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魔女の弟子  作者: かじら
魔女の弟子
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出会い

長いという意見をもらっていたので、話数を分割しました。

 君たちは魔女を信じる? (ほうき)に乗って空を飛んだり大きな三角帽子をかぶっていたり、魔法を使ったりするアレだよ。私はいたらいいなと思いアイツはいないって信じていたの。でも、会って目の前で超常現象を見せられたら信じるしかないよね。

 私が魔女に出会ったのは小学生の夏休みの時。


蝉の声が響く。男女六人で遊んでいた。森が近くにある空き地で、誰が建てたのかわからない空き小屋がいくつもあった。


「「「「「「じゃーんけん、ぽんっ!」」」」」」


 暑さに負けない元気な声が森に響いた。数度のあいこを繰り返し鬼が決まった。


「俺が鬼かよ!」


 一人の男の子がじゃんけんで負けたとたんに叫ぶ。残り五人は笑いながらいろんな小屋に隠れる。もちろん私も誰も入っていない小屋に逃げる。息をひそめじっと鬼を見る。鬼も数をかぞえ終わり探し始めた。


「こっちに来ませんように……」


 見つかりたくないから祈った。そんなことに集中していたからか、背後に忍び寄って来た足音に気づくのが遅れた。


蒼生(あおい)見っけ」


 その声は息をひそめるように小声で、鬼をしている男の子の声ではなかった。いつも聞いているアイツの声だ。私はゆっくり振り向く。


「もう、びっくりしたじゃん! なんでわざわざ一緒の所に隠れるのよ、一真(かずま)


 短い髪で、やんちゃそうな表情をしている一真だった。一真は私の質問に肩をすくませた。


「別にいいだろ」


「別にって……早く――」


「しっ! 鬼が動いた」


 私の声を遮りながらそっと外を見ている。その後ろから同じように覗く。鬼は小屋の中に入っていき、次々と見つけていった。


「やべっ、こっちに来る」


 一真は鬼が来るのを確認して慌てて奥に引っ込んだ。私もその背中を追いかけて奥に進む。この小屋の中はぼろぼろだが屋根はしっかりしていて雨漏(あまも)りをした跡はない。そして太陽の光も差し込むことはない。少し暗いが真っ暗というほどではない。

 進むとすぐに壁にぶつかった。


「てっ……ここで行き止まりか」


「そんな! 早くしないと鬼が来ちゃうよ!」


 私はどう動いたらいいのかわからず、鬼が来る方を見たまま思わず尋ねるが、一真からの返事はなく、ただ辺りを探る気配がした。そして何か見つけたようだ。


「これ、壁じゃないぞ。ノブが付いているから多分ドアだ」


 一真がノブを回す音がする。続いて壁だったものが動く。


「よし、外だ! 鬼から逃げるぞ!」


「う、うん」


 私の手を引いてそのまま外に出る。ちょうど小屋の裏から出てきたようだ。このあとはどうするのか気になって一真を急かす。


「ねえ、早く隠れないと……」


「さて、どうしようか」


 一真の顔を見る限り何も思いついていないようだった。周囲を見るとここから少し離れたところに小屋があるが、鬼に見つかってしまう可能性が高い。そしてさっきまでいた小屋に鬼が近づいているから戻ることもできない。何も考えが浮かばず一真を見ると、何か思いついたのかニヤニヤしていた。


「なあ蒼生、どうせ小屋に行くことはできないんだからさ……残るのはあそこしかないだろ」


 一真は指さしてそう言う。指は生い茂る森を示していた。


「ね、ねえ……そんなところ入っちゃダメってお母さんが言ってたよ」


 お母さんの言いつけを守らなければならないと思ったが結果的には勢いに負けた。


「少しぐらいなら大丈夫だって」


「で、でも……」


「そんなことを言っている間にも鬼が来ちまうから早く行くぞ」


ぐいぐいと背中を押されながら森の中に入って行く。

 草が多く生えている茂みに隠れて小屋の中にいる鬼を監視する。バッタや蛾などの虫がいて声が出そうになるのをこらえる。しばらくすると私達が出てきたドアを見つけたのか鬼が出てきた。


「やべっ」


 一真は急いで身を低くすると、私の方を向いて指で下をさした。しゃがめというサインだとわかったが、これ以上しゃがむと長い髪や服に草が付くからどうしようかと迷った。しかし、一真はそんな様子を見て私の腕を引いて無理矢理しゃがませた。


