戦争 前編
あれから一週間、私達は出来る限りの準備を進めて来た。昨日から始まった避難は、予想以上の混乱に見舞われて遅れていた。それでも、時間ぎりぎりには小学年、中学年の避難は終わりそうだった。
「春香、準備は大丈夫そう?」
「うん、必要な物は全部持ったよ。まつりちゃんは?」
「私も大丈夫だよ」
鞄に必要な物を詰め込み、杖を持つ。春香を先に地下へ避難させ、私は最後に施錠する。
そのタイミングを見計らったように、学園中の警報が鳴り響いた。警報は時間が訪れたことを告げる音だった。
「来た! 春香は急いで避難して!」
急いで私は外に出た。途中で蒼空君たちとも合流して空を見る。
空一面が黒く染まっていた。
今が夜だからという訳では無い。空にいるのはアメリカから飛んできた無数の人。何千何万と空一面を覆い尽くしていた。
私はどれだけの人がこの学園を、魔法を嫌っているのかが目に見えた気がした。
「先生……」
「こんなに、いっぱい人が……」
「さすがに多過ぎるだろ……」
私の後ろにいる蒼空君達が驚いていた。
「大丈夫、三人は私が守るから。今は自分の持ち場に行ってて」
三人は頷き急いで学園の中に入る。私もローブに十分な結界魔法を付与して、先生の元に行く。
先生は心配そうな目で私を見た。
「まつりちゃん、本当にいいの? これから起きるのはまつりちゃんにとって辛いことだけよ」
「大丈夫です……と言えば嘘になります。でも、私にも守りたいものがあります。だから、私なりの戦いをします」
なおも心配の表情を浮かべる先生に、私は笑みを浮かべる。そして、自分の思いを伝えた。
「先生、私にとって魔法使いは憧れの存在でした。色んなことが出来る力を持っていて、それを正しい事に使う魔法使いはお話の中だけだと思っていました。でも、先生に出会って魔法を学んで、教師になって、時には辛い事に直面して落ち込んだりしても、それを支えてくれる人がいたんです。春香に私の生徒、学園長や一真、そして先生です」
私は先生の手を取り、まっすぐにその目を見つめる。
「今度は私が先生を支える番です。この学園も、生徒も絶対に守ってみせます」
「まつりちゃん……」
先生は目を潤ませたが、涙は流さなかった。
「ありがとう。私もこの学園と生徒、そしてここにいるみんなを守ってみせるわ」
先生の覚悟の言葉を聞いた。
「それじゃあ、一真のところに行きますね」
「ええ、一真君にもありがとうと伝えて」
「はい、伝えときます」
先生の伝言を預かり、私は一真の元に行った。
一真は全身を包帯でグルグル巻きにされていて、辛そうに体を壁に預けていた。
「一真、大丈夫?」
「……この体が大丈夫に見えるか? 立っているのも辛い状態だよ」
「なら中に避難してればいいよ」
私が一真の性格を理解した上でこう言う。すると一真は苦笑した。
「お前、俺の性格がわかってて言ってるだろ」
「まあね。でも、これは私の本心でもあるよ」
「そうかい、あいにく俺にはそんな気はさらさらねぇよ。この学園や先生も守りたいし、何より俺が好きな野郎が前に行くって言うなら俺も行くのが道理だろ」
一真は痛む体に無理させているのが見てわかる。中に入っててほしいけど本人の性格もあるからそれも難しい。だから特別なおまじないをかけることにした。
「一真、目を閉じて」
「ん? いいけど……」
不思議そうな顔をしてはいたが、素直に目を閉じてくれた。
私は少し背伸びして、一真の首に腕を回し、抱きついた。
「一緒に頑張ろうね」
それだけ言って離れる。一真は顔を赤くして私を見ていた。私も自分の頬が熱くなっているのがハッキリとわかった。
赤くなっているだろう顔を見せないように、背を向ける。
ちょうど先生が全員の前に立つところだった。自然と話し声が聞こえなくなり、先生に注目した。
「皆さんに確認したいことがあります。本当にいいんですか? 今ならまだ逃げることが出来ます。逃げても恥だとは思いません。逆に、正しい判断だと思います」
そう聞くが誰も動かない。静かに先生の言葉に耳を傾け続けた。
