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魔女の弟子  作者: かじら
魔女の学校 ~力~
18/28

蒼空

 そこは何もない場所だった。全てが黒く塗りつぶされ、何も見えなかった。自分が立っているのか、座っているのかすら怪しかった。


『ニクイイイイィィィィィッ!』


『ナゼイキテイルゥゥッッ!』


『ソノカラダヲヨコセエエェェェッッ!』


 頭の中に声が響く。どれも呪詛(じゅそ)みたいに鳴り響き、ずっと聞いているとおかしくなりそうだった。それでも、


「さが、さなきゃ」


 蒼空君を探すために歩き始めた。何も見えず果てがない場所で、どこに行けばいいのかもわからなかった。でも、頭に響く声が少しずつ大きくなっていく方向へ進めば、蒼空君がいそうな気がした。

 どれだけ歩いたのかもわからない。自分が自分じゃなくなりそうな気もした。ひたすら蒼空君のことを考え続け、歩いた。そして、たどり着いた。

 黒い球体の中で、体を抱えながら眠る一人の少年。



「やっと見つけたよ、蒼空君」


 黒い球体に触れ、名前を呼ぶ。それだけで頭の中に響いていた声が嘘みたいに聞こえなくなった。


『来たのかよ……』


 その代わり、ずっと探し続けていた蒼空君の声が聞こえた。


「うん、来ちゃった」


『帰れ。俺はこれからあいつに復讐しに行くんだから邪魔するな』


 あいつ。それが誰を指しているのかわからない。でも、それは間違っているから伝える。


「復讐なんてさせない。蒼空君がこれからやろうとしていることは間違っているから」


『そんなことわかっている。でもな、この記憶が、この感情が(うず)くんだよ。母さんを殺したあいつが憎くて、殺したくてしょうがないんだよ!』


「そんなことをしちゃダメだよ! 復讐はまた復讐を呼ぶだけだから……」


『じゃあ、どうしろってんだよ! 俺の父さんは事故で死んじまって、母さんも再婚した野郎に保険金目当てで殺されて、――俺が何のためにこの学園に来たかわからなくなっちまうだろ!』


 蒼空君の声が痛いほど響いた。そして、蒼空君の半生(はんせい)が頭の中に流れ込んできた。


 父と母と三人で暮らしていた。決して裕福とは言えないが、それでも優しい家庭だった。しかし、ある日の会社帰りの父が車の追突事故にあい急死した。母は悲しみに暮れたが、半年たって別の男と再婚した。最初は誰にも優しく接していたが、時間が経つにつれて少しずつ化けの皮が剥がれていった。

 蒼空君を虐待し、母を(しいた)げ続けてある日、母の保険金目当てで殺害した。警察が第一容疑者で逮捕したが、証拠不十分で釈放された。それからも虐待は続いたが、隣人の通報で現行犯逮捕された。

 それから孤児院で暮らし続け、魔法学園の存在を知り入学。魔法学園に入った理由は……



「……復讐する力を得るためにこの学園に入った。理由が何であれそれを否定する権利は私にはない。でも、魔法を使って復讐するのは間違っているよ。蒼空君にとって魔法とは復讐するための道具なのかもしれない。でも、魔法はそんなために生まれて来たんじゃない」


『うるさい……』


「小さな願いから魔法は生まれた。明日が晴れになればいい、家族が幸せに暮らせればいい。そんな願いから魔法は生まれた。決して人を殺すために生まれたわけじゃない」


『でも現実は違う。実際に戦争の、人殺しの道具に使われている。今も、この世界のどこかで。そして俺も……』


「確かにそれは事実だよ。でも、それがすべてじゃない。今も私達はそんな使い道がなくなるように努力をしている。魔法の力を正しく理解して、それを正しく生徒に伝える。それが私達魔法学園の教師の役割だよ」


『……』


 今言ったのがすべてではない。魔法はあらゆる可能性を秘めていて、人の願いから生まれるもの。それが良くも悪くもある。でも、たとえ悪い方に転がったとしても、それをただしてあげるのが教師の役目だから。


「蒼空君、私はね、魔法は人を幸せにするもの、笑顔にするもの、人と人を繋ぐものって思っているの。でも、今また一つ見つけたんだ。それはね、人を守り未来を明るくするものだって」


『人を守り、未来を明るく……』


 黒い球体に小さなひびが入った。


「うん、蒼空君が身につけた魔法で他の人を守ってあげようよ。復讐するためじゃなくて、人を守るために力を使う。人を殺したらその人の人生はそこで終わりだけど、助けてあげたらその人も、蒼空君の未来も明るくなるから」


 またひびが増えていく。

「私は蒼空君が過去にどんなに辛い思いをしたのかわからない。そのとき一人になってしまったのかもしれない。でも今は違うでしょ。佳奈ちゃんがいて穂乃花ちゃんもいる。この学園の皆がいて町の人もいる。それに私もいるでしょ」