「ばっかっ! 見つかったらどうするんだよ!」


 声を潜めながら怒る。


「ごめん……」


「たく……て鬼がこっちに来てる!」


 鬼が周囲を見回しながら私達が隠れている茂みに近づいていた。一真は鬼がこっちの方を見ていないタイミングを見計らって、静かに移動し始めた。向かう場所は茂みのさらに奥、森の深いところだ。私は少し不安で一真の腕をつかんでいた。

 少し進むとたちまち空き地が見えなくなった。


「へえー、あんまり進んでいないけど結構暗いもんだな」


「ね、ねえ、一真。早く戻ろうよ、何か出そうで怖いよ……」


「まあ、そうだな。帰れなくなるのも嫌だし戻るか」


 一真と一緒に引き返そうとした時、違和感があった。

 振り向くとさっきまで通って来た道がなくなっていたのだ。


「私達どこから来たの?」


「俺は覚えてない。一応目印になりそうな木に枝で傷をつけたくらい」


「その木は?」


「それが見つからない……俺達、迷子になった?」


 あまり驚いた様子もなく、一真は軽く首をかしげるだけだった。私は不安に押しつぶされそうだった。


「お家に帰れないの……」


「お、おい、泣くなよ」


 私の声に慌てた一真は、周囲を見て何か見つけたのか私の腕を引いて歩き出した。どこに向かうのかと思い、涙でぼやけた視界で先を見る。そこで気づいた、森の中なのに不自然なまでに道が出来ていたことに。夢中で歩き続けていると森が開け、その中央にそびえ立つ大木が一つ。その上に建つ家を見つけた。私達が住んでいるような家だった。


「お家?」


「だな……」


 見たこともない家を前にして、背の小さい私達は首が痛くなるまで見上げ続けていた。どんな形になっているのか木の周りを一周した。


「木の上に家なんて建つんだな」


「私初めて見た。でも木の上にあってなんか落ちそうで怖い……」


 感心していると、いきなり家から梯子が降りて来た。


「これって上っていいの?」


「うーん、とりあえず上ってみるか」


 一真はそう言うと梯子に手をかけて上り始める。私もその後を追う。先に上った一真はひょこっと顔を出した。


「大丈夫かー?」


「ちょ、ちょっと怖い……」


「ほらよ」


 そう言うと私より僅かに大きい手を差し出してくれた。その手を掴み引き上げてもらう。


「ありがと」


「気にすんな。それより見てみろよ」


 一真に言われて見ると、そこはいくつもの本棚があった。しかし、本棚には本が一冊もなく不思議に思う。他には見たことがない幾何学模様が床や黒板に描かれて、中央にある実験台らしきものの上にはフラスコなど理科の実験で見たことがあるものが置かれていた。

 初めて見る物に次々と興味が湧いて近くにあった試験管を手に取る。カチャカチャとガラスがぶつかり合う音を響かせ眺めていると、突然肩に誰かの手が置かれた。


「こーら、手に持っているものを離しなさい」


 優しい女の人の声がした。突然肩に手を置かれたことに驚き、手に持っていた試験管が滑り落ちた。


「あら、危ない」


 女性が私の後ろで何かした途端魔法陣が浮かび上がり、その上に落ちた試験管が途中で止まったかと思うと、時間を巻き戻すかのように元あった場所に戻った。私は目の前に起きた出来事に目を丸くして慌てて後ろを見る。

