……」


 警戒心を強めて慎重にツリーハウスに近づこうとした刹那、上空から声が響いた。


「一真君! 逃げて!」


 先生の声がして上を見ると、そこには杖に乗る先生が切羽詰まった表情で迫っていた。そして、その後ろからローブを着た人物が追いかけていた。


「せ、先生!? どうしたんですか!?」


「いいから早くまつりちゃんを連れて逃げて!」


 一真は要領を得ない発言に首をかしげながらも、ここから立ち去ろうとする。しかし、その前にローブを着た人物が立ちふさがった。


「ドこにイクの? きミはここニいなきゃダメだヨ」


 女。いや、それが一番近いと言った方が正しい。人が発するような言葉ではなく、どこか壊れたロボットのようなそんな喋り方だった。


「ひっ!?」


 一真が悲鳴を漏らし、後ずさる。その分だけ女が近づいてくる。そして、手を一真に向けると魔法陣が浮かび上がった。


「【■■■■■】」


 呪文なのはなんとなくわかった。しかし、その呪文を聞き取ることが出来なかった。代わりに自分の体が重くなってきた。体を支えることが出来ず、膝を曲げて手をつく。それでも支えることが出来ず、うつ伏せに倒れ込んだ。そのまま意識が遠のいていく。


「フフふフ、いマはねてテね…………ごめん、なさい」


 薄れ行く意識の中で最後に聞いた声は、どこか助けを求めているように聞こえた。


 ◇


 魔女は倒れ込んでそれ以上起きようとしない一真を見て、歯噛みした。


「あなた達! こんなことをしていいと……」


「あなたがそれを言いますか、先生」


「……」


 魔女は〝彼〟の言うことに何も言い返せずにいた。何か手はないか考えていると、〝彼〟が魔法陣を浮かべる。


「先生を捕まえた後は彼女をここに連れてきてあなたの目の前で殺してあげますよ。もちろんあそこに寝ている彼もね」


「くっ……彼らは関係ないでしょ!」


「いいえ、関係ありますよ。僕の、僕たちの代わりに彼らを生徒にしたのでしょう!」


 狂ったような叫び声をあげ、そして唱えた。


「【光は誰にも止められない】」


 〝彼〟の手には光の玉があった。魔女はそれを見て何をするのか理解し、先に動く。魔女は空を飛ぶ魔法を解除して杖を構える。体は重力に引かれながらも唱えた。


「【凍てつく壁よ】!」


 魔女の足元に魔法陣が広がり、そこから氷の壁が現れる。氷の壁は魔女を包み込み、体を守る殻となった。これで光の玉による目くらましは効かない。そしてこの壁ならば壊すのは容易ではない、魔女はそう思った。しかし、それを待っていたような〝彼〟のくぐもった声が聞こえた。


