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魔女の弟子  作者: かじら
魔女の願い
21/28

戦争と本

「はあ……」


 今日は一真の一件で授業が出来ず、大人数での講義は中止になった。そのため、時間が空いた私は何もすることがなく、学園の中を歩いていた。


「先生ー!」


 後ろから呼ぶ声に振り向くと、駆け寄って来る生徒がいた。


「穂乃花ちゃん、どうしたの?」


「いえ、数時間前に一真さんらしき人が倒れてたって話を佳奈ちゃんから聞いたので」


 穂乃花ちゃんの後ろから佳奈ちゃんが顔を出した。


「血塗れで、倒れてませんでしたか?」


 なんて言おうか迷った末に、ごまかさず正直に語った。


「うん、倒れてたよ。彼が特別な仕事をしているのは知っているでしょ。そこでちょっと危険な目にあったみたいなの。辛くも逃げることに成功したけど、全身傷だらけで倒れてたのがさっきの騒ぎだよ」


「だ、大丈夫なんですか!」


「生きてます、よね!」


 二人の心配する声にびっくりしていると


「少しは静かにしろ」


 二人の後頭部を叩く人がいた。


「痛っ、何をするんですか、蒼空さん」


「うう~、痛いです……」


 蒼空君が杖で頭を叩いたらしく、二人は涙目で訴えていた。しかし、蒼空君はそれを流した。


「あははは、杖で叩いちゃダメだよ」


「ふん、別にこいつらがうるさいから少し静かにさせただけだ」


 蒼空君はまんざらでもない表情で言う。それを不満たらたらで見る二人を無視して、話を戻した。


「で、あんたはなんで落ち込んでいるんだ?」


「えっ……」


「表情を見ればわかるだろ。何か悩み事でもあったのかよ」


 蒼空君は半年前のあの事件から変わったことがある。一つは話に参加するようになった。もう一つは口調が少しだけ、柔らかくなった。そして、ぶっきらぼうな口調だけどなぜか私に対して優しくなった。


「悩んでいるように、見える?」


「別に、とぼけるならそれはそれでいいけど……」


 どうやら蒼空君にはバレているみたいで、観念した。


「えっとね、もうじき放送があると思うけど、伝えとくね。結論から先に言うと、これから戦争が起きるの」


「え……」


「そん、な……」


 蒼空君も声こそ出さなかったが驚きの表情をしていた。


「発端は半年前の蒼空君が異形化した事件。あれは外部に漏れないように結界を張っていたみたいだけど、蒼空君が言うローブの男が原因だと思うの。その男が国際連合を動かして、この学園を壊滅状態にしようと動いてるみたい」


 蒼空君は今の言葉を聞いて顔を俯かせていたが、佳奈ちゃんと穂乃花ちゃんが蒼空君の頭に手を置いた。


「……おい、なんだこれは」


「別に、ただ落ち込んでいたからやってあげただけです」


「それに、蒼空さんの、せいじゃないですよ」


 頭をなでられ続け嫌がる蒼空君だが、その表情はどこか嬉しそうに見えた。


「あ、笑いました」


「っ! そんなわけないだろ!」


「笑って、いましたよ」


 三人がじゃれあっているような光景を見ていると、不意に全校放送が流れ出した。


『みんなさん、こんにちは。魔法学園理事長より、重要なお話がありますので静かに聞いてください』


 三人も話すのをやめて放送に耳を傾けた。


『最初に結論から言わせてもらいます。これから約一週間後に戦争が起きます。魔法学園と国際連合の魔法戦争です。我々教師はこれが避けられぬことだと判断し、生徒を避難させることにしました。各支部にはすでに避難の受け入れを要請していますが、人数が多いため受け入れ準備が整うにも時間がかかります。恐らく戦争が起きる前日に準備が整うでしょう』


 そう言った瞬間、あちこちからブーイングが聞こえたような気がした。


『生徒のみんなさんが怒るのはもっともです。我々も申し訳ないと思っています。ですが、生徒を守るのも教師の役目です。生徒全員が逃げるまで抵抗はし続けたいと思います。避難は小学年から順に行われます。そうすると高学年、大学年の生徒が後になってしまい、戦争中に避難することになってしまいます。そこで、高学年以上にはこれから自己防衛の授業を受けてもらいます。これは自分自身を守ると同時に、生徒全員を守るために、力をつけることになります。それは、危険なところに身を置くことになり、命の危険も伴うということです。この授業は、力を身につけたいと思う生徒が任意で参加するものとします。周りに流されて参加するのではなく、自分の命を第一に考え、自分自身と相談し、参加してください。最後にこれだけ伝えます。逃げることが恥ではありません。強き者が弱き者を守るのも当たり前ではありません。そして、魔法は決して人を傷つけるものではないことを覚えておいてください』


