090 神に仕えるもの
2019. 2. 2
神官らしき男性が奥から持ってきたのは、一振りの刀。鍔の部分には美しい青の組紐が付いており、その先には黒曜石のような拳より一回り小さな石があった。
男からそれを受け取った女性、レヴィアは宗徳へと差し出す。
「これは、宗主様がいつか再び異世界から訪れる者があればその者を見極め、渡して欲しいと仰られていたものです」
レヴィアがこれを宗徳に渡しても良いと思えたということ。
「剣とは違う形なのですが、これが何か分かる者にと……」
「何って、刀だよな?」
思わず受け取りながら答えた宗徳。すると、刀がトクンと波打ち、黒い石の中に光が宿ったように見えた。
「ん?」
「あなたを主と認めたようです」
「マジか……」
そういうことがあるよと先に言って欲しい。レヴィアの方は満足そうだ。危ないものではなさそうなのでよしとしよう。
「まあ仕方ねぇな。受け取って良いんだよな?」
主人と認めたれたということはそういうことなのだろうと一応は確認する。
「はい。お持ちください。それと、それを持って東の大陸へ向かっていただきたいのです」
「そりゃあ、俺らはその大陸の……ケーリア国ってえのに向かってるんだが?」
元々、その国へ調査に向かうのが宗徳と廉哉の仕事だ。
「そちらで良いかと。あの地には、神がおられます。その石が彼の神の居場所を教えてくれるでしょう」
「会えってことか?」
「それが宗主様と神との約束です」
意味は分からないが、きっぱりとそう告げるということは、説明を求めても無駄なのだろう。それ以上の意味はないということだ。
ここで、ずっと黙っていた廉哉がレヴィアへ尋ねる。
「あのっ。あの地の神は……どういう神なのですか?」
廉哉はかつて、邪神だと言われるそれを討つように説明された。確かに相対した邪神の姿は醜く、多くの犠牲者を出した。だが、どうしても廉哉には納得できないことがあったのだ。
「廉哉?」
「……邪神だと言われたあれは……泣いていました……僕には苦しそうに見えたんです……だから、あれはもしかして、邪神になってしまったものなのではないかと……」
善治から、廉哉が封印したのは邪神ではなく、元々あの地に眠っていた神だったと聞いていた。
だが、廉哉にそれを伝えることはなかった。彼が苦しむだろうと思ったからだ。
「邪神など存在しません。あの地におられるのは、人々を愛し、争いを好まない穏やかな女神であるはずなのです」
「っ……じゃあ、僕が封印したのは……」
廉哉は、薄々気付いていたのだろう。そもそも、召喚した国へはずっと不信感を抱いていた。
言われたままに行動していたとはいえ、きっと封印された神は恨んでいるだろうとも思っていたのだ。
そんな地へ自分が再び向かうこと。それが許されるのかどうか。一緒に向かう宗徳に迷惑をかけることにならないかと心配になっていた。
だが、答えはレヴィアがくれた。
「あなたの封印術だったのですね……心配しなくても大丈夫です。神は今は穏やかな眠りの中にあります。全てはあなたの封印術のお陰です」
「僕の……?」
廉哉はどうしてと不思議そうだ。レヴィアは優しく微笑み、説明する。
「封印術は術者の想いを反映します……優しく、労わるように取り巻く術に、神も落ち着きを取り戻したのでしょう」
「なあ、聞いてるとその神とやらの状況がよくわかってるらしいが、あれか? 巫女かなんかなのか?」
胸のところで手を合わせるレヴィア。その表情は何かを感じとっているように見えた。
「仕えていたのは間違いありません。ですから、いつでも感じられるのです。昔のように声は聞こえなくとも、想いは変わらず伝わってきます」
元々、この深海にある地は、あの地と陸続きになっていた場所だった。神との交流も行われていたのだ。
「かつてこの地が沈む時にあの方は仰っていました。あの地に住む人々は弱いのだと……異質な我々を遠ざけたいと実力行使に出るほどに……」
意思を持つ魔物達。けれど、あの地に生きる人々は彼らを恐れ、追い立て迫害した。それは彼らが自身の身を守るための行動だ。
異物を遠ざけようとするのはおかしなことではない。それを受け入れられる余裕を持てなければ、どうしようもないのだから。
「あの方はそんな彼らを愛おしく思っておられました。滅んでしまわぬよう、あの方は人々を守るために、あちらに残ることを決意されたのです」
あの地で眠りについたのは、弱い人々を見守るためだったのだ。
「ですが、人々は同族間で争いを繰り返すようになりました。なぜなのかと悩み続けたあの方は、ゆっくりと病んでいったのです……」
争う意味が分からず、思い悩んだ末に邪神の姿となってしまったのだ。
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次回、9日の予定です。
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