『あなたならそうすると思ってましたよ。でも、それが仇となるんです』


「え?」


 魔女は〝彼〟が一体何をするのかわからなかった。その時、再び〝彼〟の声が聞こえたが、それは呪文を唱えている声だった。


『【万物に作用する力よ。更にその力を増せ】』


 その瞬間、魔女を包む氷の壁ごと落下する速度が速まった気がした。


「まさか!?」


 魔女は氷の壁を溶かそうとするが、それより早く地面に激突してしまった。壁は粉々に砕け、その無数の欠片が魔女の体に当たる。


「かはっ……」


 自分を守るために強固に作ったはずの壁が、一瞬にして自分に一番ダメージを与える代物になってしまった。


「どうです? 自分を守るために使った魔法が自分自身を傷つけるものになった感想は?」


「魔法は……そんなことをするためにあるんじゃない……」


「まだそんなことを言いますか。なら、あなたには今しばらく眠っててもらいます」


 〝彼〟はそう言うと杖を構える。


「【■■■■■】」


 ヒルダと同じような呪文を唱えると、次第に魔女の意識が薄れて行った。


「ダメよ……クルト、あなたがそんなことをしては……」


 魔女の言葉は途中で途切れた。〝彼〟、クルトはそんな魔女を見ながら笑っていた。


「くくくく……後は彼女を連れてくるだけか」


 クルトは魔女をヒルダに渡すと、形状変化魔法で姿を一真に変えた。


 ◇


「ふう、なんか入り組んでいるなー。いつもなら着いていていいはずなんだけど……」


 緑色の水晶と杖を手にして私は歩き続けていた。森に干渉して道を開く魔法を使っているのだが、逆に入り組んでいてたどり着けなかった。

 空を飛んで行こうか悩み、まだ一度しか使っていない魔法をこんな生い茂っているところで使うのは、さすがにハードルが高すぎると思った私は大人しく歩くことにした。


「はあ、歩き続けるか……」


 疲れてきた足に鞭を打って歩き始めようとしたら、一真がやって来る。


「ごめん、待たせたな」


「あ、一真! なんか道が入り組んでいて……て、杖はどうしたの? あと鞄は?」


 一真の両手には杖が握られておらず、さらに鞄がなくなっていた。


「あ、すまん。また忘れてきた……」


「はあ、しっかり者の一真でもここまで忘れ物がひどいとは……」


 呆れて言う私に一真は苦笑する。


「あはは……僕はもう一度取りに戻るけどお前はどうする?」


 一真の言葉に違和感を覚えた。私は一真の横を通り過ぎて十分に距離をとってから問いかける。


「ねえ、一真。ううん、一真みたいな人。あなたは誰?」


「っ!? ちょっと待ってよ! どうして僕が一真じゃないって言うのさ」


 問いかけると慌てて答える一真を見て私は確信した。


「だって、一真は自分のことを『僕』って言わないしもう少しぶっきらぼうな返事をする。そして私のことを必ず名前で呼んでくれる。そう呼ばない人、つまりあなたは一真じゃない!」


 私が警戒心むき出しで見ていると、一真ではない人が笑い出した。


「くっくっくっ……まさかそんなので見破られるとは思わなかったよ」


 そう言うと一真ではない人の体が一瞬輝く。瞬きの時間の中で姿が変わっていた。


「うそ……」


 私はその姿を見て目を見開く。今日の帰り間際に見せてもらった写真にそっくりの人物だったからだ。


「あなたは、クルトさん……?」


「おや? 僕のことを知っているみたいだね。まあ、大方あの人が魔法を暴走させるとこんな醜くなる、って教えるために見せたんだろうけどね」


「そんなこと、ないです! 先生はずっと悩んでいました! あなた達二人を封印して、それでも助けたくて……だから! 封印した空間をもう一度開くために研究してたんです!」


「そうか……君にはわかるか? 想像できるか? 何も感じることが出来ない世界を。人間の五感を封じられて、隣に誰がいたのかすらわからない孤独さと恐怖を! 僕と彼女は耐えられずに精神がおかしくなってしまったさ。どれだけの月日が流れたのかわからなくなった頃に、ようやくその空間を破って出ることが出来た。だけど時の流れは残酷だ。僕たちが生きていた時代はとうに過ぎ去り、右も左もわからない状態でひたすらさまよい続け、ようやくあの人を見つけた。だけど、あの人の前には君たちがいた。そう、君たちがいたんだよ!」


 クルトは狂人みたいに叫び続けた。そして私は本能的に悟った。ここにいたら殺されると。杖にまたがり魔法陣を浮かべる。森の中だから難しいとか何も考えず、ただ逃げることに集中した。


「ば、【万物に作用する力よ、消え去れ】!」


 空を飛びとりあえず距離を取ろうと急上昇する。しかし、相手も先生から魔法を教えてもらっていたんだ。当然空を飛べる。そこまで理解していたが、二つの予想外があった。一つは飛行速度だった。私は自身に負担がかからない中で最高速だが、相手は自身にかかる負担を度外視で飛んでいたこと。そしてもう一つはクルトが黒く巨大な異形の腕を持っていたこと。


「どこに行こうとしているんだい?」


「うそ!?」


 私の後ろにぴったりとくっつき、そのまま腕を伸ばし、手で杖を掴んできた。私は振り切ろうと速度を上げる。しかし、手は離れず逆に引き寄せるように引っ張られた。その際、腕や手に相当の負荷が掛かり、時折関節が外れるような音が聞こえる。それでもクルトは手を放さず、逆に笑みすら浮かべていた。


