終わりはやがて訪れる
私は魔法が完成した瞬間地面に倒れた。蒼空君たちが慌てて駆け寄って来るのが見えたが、声を出す力も残っていなかった。
「先生!」
「せん、せい!」
「おい!」
三人が私の傍に来る。すると、空から先生が血相を変えて降りてきた。
「まつりちゃん! あなたは何をしたのかわかっているの!」
「……は、い」
全身に力が入らなかった。少しずつ体の感覚が無くなっていくのがわかる。
「どうしてこんなことを……」
「みん、なを助けたかった、から。魔法は、人を助ける、ためにあるから……」
「それであなたの体がそうなったら元も子もないじゃない。あなたがいなくなったら悲しむ人は大勢いるのよ」
「……そう、だった。でも、みんなを助けたかったんです。私、一人の命を使って……それで大勢の人が助かるなら……」
顔を動かせないけど、今の言葉でみんなが息を呑むのがわかった。
「どうして嘘をついたの。危険じゃないって言ってたのに……」
「春香……ごめんね、嘘をついて。でも、そうでもしなきゃ……」
「止めてたよ……死んでほしくないもん!」
「私もですよ。先生の授業を毎日楽しみにしてたんですよ!」
「はい、だから……」
穂乃花ちゃんと佳奈ちゃんの声が聞こえる。佳奈ちゃんは途中で泣き始めてしまい、それ以上は言葉になっていなかった。それでも言いたいことは伝わる。
「ごめんね、私ももっと二人に教えたいことが、あったんだ……」
「ならそんなところでくたばるなよ……」
蒼空君の泣きそうな声が聞こえた。
「まだ俺達は会って半年だぞ。せめて卒業するまでは面倒見ろよ……」
「……そう、だね。蒼空君にもまだ、魔法の使い道を教えていなかったよね……これから教えたかったのになー……」
やり残したことはたくさんある。でも、後悔だけはなかった。今の自分に出来る限りのことをした。この結果に私も満足しているから……
「まつりちゃん。まだ、あなたには見せていなかったわね。私の覚悟を」
「せん、せい?」
先生は静かに立ち上がると飛んで行った。それから一真を助けて降ろし、ゼルさんの元へと向かった。
??
私はもう迷わない。
正直戦争が始まってからも私の心はぐらついていた。ゼルへの贖罪とこの戦争の責任の取り方。それが私の命を差し出すことで全て丸く収まると考えていた。けど、そういうわけにもいかず、逆に一真君に負担をかけることになってしまった。学園でも魔力が枯渇してしまい、二度の機転を利かしても状況は覆らなかった。でも、まつりちゃんが三度目の魔法を使って全てが変わった。状況は一変してゼルストラの件は解決した。しかし、代償としてまつりちゃんが虫の息といった状態になってしまった。
そして、私も一つの覚悟が決まった。それがこの宣言だった。
「ゼル、もう終わりにするわよ」
真剣な表情で言うが、それに対してゼルがおかしそうに笑う。
「終わりにする? 誰が? 僕に決まっているだろ! 僕が君を終わらせるのさ。だから、絶望に染まれよ」
ゼルは両手を振ることで同時に無数の魔法陣を広げる。その一つ一つが学園を更地にする力を秘めているのがわかる。だけど、私はそれを
「【消滅せよ】」
一言で全て消し去った。ゼルはこれを予想していたのか、さらに魔法陣を広げるが、ことごとく私が消し去った。
「やめなさい。今使っている魔法はすべてあなたの命を削っているのでしょう。このまま使い続けているといずれは死ぬわよ」
「そんなことはないさ、僕には自分の時間を止める魔法を使って――ごふっ」
喋っている途中でいきなり吐血した。
「何が、起きて……」
「ねえ、ゼル。魔法は確かに万能だわ。あらゆる願いも叶えてしまう。強くイメージしただけで使えてしまう。そんな代物よ。だけど、その効果がずっと続くわけではない。私が願った幸運と不老不死も」
そう、それに気づいたのは大分前の出来事だった。一人で旅をしていると、突然吐血し始め、自分の体が老いていく感覚がした。慌てて時間減速の魔法を使うことで、その進行は著しく低下したが、同時に悟ってしまう。
「魔法の効果は精々(せいぜい)百年が限界なのよ。私の不老不死もそうだった。体が成長し始めて、今は減速させることで何とか維持しているわ。恐らく魔法を解除した瞬間、私の命は尽きるわ」
「何を言っている! 魔法の効果は、ごふっ」
喋るたびに吐血がひどくなっていく。