 球体にひびが走り続け全体を覆う。


「ほら、もう一人じゃないんだよ。頼っていいし辛かったら胸を貸してあげるから。だからね、出てきて……」


 その瞬間、球体が割れた。辺り一面黒かったこの世界も色づき始めた。そして、私の前には助けたかった大切な生徒がいた。


「お帰り、蒼空君」


「せん、せい……」


 蒼空君の目には涙が浮かんでいた。私は何も言わずに優しく包み込んであげた。嗚咽だけが響き渡り、この色づき始めた世界が消えるまで包み込んでいた。


 ◇


 光が収まり、私の意識が現実へと引き戻されていた。体は重力に従って落ち始めた。杖や棒はなく、何かする力も残されていなかった。しかし、そんな体を抱きとめてくれる人がいた。


「お疲れ、よく頑張ったな」


 一真だった。ゆっくりと飛行しながら降りて行く。


「あの巨大な体も崩壊を始めている。じきに中からあのガキが出てくるだろ」


「そっか、ちゃんと助けられたんだね……」


「ああ、お前のオリジナル魔法でな。精神を他人の中に移すなんて、そんな危険な魔法は誰も使わないよ」


「あはは、あれはあの場で考えたんだよ……。でも、うまく……いって……よかっ……」


 緊張の糸が切れたのか、意識は少しずつ泥の中に沈んでいくように落ちて行った。


「ゆっくり寝ろよ」


 一真の声が聞こえた、気がした。


 ◇


「この程度だったか……まぁいい、これで準備は終わったのだから。ククク……」


 ローブの男は密かに今の一幕を見ていた。そして、その手には数枚の写真が握られていた。


「お前ももう用済みだ。好きに写真を撮っていろ」


 男の前に立つカメラを握る少女。少女にそう命じて催眠を解く。


「待っていろ。いずれキミをこの手で……」


憎き者を睨みながら男は消えた。


 ◇


 私が目を覚ましたときには、蒼空君の事件から一週間が経っていた。オリジナルの魔法は思った以上に体の負担が大きく、体をゆすったりしても私は起きなかったらしい。その間みんなに迷惑をかけたが、目覚めたとき皆は、命に別状がなかったことに安心していた。特にひどかったのは佳奈ちゃんと穂乃花ちゃんで、私が目を覚ました時なんて泣き続けて涙で服がしわくちゃになってしまったのだ。


 そんなこんなで、ご飯もしっかりと食べている間に今の状況を一真に教えてもらった。


 まず倒壊した建物は魔法を使って急ピッチで復元作業が進んでいる。次に学園の結界には大きな(ほころ)びがあり、それが原因で結界の崩壊が早まったらしい。その原因はというと、無事に助けられた蒼空君は事情聴取を受けて、謎のローブ男が黒幕と判明。その男がどこから来たのかはわからないが、結界の内外を転移魔法で移動するときに発生する空間干渉により、綻びが生まれたと判明したらしい。先生は旧世代の先生たちを集めて緊急会議を行っている。


 蒼空君はというと反省文を大量に書かされており、若干いらだってはいるみたいだがあのぶっきらぼうな口調は、幾分か丸くなったらしい。


「と、こんな感じだ」


 一真が簡単に教えてくれた。しかし、まだ一つだけ聞いていないことがあった。


「ねえ、一真。一真に何があったのか私にはわからない。きっと危険なことをしてるんだし、魔法を間違った使い方をしてるんだと思う。でも……今はそれが必要なんだよね……その間違った使い方が」


「ああ、そうだ。正しいと思う物より今は間違った方が望まれている。皮肉なもんだな……」


 私も正直それは悲しかった。でも、それもまた仕方ないことだと思う。

 私の夢は教師になって、魔法で人が幸せに、笑顔になる世界にすること。だけどそれは険しい道のりなのはわかっている。先生達も苦労しているほど難しい事なのだから。

 でも、諦めずにやっていけばいつかきっと……。

 そのための一歩が……。


「一真、約束して。今一真がやっていることは仕方ない事なのかもしれない。でも、いつかそんなことが必要じゃない世界になったら、そのお仕事を辞めてね」


「……わかったよ。約束だ」


 そう言って指切りする。それからしばらくお互いに無言になった。というよりは一真が何か言いたそうで言えない、そんなもどかしい感じだった。暫くして意を決したように口を開いた。


「まつり、俺と付き合ってください!」


 まさかの告白だった。一真からそんな言葉が出てくるなんて思いもよらなかった。だけど、今の一真には大事な仕事がある。だから、


「嫌だ」


「ぁ…………」


 真っ白に燃え尽きた一真を幻視した気がした。


「だって、今の一真には大事な仕事があるでしょ。だからそれが終わったら……」


 それ以上は言わなかったが、一真は水を得た魚のように一瞬で部屋を出て行った。窓からは高速でどこかに飛んでいく一真の姿が見えた。


「さて、私も明日から復帰しなきゃいけないし準備準備」


 私は授業の準備をしに部屋を出た。

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