「そう、ですか……。みんなさんの覚悟はわかりました。なら、私から言うことは一つだけです──死なないでください」
「「「はいっ!!」」」
空気を震わせる程の返事が響いた。
そして、間もなく終わりの時間が訪れようとしていた。
◇
「時間です。降下開始」
ゼルの指示で最初の部隊が投下された。魔法の実験体にされ、まともな思考力も残っていない部隊だった。目の前に何があろうと進み続ける、それがこの隊に与えた命令。つまりは捨て駒であり、敵の戦力を見極めるための餌だった。
「お前はどう出てくる……」
その部隊が学園の結界に触れるのを見下ろしていた。
◇
「第一波来ました!」
観測員の声が響く。全員が持ち場につき、杖を構えた。
「防御結界!」
先生の号令と共に学園全域に魔法陣が広がる。ドーム状に形成された結界は、あらゆる者を阻む壁となった。
上空から降ってくる人達にもその結界は見えているはずだった。しかし、なんの行動もせずに結界に触れた。
結界は激しい火花を散らし、降ってくる人に直撃した。
「無理やり突破するつもりなの!?」
先生はその行動を予測していなかったのか、驚き声を上げていた。でも、すぐに次の指示を飛ばした。
「結界をそのまま維持して。氷属性の魔法で結界ごと凍らせるのよ!」
教師達が急いで氷属性の魔法を唱える。その間にも結界は少しずつ破られていた。魔法の準備が整う前に、数人が林に落ちた。
私は急いでその人達を拘束しようと近づいたが、その姿を見て足が止まった。
落ちた人の目はなんの光も宿さず、手足があらぬ方向に曲がっていた。それでも無理して立ち上がろうとする姿はまるで、
「ゾンビ……」
拘束するのも忘れて見ていると、突然人の体が膨張し始めた。
「えっ……そんな……!」
体は形を変えて、次第に見たことがある姿になった。それは半年前に蒼空君がなった異形の形。
「ゼルストラ……」
大きさは以前よりも小さく、大人二人分ぐらいの大きさだった。それでも、あの禍々(まがまが)しさは肌で感じられるほど恐ろしく……
「まつり! 避けろ!」
後ろから一真の声がして前を見ると、ゼルストラが腕を振り上げているところだった。
咄嗟に体を動かし、振り下ろされる腕から逃げる。腕は私に直撃せずに地面に振り下ろされる。が、その衝撃が強く、当たってもいないのにそれだけで軽々と数メートルは飛ばされた。
「うっ……」
体を強く打ち、痛みが襲う。それでもゆっくりと体を起こし、前を見る。
「大丈夫か?」
一真が後ろから飛んできて、私を庇うように立つ。
「……うん、大丈夫。それよりも拘束したいから少しだけ相手してもらってもいい?」
「まつりなりの戦い方、か。わかった、協力する」
一真は注意を引きつけるために自分から立ち向かう。その間に私は拘束魔法の準備をした。
「【舞い刻め】」
周囲に落ちていた枝を浮かばせ、地面に魔法陣を描く。数十秒で魔法陣が完成する。崩れないように魔力で固定して、合図を出した。
「一真、誘い込んで!」
一真はひたすら腕の攻撃を避け続け、少しずつ魔法陣の方に寄ってきた。ゼルストラは少しずつ迫る。
「いくよ!」
一真が魔法陣から飛び退いた瞬間、魔法を起動させた。魔法陣の中から鎖が飛び出し、ゼルストラを拘束する。
「これで大丈夫なのか?」
「魔力は常時供給出来るように改変しといたよ。でも、鎖をちぎられたらそれまで」
「ならさっさと終わらせなきゃな」
「うん、そうだね」
急いで違う場所に向かおうとして、ガラスが割れるような音が聞こえた。
「結界が!?」
「思ってたより早い。早すぎだろ!」
結界が破られ、無数のゼルストラが降ってきた。その降ってくる箇所は学園の傍だった。
「先に行く!」
一真はそれだけ言うと杖に乗り、先に飛んで行った。
私も行こうとして、ふと足を止めた。空を見上げると黒雲の下に二人の人物が見えた。
一人は始まりの魔法使い、もう一人は終わりの魔法使い。
「先生……」
◇
結界が破られる少し前。
教師の塔では声が慌ただしく行き交っていた。
「結界損耗率、七割を超えました!」
「結界を突破した数、四十人です!」
「中学年エリア、負傷者六名!」
