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魔女の弟子  作者: かじら
魔女の願い
19/28

終わりの魔法使い

魔法は生まれるべきものだった?


『■■より』



アメリカ合衆国に本部を置く、国際連合──それは国際平和と安全の維持、経済・社会・文化面の国際協力の達成などを目的とする国際平和機構。

 その中で、魔法に対する会議が秘密裏に行われていた。

 円卓状に並べられた机と椅子。そこに座る各国の重鎮達。その中央に立つ一人の男がいた。


「本日は(わたくし)めの要請に応じて頂きありがとうございます。皆様、お身体の方は大丈夫でしょうか?」


 男は芝居がかった口調で挨拶をする。


「ゼル君、前置きはいい。我々は忙しい身だが、わざわざ君のために時間を割いているのだ。さっさと本題に入りたまえ」


 どこかの国の人がゼルと呼ばれた男を()かす。


「これは失礼。ではおっしゃる通り、早速本題に入らせて頂きます」


 そう言うと手に握っているリモコンのスイッチを押す。すると、重鎮達一人一人の前に置かれている小型の画面に、一つの映像が流れた。そこに映し出されたのは、上半身だけ人の形をした巨大な異形だった。

 全てを呑み込むかと思わせる程全身が黒く、殺意が込められた赤目が一対あるのみだった。その異形は破壊の限りを尽くしており、木々を()ぎ倒し建物を押し潰しながら進み続けていた。

 いきなりこんな映像を見せられた重鎮達は驚き、ゼルの方を見る。


「これは一体何なのかね? どうやら魔法学園で起こっているようだが」


「ええ、これは半年程前に魔法学園で実際に起こった事象の映像です」


 画面が切り替わり、異形のデータが出てきた。


「私はこの異形を識別名『ゼルストラ』と名付けました。高さ、重さは共に不明。しかし、魔法を使用することが可能、かつ知能もあり力も強い」


 微かにざわめきが広がるも、すぐに収まった。


「確かにこの異形『ゼルストラ』についての恐ろしさはわかった。しかし、これを我々に見せてどうしたいのだね?」


「このゼルストラについてあなた方は何も知らされていない。魔法学園の設立にあたって定められた、魔法規定第三条『学園の状況を随時報告し続ける』に違反しておりませんか?」


「ふむ……確かにその通りかもしれん。しかし、我々とて器量が狭い訳ではない。報告に多少の遅れがあったとしても──」


「多少の遅れ、即ち半年は待つとあなた方はおっしゃいますか?」


 ゼルの一言で重鎮達は眉をひそめた。


「確かに報告の遅れはあるかもしれません。しかし、半年は長すぎませんか? 建物の修復でも長くて一ヶ月。そこから報告書作成等の時間を引いても半年は長いのではありませんか?」


「うむ、半年は長い。だが、君は半年も前の出来事を話題にして何を言いたいのだね?」


 ゼルはリモコンを操作して写真をいくつか映し出した。

 魔法学園の教師達がゼルストラに向けて魔法を撃っているところだった。


「私はこのゼルストラが戦略的兵器として造られたのではないか、そう(にら)んでおります」


「…………」


「しかし、何らかのミスによりゼルストラは暴走。それをやむを得ず撃破。このことをあなた方連合に知られる訳にはいかず、情報を意図的に伏せた」


 これが嘘か真実なのか判断するには情報が少ない。重鎮達もこの話を全て鵜呑(うの)みにするわけもない。しかし、一つだけ気になる点があった。


「これが真実だというなら我々はショックを受けよう。だが、どうしても信じられないのだよ。君もまた魔法を使う者の一人。それなのになぜ我々にこのような話をしてくるのだね? ゼル・テロスよ」


「私はただこの世界の平和を望んでいるだけです。それを(おびや)かすならば、たとえ魔法学園でも許せません」


 ゼルの言葉に嘘はない。そう判断した彼等は、魔法学園についてどのような対策を取るのか話し合おうとした。そこでゼルが手を挙げる。


「今回の一件、私目に任せて(もら)えないでしょうか? このような事は私の同胞の手によって引き起こされたもの。ならばその責任を負うのもまた同胞である私の役目です」


「確かに君の言う通りだ。だが一人でやるには手に余るのではないのかね? 我々も協力は惜しまないつもりだ」


 その言葉を聞いてゼルの雰囲気が一瞬変わったような気がした。だが、彼等はそれに気づかない。そして、次に発せられた言葉に息を呑んだ。


「いえいえ、私の方で既に準備を進めている最中でございます。しかし、万が一に備えて(あらかじ)めコレの使用許可をお願いします」


「いくら何でもそこまでやる必要があるのかね?」


「同胞は魔法を使えます。コレを一つや二つ使ったところで簡単に防いでしまいます。彼等の実力は私が十二分に理解しております。ですのでコレの使用許可を」


「……協力を惜しまないとは言った、それに嘘はない。ここで断ったならば君の信頼を失ってしまうのかもしれんな……。わかった、この件については君に任せよう。コレについての使用許可も出す。他の者も異論はないな」