「君にはここで死んでもらうよ」


 クルトは力任せに私の杖を振り回した。振り落とされまいと必死に杖にしがみつく。しかし、それが出来たのも数秒だけで、振り回す力にあらがえずに杖から手を放してしまった。魔法の効果範囲から離れた私は、重力に引かれて落ちて行った。


「このまま落ちたら……」


 懐にしまっておいた棒を取り出し、魔法陣を二つ広げる。


「【風よ、駆け巡れ】!」


 私の周囲で風が吹き荒れた。そしてその風を慎重に操り魔法陣の特性を利用した魔力の壁に集中させた。落下する速度は落ちていき、このまま安全に着地できると思った。しかし、そこで予想しえないことが起きた。


「なんで!?」


 魔法を使うための棒が、少しずつ黒く変色していた。それに合わせて風も弱まり始めていた。


「は、早くしなきゃ!」


 風の力を一気に弱めて降下する。その間も棒は黒くなり続け、遂に真っ黒になったところで魔法が消えた。私は二階建ての家ぐらいの高さから落ちた。


「かはっ!?」


 背中を強く打ち、肺の中の空気が無理やり吐き出された。体はごろごろと転がっていき、止まったのはツリーハウスの幹だった。視界がぐらつく中、周囲を見るとそこには拘束されている先生と一真がいた。

 背中の痛みを忘れてゆっくりと二人に近づく。


「一真! 先生!」


 しかし、二人はそれを止めた。


「来るんじゃねえ。早くしないとアイツらが来る……」


「ええ、早く逃げて、まつりちゃん……」


二人を助けたくても体が満足に動かない。二人の言葉に従って逃げようとした私の前に、ローブを着た誰かが立った。一瞬クルトかと思ったが違う。クルトはここまで来ようとせずに空中で止まっていた。それではっきりとわかった。今目の前に立っているのが誰なのか――

ローブに隠れた顔を見ようとした途端、相手がのぞき込んできた。


「ひっ!?」


 情けない声が出た。しかし、それも仕方ない。なぜなら彼女の顔には目というものはなく、ただ空洞だけだった。その肌はほとんどが白く、一部分に黒ずんだ皮みたいなのが張り付いていた。