 そこには長身で、腰にまで届く髪の女性が立っていた。その姿は何度か絵本で読んだ魔法使いと同じで黒い三角帽子にローブ、そして手には杖が握られていた。


「魔法使い、さん?」


「本当にいるのかよ……」


 私はとっさに出てきた単語を口にし、一真は存在しないはずの人物が実在していたのに驚いていた。

魔法使いさんは首をかしげるが、すぐに私達の反応の理由がわかったのかくすくすと笑った。


「わたしは魔法使い、というよりは魔女って呼んでくれた方が嬉しいわね。そして坊やの言うとおり実在するわよ」


 魔法使いさん改め魔女さんはそう言うが、私はいまだに信じられずにいた。一真も同じだったのかとっさに、


「しょ、証拠を見せてみろ」


「あら、私がさっきそこの試験管を手を使わずに拾ったのを見てなかったのかしら?」


「み、見てない! 俺はあの台の反対側にいたから見えなかった!」


 一真が強気に言ったところで魔女さんは大仰に肩をすくめる。


「そう、そこまで言うのなら仕方ないわね。いいわよ、わたしの魔法を見せてあげる」


 魔女さんは手に持っている杖を振ると、床に描かれている幾何学模様が光り始めた。一真がその光景に目を見開くと、魔女さんは丁寧に説明してくれた。


「これは魔法陣っていうのよ。これを使うことでわたしは様々な奇跡を起こすことが出来るのよ。試しにここに動物でも召喚してみましょうか」


 魔女さんがそう言うと魔法陣と呼ばれた幾何学模様は一段とその輝きを増した。これ以上見てられないほどの眩しさになった瞬間、光が収束し魔法陣の中心には一匹の犬がいた。


「「うそ……」」


 驚きと興味が混ざった声を口にすると、魔女さんは嬉しそうにほほ笑む。


「どうかしら? マジックでもなくこの犬は今この森から呼び出したのよ」


その声ではっとした私と一真はお互いの顔を見て頷く。


「……マジックでもないし本物なのかどうか確かめてみるか」


 一真は恐る恐る召喚された犬に近づき手を伸ばす。犬は突然なことに驚いているのかきょろきょろと顔を動かしていた。しかし、一真の手に気づいた途端警戒するように「ウ~」と低い声を発する。それに驚き手をひっこめると、魔女さんが犬に近づいていく。

 犬は警戒するように声を出す。それに対して魔女さんは恐れずにゆっくりと近づき優しく犬に触れた。すると先程まで警戒心をむき出しにしていたのがウソみたいにおとなしくなった。


「いきなりこんな所に呼び出したりしてごめんなさいね。さあお帰り」


 落ち着いて言うと杖を軽く振る。それと同時に魔法陣が輝き、犬も同様に輝くかと思いきやその姿は一瞬にして消えた。それから私達に向き直る。


「これでわたしが魔女だと信じてくれるかしら?」


 ここまでの超常現象を見せつけられて信じないわけがなかった。無言で頷くと魔女さんはほっとしたように息をついた。


「信じてもらえて良かったわ。もし信じてくれなかったらどうしようかと思ったもの」


 そう言うと再度杖を振り、足元の魔法陣を光らせながら今度は虚空から椅子が三つ現れた。座るよう指さして自分も座る。私達もそれにならい椅子に座る。


「さて、さっそくだけどあなた達はどうしてここに来たのかしら?」


 私と一真は交互にたどたどしくここに来るまでの経緯を話した。それを聞いた魔女さんはふむ、と数分顎に手をやり考え事をして、一つの答を出した。


「わたしのこの家は誰も近づけないように周囲に人を寄せつけない魔法を使ってるのよ。でも、魔法を使うのに適性を持っている人たちはその限りじゃないのよね。あなた達が見た一本道もわたしが確かに作ったものよ」


 そこまで話して魔女さんは話すのをやめたが、私達は当然それを理解するほどの知識はなかった。頭の上にいくつもの『?』を浮かべた。それを見た魔女さんは慌てて手を振り話を続ける。


「ごめんなさいね、あなた達にはまだ早かったわね。少しずつ教えてあげるわ」


「少しずつ?」


 一真は魔女が発した単語に首をかしげる。


「ええ、今は夏休みなのでしょう。なら明日から私の家に来なさい。そしたら魔法というものを教えてあげるわ」


 魔女さんは「どう?」と聞いてくる。一真は慎重に考えているのかどう返事しようか悩んでいたが、私はそうではなかった。


「私行きます! ずっと前から魔法があったらいいなと思っていて、勉強して使えるようになりたいです!」


 一真は目が飛び出るのはないかというほど目を見開き、魔女さんは嬉しそうに笑った。


「そう、そこまで言ってくれるならわたしも嬉しいわ。あなたのお名前は?」


「私の名前は蒼生まつりです!」


「これからよろしくね、まつりちゃん」


 魔女さんが私に手を差し出して、私はその手を取り握手した。

 それが魔女さんの弟子として私が魔法の勉強を始めるきっかけだった。



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