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魔女の弟子  作者: かじら
魔女の弟子
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現れる過去

今日は疲れたから解散ということになった。帰りの支度をしながら今日の出来事を振り返っていると、一つ気になることがあった。


「先生」


「何かしら、まつりちゃん」


「一真を助ける時に魔法を使ったじゃないですか。あの時『二度も間違えるなんて』って言ってませんでした?」


 一真も私の質問が気になり先生の方を見る。一方、先生はどう言おうか悩むそぶりを見せていた。


「そう、ね。これもまたあなた達には知っておいてもらった方がいいかもしれないわね」


 先生はローブのポケットから透明な水晶を取り出した。


「【映し出せ】」


 先生が魔法陣もなく唱える。


通常、私が持っている水晶や先生が今手にしている水晶は、大掛かりな魔法陣を作る時に使用されるもの。毎回ここに来るために森の木々を動かすには、膨大な魔力と大きめな魔法陣が必要になる。私にはまだそれを行うだけの技量が足りないため、先生がそれらを全て補ってくれる水晶をくれたのだ。

 水晶はあくまで魔法を補助するためにあると思っていたが、透明な水晶は魔方陣を浮かべずに輝く。


「これは記憶を保存する水晶よ。そして中に保存されている記憶を他人に写真として見せることが出来るの。それ自体は魔法陣や魔力を大して必要としないから唱えるだけでいいのよ」


先生が水晶の説明をしている間も輝きは増していき、一枚の写真が映し出された。

そこには先生と同じローブを着た男女が写っていた。男の人は耳に掛かる程度の髪に、暗い印象を与えるような眼をしていた。女の人は先生と同じぐらい長い髪の毛に、やんちゃそうな表情をしていた。


「この子たちは私の弟子だった子よ。何百年も前の話だけどね……」


 先生は懐かしそうに写真を見て言うが、先生の表情は暗かった。そう思っていると一つ気になることが浮かぶ。


「先生、弟子だったって……まさか」


「亡くなった、ていうのも語弊があるわね。でも、それに等しいことをわたしはしたわ。二人の名前は彼女がヒルダ、彼がクルト。そして」


 先生の言葉で水晶に写っていた写真が進む。次に写ったのは半分異形と化していた二人だった。


「二人は物質変換魔法と組成変換魔法を使っていた。その時使っていた魔法陣はわたしが作ったものだったの。だけどどこかで失敗していたのか魔法は暴走した。魔法は二人を中心に周囲の建物、木々を分解していき融合していった」


 写真をよく見ると異形の体にはレンガや木の枝が飛び出ていた。


「それを見たわたしは使ってはいけない魔法を使ったのよ……。二人を何も感じることが出来ない空間に封印したのよ」


「せ、先生、二人の意識はなかったんですか?」


「……あったわ。でも、魔法は二人が制御できるレベルではなかった。わたしもまだ一真君に使った魔法を打ち消す魔法が使えなかったの……だから仕方なく使うしかなかったのよ」


 私は絶句するほかなった。魔法は戦争に利用されるほど万能なもの。それは理解していたが、何も感じることが出来ない空間に封印する。それをされた人にとって一体どれだけの恐ろしさなのか想像できなかった。


「先生、その後の二人は……」


「わたしにもわからないわ。でも、亡くなっていてもおかしくない……。多分、わたしのことを恨んでいるでしょうね」


「そんな……」


「先生、今様子を見ることはできないんですか?」


暗い表情をする私の代わりに一真が先生に聞く。しかし、先生は首を横に振った。


「一度閉じた空間を再度開けるには膨大な魔力と大掛かりな魔法陣が必要なの。だから……」


「そう、ですか……」


 水晶の輝きが小さくなっていき、写真が消えた。


「今もどうにかして空間を開こうと研究をしているわ」


 そう言われて私は初めてここに来た時のことを思い出した。


「私が初めてここに来た時にここら辺にあった物は、全部そのためだったんですか?」


「ええ、そうよ。今は私の部屋で研究をしているわよ」


「そうですか。先生、見つかるといいですね」


「ええ、そうね」


 私は先生にエールを送っていると、不意に一真に肩をつつかれた。


「蒼生、帰るぞ」


 それだけ言うと一真は荷物をまとめてツリーハウスを出ていった。私も荷物をまとめて追いかける。


「ちょっと待ってよ! 先生、また明日来ます!」


「ええ、今日はごめんなさいね。明日も待っているわ」


 先生に挨拶してから出ていった。


 ◇


 魔女は二人を見送ったあと、透明な水晶を見つめる。


「私はいつになったら空間を開ける方法を見つけられるのかしら……」


 小さく呟き、テーブルの上で水晶を転がして遊ぶ。その時、入り口の所に人の気配がした。


「あら、忘れ物かしら?」


「違いますよ、先生」


 一真とは違うその声を聞いた瞬間、背筋が凍った。今自分は幻聴でも聞いているのか、そう思ってしまうほどに信じられないことだった。


「先生、僕はあなたを許せません。〝彼女〟も同じ気持ちですよ」


「え……」


 〝彼女〟? それが一体誰をさしているのか、それがわかるが信じられない。まつりと同じように、好奇心旺盛で負けず嫌い。そして魔法を誰よりも愛していた子。その子が今そこにいた。


「センセイ……どうシてコんなこトをシタの?」


 〝彼女〟、ヒルダがそこにいた。

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