 私の声に一切反応せず、相手はマイペースで声を発した。


「アれ、やっトきたンだ。おそイよ」


 声帯というものはすでにないはずなのに、声が聞こえた。考える暇は今の私になく、空に浮かぶクルトを見る。そんな私の表情に満足したように頷きながら喋る。


「彼女はヒルダ。肉体はもうだめだけど魂は僕の魔法で繋ぎ止めているのさ。僕の言うことなら何でも聞く奴隷さ」


「そんな……。じゃあ、彼女はもう……」


「そう、死んでいるよ。でも、彼女は寂しがり屋だからね。こうして一緒にいてあげるのさ」


 クルトはあっけからんとした調子で言うが、私にはただの狂人にしか見えなかった。


「おかしいよ……魔法はそんなことをするためにあるんじゃないのに……」


「いいや、魔法はそんなことをするためにあるのさ。戦争に使うために、復讐するために、恨みを晴らすために……僕は魔法がそのためにあると思っている!」


 もう何も言い返せなかった。こんな狂人に何を言っても届かず、ただ人を陥れるために使おうとしている。それが悲しかった。

 そんな彼に魔法の本当の使い方を教えられない自分の無力さを感じ、涙を浮かべているとそれを否定する声が聞こえた。

 一真だ。


「魔法はそんなことをするためにあるんじゃねえ。魔法は人を幸せに、笑顔にするためにあるんだよ!」


「ならば、なぜ過去に戦争の道具として使われたのだ! 人を幸せにするどころか不幸にしかしていないではないか!」


 次に先生が答える。


「確かに私たちは魔法の使い方を間違えた。でも、今度は間違えないわ」


「ふっ、何を根拠にそんなことを……」


「この子たちが、私の―魔女の弟子が道の(しるべ)となってくれるからよ」


 先生はゆっくりと立ち上がる。それを見て驚愕の表情を浮かべたクルトは、再度笑う。


「そうですか……あなたがそこまで言うならその導とやらを先に殺しましょうか。ヒルダ! そこの女を殺せ!」


「はーイ……」


 ヒルダは骨になった手で、未だに動けない私の首を絞める。そのままゆっくりと力を入れていった。


「かはっ……たす、け……」


 満足な呼吸が出来ず、抵抗する力もなかった。そのまま首を圧迫されて死ぬ……そう思った私は、目の前の光景に驚いた。

 ヒルダの空洞の目からしずくが垂れて来たのだ。そのままゆっくりと絞める力が抜けていった。


「何をしている! ヒルダ、早くその女を殺せ!」


 クルトは空中で喚き散らしているが、ヒルダはそれに取り合わず、魔女に向き直る。


「せ、んせい。かれ、をたすけ、て」


「ヒルダちゃん……?」


「かれ、は、わすれて、いるだ、け。だから……おもい、ださ、せて」


 魔女はヒルダに近づき、骨になった手を取る。


「せん、せい……」


 ヒルダは魔女が悩む理由がわかっていた。


「私は、あなた達を無の世界へ封印した。恨まれてても仕方ないと思っている。でも、出来ればあなた達を助けたかった。封印した私がいまさら何をと思うかもしれない。でも……それでも私は……」


 魔女は目じりに涙を浮かべて言葉を続けようとする。しかし、ヒルダの足元に広がる魔法陣を見て言葉を止めた。一瞬クルトが何かしたのかと思ったが違う。骨の体だったヒルダの体が肉付きかつて見ていたあの頃の体になっていた。そこで物質変換魔法と形状変換魔法の併用だと気づく。


『先生……もう、大丈夫ですよ。そんなに自分を責めないでください。確かに先生はいけないことをしたのかもしれません。ですけど、それが正しかったと思います。それに、短い間でしたけど楽しかったですよ、先生の授業は』


