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魔女の弟子  作者: かじら
魔女の願い
23/28

準備

 先生は話を終えていつもの雰囲気に戻った。


「後は魔法を使った戦争が起きて、これ以上魔法で人を傷つけさせないために魔法を忘れさせ、そのまま隠居生活。時間が経ってたまたま魔法を使うところをヒルダちゃん達に目撃されて弟子にした。その後のことはまつりちゃんも知っての通りよ」


 先生は理事長室から見える空を見上げた。幸運が続く魔法を使ったはずなのに、その背中には悲しい人生が刻まれているような気がした。それでも確認しなきゃいけないことがある。


「先生、あの水晶に映っていた人が……」


「ええ、彼よ。容姿はだいぶ変わっているけど、それでも二十代。恐らく魔法を使って自分の体の時間を止めたんでしょう。そして、今回の戦争を引き起こした本人よ」


 先生から告げられる言葉はなんとなくわかっていた。だからこそ聞きたいことがある。


「この戦争を止めることは出来ないんですか? ゼルさんの居場所はわかっているんですよね」


「……ええ、わかっているわ。でも、止めることは出来ない。彼はきっとわたしを恨んでいるわ、自分の人生をめちゃくちゃにされたのだから」


「そんな……先生はそれでいいんですか! 恨まれてるかもしれません、けど魔法をこんな風に使われていいんですか! 十年、二十年しか生きていない私より辛いものをたくさん見て来たのかもしれません、感じて来たのかもしれません。それは到底私では理解できません。でも、魔法を戦争道具に使うことへの悲しみは先生に負けません」


 先生はゆっくりと振り向き私を見た。その顔はいつも見る穏やかなものではなく、苦しみ悩み続けているものだった。


「先生でも、この戦争は止められないんですね」


「そう、ね。きっと、私が話しかけても彼は答えてくれないでしょうね」


「……それなら、私は私の戦争をします。戦争をしたくないけど、避けられない。なら生徒は守りたい。生徒を守るためには力が必要。力なら魔法を使えばいい。でも、魔法は傷つけるための物じゃない。それを生徒に教えて来たのは私なのだから、生徒に証明しなければならない。そのために出来ることは、傷つけない戦いをすればいい。それは難しいかもしれない、都合がよすぎるのかもしれない。だけど、私は決めたんです。傷つけない戦争をしようって。だって、魔法は願いが形となったもの。それなら、きっとこの願いも……」


「まつりちゃん……」


 先生は両手で顔を覆いうつむく。私は静かに礼をして部屋を出て行こうとした。


「まつりちゃんの覚悟はわかったわ。だから、わたしも覚悟を決めた。この戦争はわたしが責任もって止めるわ」


「先生……」


「だから――」


 先生が何か言おうとした瞬間、理事長室の扉が勢いよく開いた。お互いにびっくりしながらそちらを見ると、そこには息を切らしている学園長がいた。学園長はそのまま先生の前に行くと、一枚の紙を差し出した。


「国際連合からの、正式な通達です」


「「っ!」」


 先生と私が同時に息を呑み、その紙を見る。学園長は紙に書かれているものをゆっくりと読み上げた。


「『我々国際連合は、貴校を脅威的存在とみなし宣戦布告する。尚、貴校の投降は認めない。脅威がないと確認されるまで我々は武力をもって排除し続ける。開戦日時は今から約一週間後の十一月十五日である』」


 学園長が読み終えると、先生が深いため息をついた。


「一刻の猶予も許されてないということね……。少しでも避難が出来るように準備を急がせて。わたしも学園の結界を再構築するわ」


「わかりました、他の者にも作業を急がせます」


 学園長は足早に理事長室を出て行く。


「まつりちゃんにも学園の(ふち)に行って結界の構築を手伝ってもらっていいかしら?」


「はい、大丈夫です」


「なら魔法陣を刻んできてちょうだい。数は多いけど陣自体は簡単だから」


 先生は紙に陣を書いてくれた。私はそれを持って理事長室を後にした。


 ◇


 外に出るとすでに夜となっていた。学園の外縁(がいえん)部にある林を抜けると、そこはもう海だった。


「うう~、寒い」


 先生に渡された紙に書いてある魔法陣を地面に刻んでいく。この学園全体にこの魔法陣を刻むことになったが、刻む間隔が狭く、そのため量が多かった。


「明日中には終わらせたいけど、さすがに辛いよー」


 どれだけ魔法陣を刻んでも刻んでも終わらない。そろそろ集中力が途切れ始めて、魔法陣が雑になりそうだった。そんな時、後ろから誰かがやって来るのが気配でわかった。振り向くと、そこには蒼空君達三人がいた。