 そう言って話を締めくくった。辺りは静かで、誰も喋ろうとはしなかった。私は三人が一体どんな判断をするのか気になり、振り向く。


「三人はどうするの?」


「「「……」」」


 三人は無言で頷き合い、声をそろえた。


「「「自己防衛を習う(ならいます)!」」」


 予想してはいた。だけど、実際にそれを聞くと胸が締め付けられるように苦しかった。


「やっぱり、そうだよね。そうすると避難も後回しになる可能性があるけど、いいの?」


 そう聞くと、どこかおかしいのか三人は笑い合った。


「大丈夫ですよ」


「だって信じてるからな」


「先生が、守ってくれますから」


 三人が私を信じる目が眩しかった。


「信じてくれてありがとう。ようやく、私のやることが見つかったよ」


 元気づけられた気がした。魔法の戦争が起きてしまうのは避けられない。なら、どうやって戦争を早く終わらせるか、それを考えなければいけない。何より、自分を信じてくれる生徒を守らなければならない。


「うん、そうだね。こんなところで落ち込んでちゃダメだよね……。よし、決めた! 私なりの戦い方をするよ。それでみんなを守ってみせる!」


 私の宣言に、三人は嬉しそうに笑っていた。


 ◇


 全校放送が終わってから、学園内は慌ただしく動いていた。避難用具の準備、結界の強化、食糧の備蓄、生徒への講習など生徒の手も借りて行われた。

 その間、私は春香の代わりに図書室で重要な書類の確保を任されたのが……。


「えっと、『魔法の基礎』と『魔法の歴史』はいると、これ以外はここに置いといて……」


 必要な本を探すのはそこまで苦労しなかった。元々生徒があまり図書室を利用しないのもあるが、春香が日頃から丁寧に整理整頓していて、わかりやすかった。だけど……


「量多すぎでしょ……」


 どこを見ても棚、棚、棚だった。そこに必要な本が必ずと言っていいほど一冊は置かれており、全ての棚を回らなければいけなかった。


「春香もいつもこんなことをしていたの……?」


 私の言葉に返ってくる声はなく、一人で黙々と作業を進めた。


「司書さんは違う仕事に駆り出されていないしな~、はるえも~ん、助けて~」


「誰がはるえもんよ」


「っ!?」


 突然返ってきた声に、思わず悲鳴を上げそうになった。ゆっくりと振り返ると、腰に手を当てて怒った笑顔をしているはるえ――


「ずっと前からはるえもんって考えてたの?」


「いえいえ、滅相(めっそう)もございません」


 粛々(しゅくしゅく)と頭を下げてから、自然とお互いに笑い出した。それから春香がここにいることに疑問を覚えた。


「春香は日本に帰ったんじゃないの?」


「うん、帰ったよ。帰ってせっかく写真を見せてたのに、テレビでこの学園のことが流れたんだもん」


「え、そんなのこっちには流れてないよ」


「やっぱり……一応日本の新聞を持ってきたから読んでみて」


 そう言って春香が新聞を手渡した。見出しを見ると『魔法学園、世界に宣戦布告!?』といったものが書かれていた。


「なにこれ! 私達はそんなことをしてないよ!」


「ええ、それは理解してるよ。でも、世界中では新聞と同じようなことが報道されてて、世界中がパニックになってるよ」


 春香がこんなところで嘘をつく理由もない。


「勝手にデマを流して、パニックに陥れて、あのローブの人は何がしたいの……?」


国連がデマを流すはずがない。それは先生も絶対の信頼を置いていたからしないはず。ならば残りはあのローブの男のみ。


「まつりちゃん、そのローブの人について少しわかったことがあるの」


「え、どんな人なの? それよりどうやって知ったの?」


「えっとね、この本なんだ」


 そうやって見せたのが、あの直筆の本だった。


「でもそれって解読がだいぶ前に終わったんじゃないの?」


「うん、私もそう思ってたんだけど、実はこの本には隠されていたものがあったの」


「隠されていたもの?」


 春香は本を広げると、魔法陣を広げた。


「【偽りの書よ、正しき答えにたどり着きし時、真実の書となれ】」


 本は白く輝きだした。そして、中に記されていた文字が次々と並び代わり、違う文字列になった。


「なんて書いてあるの?」


「ごめん、私もそこまで解読できてないの。でも、誰が書いたのかはなんとなくわかる」


「誰なの?」


そして、春香が言った人物に思わず持っていた本を落としそうになった。

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