「ヒルダちゃん……でも私は」


 ヒルダは魔女の言葉を自身の言葉を重ねることで塞ぐ。そしてまつりの方を一度見て言葉を続ける。


『でも、もし責任を感じているって言うなら……あの子たちに私以上の魔法を教えてあげてください』


 今度は憤怒の顔に染まったクルトを見て続ける。


『そして、――復讐にとらわれ続けている彼を助けてあげてください』


 ヒルダは笑顔を魔女に向ける。


『大丈夫ですよ、先生なら。きっと助けられます。だって、私はもう救われたんですから』


 そして、魔女の覚悟が決まる。


「わかったわ。クルト君は絶対に助ける」


『良かった……。あなた達もごめんなさい、こんなことに巻き込んでしまって。でも、魔法はこんなことに使う物じゃない。それだけは忘れないで』


 まつりと一真にそれを告げると、少しずつ体が崩れ始めていた。


「あ、待ってください! 魔法は……ヒルダさんにとって魔法は何だったんですか?」


 それを聞いたヒルダは、目をぱちくりさせてから苦笑する。


『私にとっての魔法は……人を幸せにするものであり、笑顔にするもの。そして、人と人を繋ぐ物、かな。あなたもいつか、自分にとって魔法は何なのかわかるわよ』


 それだけ言うと、魔女の方を向く。しかし、その体の大半が消えていた。


『先生、お別れです。楽しかったですよ、魔法の勉強』


「ええ、私も楽しかったわ。ゆっくり休みなさい」


『はい、さようなら。先生、大好きです!』


 ヒルダはそれだけ伝えると、体が消えた。それを見ていたクルトは目を大きく見開いた。


「ヒルダー! よくも僕を裏切って……ここまできたら彼女は僕が!」


 クルトは杖を操りまつりに迫る。しかし、その行く手を氷の壁が遮った。


「クルト君、あなたには申し訳ないことをしたわ。だから、これは私の償い」


 魔女は魔法陣を無数に浮かべる。


「【氷牢(ひょうろう)よ】」


 クルトの周りに分厚い氷の柱が何本も飛び出て、最後に蓋をして閉じ込める。


「こ、こんなもの……」


「私はあなたに恨まれても仕方ないと思っている。それだけのことをしたから。でも、最後は先生としてあなたを見送らせてちょうだい」


 先生はそう言うと透明な水晶を取り出して地面に置き、杖を突き刺す。すると水晶が割れ、広大な魔法陣が広がった。そして、過去最高の魔法を唱える。


「【巡れ、巡れ、生命(いのち)(ことわり)よ。(あま)()なる時代を生き、回り続ける理より外れし者よ。再び理に戻り給え】」


 クルトの体が淡く光り始め、端から光の粒になっていった。


「くっ……僕はまだ何も……」


「クルト君、これ以上何もしなくていいのよ。だから、思い出して。私達三人で過ごした日々を」


 魔女は祈るようにクルトの頬に触れる。


「これは……」


 クルトの回りに、無数の写真が浮かぶ。かつて三人で暮らしていた出来事の数々だった。三人で笑いあったこと、ケンカしたこと、魔法の勉強をしたこと、様々な思い出が魔法陣の中に広がる。


「嫌だ……僕は、僕は……!」


 クルトは流れ込んでくる思い出に必死に抵抗した。


「やっとあの世界から出られて……先生を、殺すことが……」


『殺すことが全てじゃないよ』


「えっ……」


 クルトの後ろに出て来たのは、さっき消えたはずのヒルダだった。


『クルト、殺すことが全てじゃないでしょ。だって、あなたは――』


「う、うるさい! 僕は、こんなところで……!」


 ヒルダの声を遮り、まだ言おうとした。しかし、ヒルダは優しく微笑みながらクルトの体を包み込んだ。先生も、その後に続いてゆっくりと、優しく抱きしめた。


「せん、せい……」


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


「あっ……」


 先生は泣きながら謝り続けた。でも、包まれている優しさは温かいようで、クルトの表情は、激しい憎悪から少しずつ変わっていった。心が落ち着き、少しだけ幸せそうな顔をした。


「温かい……」


『うん、そうだね。これは先生が私たちのことを思ってくれている証拠だよ』


「そっか……」


 クルトは先生の背中に手を回す。その時にはもう、ヒルダの姿がなかった。


「先生、思い出しましたよ」


「……良かった。復讐にとらわれ続けたままあなたを見送りたくなかったの……」


「そう、ですか。でも、先生……僕はまだ魔法の使い方に疑問を覚えたりします。今度は間違えないって言った先生の言葉も今は信じられません。だから、証明してください。魔法は人を幸せにすることが出来るんだと」


「ええ、任せてちょうだい。だから……」


「お別れです。先生。今までありがとうございました」


 クルトはそれだけ言うと完全に光の粒となって消えた。それと同時に氷の(おり)と壁も消えた。


「先生……」


 私が先生に声をかけようとしたが、それは一真に止められた。その意味もすぐにわかった。


「今はそっとしておこうね」


「ああ」


 私達は、先生が泣いている姿を見ないよう、ツリーハウスの中に戻っていった。


 ◇


 時が経った今もあの時のことが忘れられず、夢にも出てきたりする。正直怖い夢だが、あの時の出来事があって時代は大きく変わっていこうとしていた。

 先生が他の魔法を使う人たちに連絡を取り、魔法の存在を人々の記憶に甦らせてみないか、という動きが進んでいた。それに合わせて各国のお偉いさんたちと話を進めていたりもする。

 私は、高校を卒業するのと同時に先生から教えてもらった魔法のすべてを修めた。そのまま魔法使いの先生となるべく修行中である。先生は今も私に優しく、時には厳しく教えてくれていた。

先生は二度と魔法の使い方を間違えないよう一生懸命だった。私もそれを忘れないよう毎日勉強していこうと思う。

なんたって、私は先生の、魔女の弟子なんだから。


どうでしょうか。

上手に話を切れているのか不安なので、教えてもらえると嬉しいです。

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