「高学年エリア、重傷者多数!」
魔女は戦況図を見て、予想以上に相手の動きが早いことに焦りを覚えていた。
「損害が少ない場所から増援を。治癒魔法を使えるものは三人中学年エリアへ。結界はそのまま維持し、相手の落下地点の予測を急がせろ」
学園長が的確な指示を飛ばし、戦況を維持する。しかし、元の数が違いすぎた。相手は万にも等しい数を用意し、個々の力が強すぎる。対して学園は数が百人ぐらいしかおらず、学園内で手伝っている生徒を合わせても千には届かない。
それでもまだ壊滅状態にならないのは魔法があるからだった。遠距離からひたすら攻撃できる力は、腕を振り回すことしか出来ないゼルストラに対しては強力な手札だった。
「学園長、今の状態はどれだけ維持出来そう?」
「長くとも一刻と言ったぐらいです。これからも負傷者が増え続けるのであれば半刻持つかどうか……」
学園長が申し訳なさそうに言う。だけど、それは彼女が悪いことではない。責任はそもそもの発端である魔女自身にあるのだから。
「あとは任せてもいいかしら?」
「はい、行くのですか?」
「全ての発端はわたしだから。ちゃんとその責任を取らないと、まつりちゃんにがっかりされちゃうわ」
魔女は苦笑しながら答え、杖に乗らずに飛び、ゼルの元へ向かった。
◇
ゼルは彼女が来るのを待っていた。全ての元凶。自分がひたすら不幸な目にあい続け、彼女は幸福に包まれ続けた。
だから仕返しをした。最初は戦争を引き起こし、次は彼女の弟子を魔法で暴走させる。封印された後は再び戦争を、しかも世界中を巻き込むほどの規模で巻き起こす。その時得た負の感情を集め続け、彼女に封印されていた二人の弟子達を解放した。解放した直後に水晶を無理やり埋め込み、狂わせた。少女は最後まで抵抗したが、負の感情に呑み込まれて死亡。しかし魂を無理やり繋ぎ止め魔女を探させる。
それ以外にもあらゆる手を尽くして不幸に陥れようとした。最初は上手くいくが、時間が経つといつの間にか幸福に包まれていて結局は無駄に終わる。それが憎かった。自分の幸福を全て奪った彼女が……
「ようやく終わらせることが出来る。この世界ごと滅ぼせば……」
「そんなにあなたはこの世界を滅ぼしたいの?」
一人感慨にふけっていると、待ち望んでいた人が下から来ていた。
「おやおや、ようやく来ましたか。随分と──」
「御託はいいからわたしの質問に答えてちょうだい」
急かす彼女にため息をつきながらも、質問に答えることにした。
「滅ぼしたい? いいや、僕だって滅ぼしたくないさ」
「なら、なんで……」
「それはあなたが一番わかるはずなのでは? 始まりの魔法使い」
「……」
何も言わない彼女が滑稽に見えた。
「なぜ何も言わないんですか? あなたが全ての元凶でしょう! 僕から全ての幸運を奪い、僕としては生きるしかなかった! あなたが僕から全て奪った! あなたの不幸を全て押し付けられた人生がわかるか!?」
その声に魔女はしばらく答えなかった。風が吹き荒れる音が、妙に大きく聞こえる。そして、魔女がゆっくりと口を開いた。
「確かに幼い時のわたしのせいであなたを不幸にしてしまった。それによってあなたの人生をめちゃくちゃにしてしまったわ。だから、その責任を今とるわ」
そう言って魔女は両手を広げた。
「なんの真似を……!」
「言ったでしょ、責任をとると。わたしが憎いなら、わたしだけを殺しなさい」
「何を言っている! 大人しく殺されればそれで満足だと思っているのか!」
激昂しながら無詠唱で雷の魔法を放つ。高電圧、高電流の雷が魔女の体を穿つ。
「かはっ……」
魔女は体を痙攣させる。しかし、死にはせずに生きていた。
「どう、したの? わたしを殺さないの?」
「くっ……僕は、あなたの絶望の表情が見たいんだ! そう簡単には殺しはしない」
そう言って、いい案が浮かぶ。実に簡単なことだった。どうやら彼女の言葉のせいで今まで頭が回っていなかったらしい。
「簡単なことでした。この学園を消しさればよかったんだ」
「なっ! それだけはやめて!」
さっきまで余裕の表情をしていた彼女に、焦りの表情が浮かぶ。