「あなたは自分の命を使い過ぎた。それによって魔法の維持も困難になっているのよ。だから、もう……」
死ぬ、たった二文字の言葉を伝えられなかった。ゼルはそれを理解していて、なお笑った。
「くくく、ははは、そうか……これが死というものか。ここで僕は果てるのか……」
「ええ、だからもうやめなさい」
「そうだな……もうやめる――わけないだろ!」
ゼルはそう言った瞬間、戦争が始まってから初めて呪文を唱えた。
「【消し炭となり、消え去れ】」
両手を学園に向けて魔法を起動する。それは、半年前の巨大なゼルストラが使っていた魔法と同じだった。炎が収束され、莫大な熱量が溜め込まれる。これを止めるには今のままでは無理だった。方法は一つしかない。それを使ったら自分もまつりちゃんと同じようになるかもしれない。
けど、覚悟は決まっている。
「【命の枷を解き放て。眠りし力を解放せよ】」
その瞬間、体の内で凄まじい力が暴れるのを感じた。その力を制御して、魔法を使う。
「【加速せよ】」
魔法陣が背中に広がり、一気に加速してゼルの射線に割り込む。ゼルは構わず魔法を解き放つ。
「死ねっ!」
熱線が放たれる。私の無効化する魔法でもこれを完全に無効化しきれるかはわからなかった。熱線をそらすにしてもこの距離でやったら学園に当たってしまう。残された手段は……
「【繋げ、虚妄の世界と別世の世界】」
熱線に手を向けて、魔法陣を広げる。それは、異空間へと飛ばす魔法だった。
かつて、クルトとヒルダを封印した魔法を即興改変して、今みんなを守るために使った。
熱線は魔法陣に吸い込まれるように命中した。熱が全身に襲い掛かる。熱線の勢いに押されて少しずつ体が降下し始めているが、命を振り絞って耐える。
そして、少しずつその勢いは弱まっていき、最後は消えた。ゼルはその光景に驚いていた。
「バカな……なぜ、なぜだ! 全ての命を使って撃ったはずだ! なぜ消えていない!」
「……それは、私もあなたと同じように命を削って止めたからよ」
それを聞いて、ゼルは意味深な笑みを浮かべた。
「ははは、そうか。命を削ってくれたか……」
ゼルの体が少しずつ灰になっていた。今まで停止していた時間が一度に襲い掛かり、骨を通り越して消えようとしていた。それでも、ゼルの笑みは消えなかった。
「さあ、最後だ……君はその後ろにいる全員を守り切れるかな?」
ゼルはいつの間にか握っていた、リモコンらしき物のボタンを押す動作をした。それを最後にゼルの姿は完全に消えた。
リモコンが私の手元に落ちてくる。
「これって……」
ボタンしかなく、一体何に使うものなのかわからなかった。けれども、胸騒ぎがして急いでまつりちゃん達の元へ行く。
◇
先生とゼルさんの戦いが終わり、これで全部終わったと思った。
「まつり! しっかりしろ!」
一真が私の体を揺さぶりながら、必死に名前を呼ぶのがわかる。
「だいじょ、ぶだよ。まだ、ね……」
感覚の大半が失われ、何も感じず、足の先から冷たくなっていくのだけがわかる。私の意識も朦朧としてきていて、一真に呼ばれてなければ目を閉じてしまいそうだった。
すると蒼空君が何か見つけたのか、声を上げた。
「おい、なんだ、あれは?」
全員蒼空君が見た方向を見る。私も目だけを動かして見る。そこには、小さな光の点がだんだんと近づいていた。その形もはっきりとしてきて、先がとんがっていて翼が二つ付いている筒だった。そう、ミサイルだ。
「なんでミサイルなんか来ているんだよ!」
「今は考えてないで避難しましょう!」
学園長が指示して急いで学園の地下に避難し始める。すると、違うところからも声が上がった。
「こっちからも来てるぞ!」
「こっちからも!」
悲鳴に近い声を上げ、みんなが集まって来る。しかし、地下に避難するにも全員が入るには時間がかかる。その間にもミサイルは接近してきているのがわかる。一真は私を抱き上げて地下に避難しようとした。けど、避難することは叶わなかった。
ミサイルの音が次第に大きくなり、近づいているのがわかる。
「か、ずま……私を置いて、早く先生の、ところへ……」
先生の所へ行けば助かるかもしれない。そんな気がして一真に言う。上からは先生が急いで降りて来ているのが見える。一真も私の言いたいことがわかったのか、頷く。
「まつり……ごめんな」
謝られ、一真が私を投げた。
そして、全てが吹き飛んだ。