 一人がそう言って、異論はひとつもなく全てゼルに任されてしまった。


「ありがとうございます……」


 怪しい笑みを浮かべ(うやうや)しく礼をした。そのタイミングを見計らって素早く移動する。


「っ……!」


「おや? どうやらネズミが一匹いたようですね」


 何かに気づいたのかゼルは、会議室を出て行った。


 ◇


「はぁ、はぁ、くそっ!」


 走る。奴が来る前に何としてもここから出なければならない。だが、万が一に備えてやっておかなければならないことがある。

 走りながら懐にしまってある一つの水晶を取り出す。それを額に当てて唱える。


「【銘記せよ】」


 今しがた見てきた記憶を素早く水晶に書き込む。それから近くにいた海鳥に催眠魔法を掛ける。


「コレを魔法学園へ」


 そう言って飛ばす。

 移動し続け、港にたどり着いた時に後ろから足音が聞こえた。ゼルが追いつたのだ。


「おやおや、そこにいるのは誰なのかね?」


 指を向ける。

 パリンッ! ガラスが割れるような音がした。

 それは自身に掛けていた隠ぺい魔法が強制的に解除された音だった。


「なっ!?」


 何も言わずに、しかも強制的に、使用者の魔法を解除することができる人は一人しか知らない。だが、この男はそれをやってのけた。


「お前は一体何者なんだ……!」


 少しでも海鳥からこの男との距離を離さないといけない。


「僕は君達より(ふる)い者、まぁ旧世代だね」


「旧世代、ってだけじゃないだろ……。こっちは色々と掴んでるんだ」


 ハッタリだった。今回の任務は国連に潜入し、半年前のあの事件の黒幕を探すというものだった。

 何人か怪しい人物を見つけ、片端から情報を聞き出しようやくゼルに繋がった。

 これから調査しようとした矢先に、魔法学園へ総攻撃を仕掛けることを知り、今に至る。


「ふむ、どこまで掴んでるのかは知らないが、大したことではないよ。僕にとってはね。それより、せっかく時間稼ぎをしているところ申し訳ないのだが、それは無駄だと教えてあげよう」


 ゼルはそう言うとポケットから血塗れた水晶を取り出した。


「いつの間に……!」


 先程海鳥に渡した水晶だというのが見てわかった。


「追いかけている最中に奇妙な鳥を見てね、気になって開けてみたらこんな物が入っていたのだよ」


 ゼルはそう言いながら水晶に力を込めていき、砕いた。


「クク……危うく機密情報を漏らすところだったよ。まぁ、たとえ漏れても君達には何も出来ないがね」


 狂気の笑みを浮かべながら一歩一歩近づいてくる。


「くっ……! 【業火に焼かれよ】!」


 炎弾を作り、ゼルに投げつける。普通ならそれを防ぐなり避けるなり何らかの行動するはずだが、この男はそんな動きを一切見せず、悠然と歩き続けた。


「【()ぜろ】!」


 炎弾が命中する寸前で爆発させる。爆風が吹き荒れ、お互いの視界を遮った。


「【疾風よ、駆け巡れ】!」


 少しでも離れなければいけない。ゼルに背を向け、全力で走る。体を後押しするように風が吹き、普通の人じゃ到達出来ない速度で走った。


「やれやれ、少しは落ち着きたまえ。新世代の子は少々お転婆だね」


 その声が前から聞こえた。咄嗟に風を逆風させ、走るのをやめる。

 目の前には、無傷のゼルが立っていた。


「さて、これから君にあれこれ探られるのも気分が悪い。だからここは大人しく死んでもらうとしよう」


 そう言って片手をかざす。警戒して距離を置くも、冷や汗が止まらなかった。


「これから死ぬ君にまだ私の正体を伝えてなかったね。私は──」


 名前を告げる瞬間、血の華が咲いた。何が起きたのか理解出来ずに、その場に倒れていく。そして、ゼルの声が響いた。


「終わりの魔法使いだ」


 薄れ行く意識の中で、指に()めていた水晶のリングに念じる。水晶は小さな輝きを放ち、同時に浮遊感が体を包み込んだ。


 ◇


「おや、まだそんなことが出来たのか。まぁいい、どう足掻(あが)いたところで何も変わらないのだから」


 ゼルはそう言って国連の建物へ歩いて行った。

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