そう、その表情を見たかった……。
「ここが消えたらあなたはどんな反応をするんでしょうね!」
右手を空に向けて、大きな魔法陣を広げる。魔法陣から火が噴き出した。火は次第に炎となり、炎は業火となる。業火は収束していき、灼熱の塊となった。
膨大な熱量に右手が煙を上げているが、彼女の絶望的な表情が見られるならば安い代償だった。
これを止めるにも体が動かないから何も出来ない。
「さあ、見せてください!」
右手を振り下ろす。灼熱の塊もそれに従って下に落ち──ない。
「そんな物、落とさせてたまるかよ……」
そんな声が下から聞こえた。見ると、全身を包帯で巻かれているあの時の少年がいた。少年が何かを投げたような構えをしていたのが気になり、右手をなんとなく見てみる。そこにはあるはずの手がなく、鋭利な物で切断された面があり、血を勢いよく吹き出していた。
「ふむ、あの時の少年が邪魔をしますか」
特に痛みはないが、これ以上失血しても面倒だから左手で魔法陣を広げ、傷口に当てて熱した。
肉が焼けるような匂いがするが、特に気にせず二人を見る。二人は顔をしかめていた。
「さて、少年はなぜ邪魔を?」
「んなことは簡単だろ。ただ守りたい人があそこにいるからだ」
「そんな理由で」
「ああ、そんな理由だ。悪いな、お前みたいなくだらない理由とは違って、こっちは守りたいものがあればそれだけで戦うことが出来るんだよ」
自分の理由を否定された気がして、顔を歪める。
「自分の手で終わらせられないのは残念ですが、仕方ありませんね」
指を鳴らす。その瞬間、後ろにいた残りの部隊が一斉に落下した。
「ちっ!」
少年がナイフを構え斬りかかってくる。
「一真君、待って!」
魔女が制止の声をかけ、少年が止まり、魔女の方向を向く。
「一真君、気をつけて。ゼルは私と同じ最古の魔法使いよ。だから今みたいな手に引っかかっちゃだめ」
「そしたら学園が……!」
「そうだとしても気を抜かないで。抜いた瞬間、殺されるわ。学園はまつりちゃんに任せましょう」
彼女達が自分を警戒しているのがわかる。
「いいのかね? 僕なんかに構っていて」
「「……」」
「なら、いいことを教えてあげよう。間もなく、地上にいるゼルストラ全てが爆発する」
◇
私は数体のゼルストラを拘束して学園に戻って来た。教師の塔内には大勢の教師が並んで横たわっていた。
「学園長、どんな感じですか?」
「まつりさん。状況は見ての通り、劣勢ですね。教師の約半数が負傷してこちらにいます。防衛エリアも縮小せざるを得ず、敵がここに来るのも時間の問題でしょう」
学園長が今の戦況図を見せて、教えてくれた。すると、塔内から一人の職員が出てきた。
「学園長、解析結果が出ました」
「それで、どうでした?」
「ゼルストラは半年前のものと同じでした。ただ、小型化に合わせて魔法の機構を廃止。その代わり、時限式の魔力型爆弾が仕込まれていました」
職員と学園長の会話を聞いて、私は慌てて戦況図を見た。戦況図は、誰がどこにいるのか随時情報を更新していた。
探した求めている人物を見つけて、急いで向かった。
「まつりさん、どこへ!」
「あの子達の元へ行きます!」
学園長にそれだけ言い残して、杖に跨り急いで飛んだ。
◇
蒼空達は中学年エリアにいた。しかし、劣勢で押され続けついには数体のゼルストラに中学年の塔内への侵入を許してしまった。しかし、教師達はそれに気づいておらず、中にいた高学年の生徒達が怯えながらゼルストラの相手をしていた。
「このぉ、【燃えよ】!」
蒼空が火の玉を投げつけ、ゼルストラの顔の前で爆発させる。するとゼルストラは立ち止まりほんの一瞬だけ進むのを止めた。
「俺が引きつける。その間に逃げろ!」
そう言ってもう一度火の玉を投げつける。それからすぐに風を巻き起こし、ゼルストラの視界だけを数秒塞いだ。その間に生徒が逃げ出し、静かになった。
自分も隙を伺って出ようとして、まだ後ろに佳奈と穂乃果がいることに気づいた。
「なんで逃げねえんだよ!」
「あ、足がすくんで……」
「た、助けて……」
二人はゼルストラを前にして動けずにいたようだった。