「あれ、三人ともこんな遅くに何しているの? 生徒はもう就寝しなきゃいけないでしょ」


「ふん、さっきまで悲鳴を上げてた教師のセリフとは思えないな」


「うぐっ……」


 どうやらさっきの独り言が全部聞こえていたらしく、私は押し黙ってしまった。


「ふん、そんなことを言うなら――」


「はいはい、蒼空さんは恥ずかしいからってそんなことを言っちゃダメです」


「そう、です。先生の手伝いをしようって言ったのは蒼空さん、じゃないですか」


「んな! そんなことは言ってないだろ!」


「はいはい、蒼空さんの言いたいことはわかりましたから。それより、先生はここで何をしているんですか?」


「えっと、今は結界用に魔法陣を刻んでいるの」


 蒼空君の言葉を適当に流す穂乃花ちゃんに苦笑しながら答える。すると、佳奈ちゃんが刻んである魔法陣を見て不思議そうな顔をした。


「先生、魔法陣は地面に刻んでも魔法が使えるんですか?」


「うん、そうだよ。ただ、地面に書いたものは形が崩れたりすると一瞬で効力を失うから、やる人は少ないかな」


 そう教えると驚き、形を崩さないようにゆっくりと魔法陣から離れていった。


「そんなに驚かなくてもいいよ。そこに刻んであるのはそう簡単に崩れないように作ってあるから」


「え、本当ですか」


 穂乃花ちゃんがわざと魔法陣に砂をかけるが、途中で見えない壁に(はば)まれたように砂が弾かれた。


「この魔法陣の魔力線(マナライン)には常に魔力が流れているの。それがちょっとした結界みたいな役割を果たしていて砂とかを弾く役割をしているんだ」


「なら他の人もそういう風に作ればいいんじゃないですか?」


「うーん、実は魔力が常に流れるようにすることは難しくないの。作るときに魔力を込めながら刻めばいいだけだから。ただ、地面に刻んでまで魔法を使用することなんて滅多にないし、持ち運びもできない。今は杖に刻んで使うことが多いからね」


 佳奈ちゃんと穂乃花ちゃんは感心したように声を漏らすが、蒼空君はすでにそのことを知っていたのか、私の話を聞かずに同じ魔法陣を刻んでいた。


「ありがとう、蒼空君」


「ふん、さっさと終わらせるぞ」


「あ、私も手伝います」


「わ、私も……」


 三人は刻んである魔法陣を見ながら刻むのを手伝ってくれた。


 ◇


 ゼルは空に浮いていた。夜空に浮かぶ星々を見つめながら笑う。


「もう少しで、全てが終わる。これでようやく……」


 その下には(きた)る戦争に備えて準備が急ピッチで進められている工場があった。


 ◇


 一真は包帯だらけの体で自室にいた。鞄やクローゼットの中から戦争に備えて必要な道具をそろえていた。


「まつりも戦うって決めたんだよな……」


 実は理事長室前でまつりが話しているのを聞いていた。途中で学園長が来たため、ばれないようにこっそり移動した。だから、最後の部分だけ聞けなかった。それでも、まつりなりの戦いを決めたのはわかった。それなら、今の自分にできることはまつりの手伝いをすること。


「この体でやるっていうのも結構きついな……」


 自嘲気味に自分の体を見下ろし、笑う。今の体では満足な戦闘は出来ないだろう。一週間後でもそう簡単に治る傷ではない。傷口には抑制の魔法が働いていて、治癒魔法の効き目が悪い状態だった。だから、今は自然治癒力に任せるほかなかった。


「まっ、今出来る限りの準備をするか」


 そう言って作業に没頭した。

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