「ちっ! 仕方ねえ」
蒼空は防衛用に渡されていたナイフを取り出し、ゼルストラに切りかかった。
ゼルストラは腕を振り上げる。それに合わせて蒼空は一気に懐まで潜り込む。
ここで腕を振り下ろされた瞬間、本来であれば避けられずに潰されるだけだった。
「【疾風よ】!」
魔法で加速し、腕が振り下ろされるより早くナイフを突き立てた。そのまま勢いよくゼルストラを押し倒した。
ナイフを手放し素早く距離をとる。
「追撃は禁止って言われたからな」
講習で、いくら隙だらけでも追撃をし続けると、反撃をもらって命取りになると言われた。
その通り、ゼルストラはダメージを受けた様子もなく、自然と起き上がった。
もう一度腕を振り上げてくるかと思ったが、様子が違った。微動だにせず、立ち止まっていた。
「今度は何してくるんだよ……」
蒼空は警戒しながら拘束魔法を唱えようした瞬間、突然ゼルストラの体が光り始めた。
「はっ!?」
何をしてくるのかと警戒していたら、ただ光り始めたことに驚きを隠せなかった。
その間にもゼルストラの異変は進み、全身にひびが入り始めた。
「【吹き荒れろ】!」
危険を感じて魔法で吹き飛ばそうとするも、高重量のゼルストラはびくともしなかった。次第に輝きは強くなっていき、次の瞬間、眩い光が視界を覆った。爆発したのだと気づいたのは、気を失う直前だった。
◇
蒼空君の前に正六角形の結界が広がっていた。
爆発の瞬間、咄嗟に防御結界を展開し防いだのだ。
「蒼空君、蒼空君!」
爆煙の中へ、蒼空君の名前を呼びながら入ると、倒れている蒼空君がいた。
「蒼空君! 大丈夫!?」
体を揺さぶると、蒼空君がうめき声を出しながら起きた。
「……俺は大丈夫だ。それより二人は……」
言われて奥を見ると、佳奈ちゃんと穂乃果ちゃんがいた。二人は怯えながらも、無傷であった。
「大丈夫だよ」
「……よかった。て、お前かよ!」
蒼空君は私の顔を見た瞬間、驚き声を発した。体を急いで起こし、なんでもないように装った。
「なんであんたがこのエリアにいるんだよ……」
「だって──」
私がその先の言葉を言うより早く、横から二人の少女が蒼空君に抱きついた。
「生きてますよね! 死んでないですよね!」
「もう、無茶をしないで、ください!」
佳奈ちゃんと穂乃果ちゃんが泣きながら抱きついて、蒼空君もさすがに呆気に取られて、どうしたらいいのか困っていた。
それを微笑ましく見ながら、三人に向かって言った。
「約束したでしょ。私が三人を守るって」
「……そうなんだけどよ、とりあえずこの二人をどうにかしてくれ」
蒼空君が困り顔で助けを求めてくる姿におかしくて、笑ってしまった。
それから今の爆発について三人に説明して、今は教師の塔に避難した方が安全ということを告げ、移動しようとした。
だけど……
「先生、さっき爆発したゼルストラっていうのは元々人だったんですよね?」
穂乃果ちゃんが何か気になったのか質問してくる。
「うん、そうだね……。何かあったの?」
「少し疑問に思ったことがありまして、爆発したならその中にいた人はどうなったのかなって……」
「っ!」
その質問にハッとして、急いで爆発した場所を見る。そこには、ゼルストラの破片や、爆発物の欠片が転がっていた。そして、爆発の中心部に倒れている女性を見つけた。
「大丈夫ですか!」
急いで駆け寄り、抱き起こす。しかし、その体は血に染まっていて、息も絶えだえだった。
「うっ……ここは……」
「ここは魔法学園です! すぐに助けるので──」
魔法で傷を塞ごうとして、手を弱々しく掴まれた。
「もう、私も長くないわ……。それより、他の子を助けてあげて……」
「で、でも……」
「……おねが、い……みんなを、すくっ……」
掴んでいた手から、完全に力が抜けて離れた。女性は息をしていなかった。
「そん、な……」
救えなかった。それが何より悔しい。でも、この人は言った。他の子を助けてと、救ってと。だから、ここで泣いている場合ではない。
涙を堪えて三人を見る。
「急ごう」
私は三人に言って教師の塔を目指した。




