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009 可愛い子ども

2017. 4. 22

「タカ、キュア、一緒に来るか?」


ここで立ち話もなんだと思ったのだろう。善治も、宗徳や寿子が立ち続けることが負担になる事を知っている。だから、少年も伴い、西側へ向かう。


そこには、ホテルの廊下のように、両側にドアのある通路が幾つもあった。


「個室の方が休めるだろう。仮眠も取れるキッチン付きだ。ただし、占有できるのは二十五時間まで」

「一日じゃねぇのかよ……」


微妙な優しさなのだろうか。少年が説明してくれる。


「何十年か前までは、二十四時間だったって聞いた。でも、二十四時間きっちり使うと、後片付けしてる時間がないって怒った奴がいたんだってさ。それで一時間は余裕を持たせてるんだ」

「それは……」


理由を聞いて、余計に微妙な感じだ。


善治が左手にある小さなカウンターへ近付いていく。すると、そこにいた強面の男性が、鍵を差し出した。


それを受け取り、善治が通路に向かっていった。少年が善次に着いて歩き出したので、宗徳と寿子もそれを追いかける。


ふと左手側に目をやると、関わり合いになりたくないと感じる強面の男性が手を振っていた。


見た目で判断してはいけないのだったと反省した二人は、無理やり笑みを浮かべて、会釈しながらその前を通過したのだった。


◆◆◆◆◆


個室の中は、ホテルの一室に間違いなかった。バス、トイレ付きな上に、小さなキッチンと別室にベッドも付いている。


「この部屋にあるものは、好きに使って構わない。持ち込みもいい」

「た、退出の時は?」

「何もする必要はない。クリーニングが入るからな。鍵をかけてさっきのカウンターに返せばいい」


驚いて部屋を見回している間に、善治が飲み物を用意してくれた。


落ち着いた所で、改めて少年を見る。彼の見た目の年齢は十二歳頃だろうか。


その少年の頭に埋まっているのは、インコのような長細く美しい姿ではなく、丸っとした雀が色を持たない可愛らしい姿と言ったらぴったりかもしれない。


小さな嘴。それでも細いわけではない。突かれれば痛いだろう。


少年の頭は、鳥の巣のようにモサモサとしており、色は金だ。色を抜いたような弱った色ではない。最初から金なのではないかと思える眩ゆい色だった。


だが、そんな事を観察している場合ではない。だって、その小鳥が言葉を話しているのだ。それも、小さく高めの声だ。


《自己紹介がまだだったね。はじめまして。僕は翼のキュリアート。キュアって呼んでね》

「『ツバサノキュリアート』って長い名前だな……」


宗徳も寿子も、それが全て名前だと思った。これを訂正したのは、少年だった。


「違うよ。翼。羽の事ね。キュアは俺の羽なんだ。名前はキュリアート。だからキュア」

「んん? ツバサって、羽って、翼か?」


宗徳は両手を横に肘を曲げてくっ付け、鳥が羽ばたくジェスチャーをする。


「そうだよ。翼人種って種族なんだ。ちゃんと飛べるんだぜっ」


子どもらしい輝く笑顔を見せる少年。自分はこんな事が出来るんだぞと自慢するようだ。


あまりの可愛さに、寿子が笑顔で言う。


「飛べるのっ。凄いわっ」

「へへっ」


まんざらでもないようだ。素直に喜んでいる。寿子が本気にしているのかは分からない。


ここでは常識は通用しない。だから『飛べる』と言ったら飛べるのだろう。魔女も箒で飛んでいたのだから。


「あら、そういえばこちらも名乗っていなかったわ。私は寿子。時笠寿子よ。それと夫の……」


そう言って、寿子は宗徳に目を向ける。


「俺は時笠宗徳だ」

「夫婦? 珍しいねっ。俺はミキタカ。ミキは『未来』の『未』に『希望』の希。タカは鳥の『鷹』って書く。鷹なんて画数も多い字にすんなって感じだろ? 意味とかより、ガキが書きやすい字を選んでくれりゃいいのにさっ」


確かに、子どもが自分の名前を書けるようになる事なんて、名前を付ける時には考えない。


もしかしたら、周りの友達と書けるようになるまでに色々あったかもしれない。他の子よりも書けるまでに時間がかかったり、頑張って書いても、よく見たら一本足りないとかありそうだ。


けれど、宗徳や寿子には、親の気持ちも分かるのだ。


「すっげぇ考えて付けたんだと思うぜ? 俺もな『宗』しゅうってのはともかく、ノリの『徳』ってのは苦労した覚えがある。『心』のバランスがなぁ。書道の先生に何度も最後の点の位置を指導された」

「へぇっ。なぁ、意味は? 名前の意味っ」

「意味か……」


キラキラとした瞳で期待するように見つめられ、むかし昔に聞いたそれを思い出す。


「うちの家系では、名前に『ぎょうにんべん』を使うんだ。家訓に『人生とは歩く事。立ち止まり、走り、戻ったとしても、進み続ける者であれ』なんてのがあってな」


小さい頃は、何度も親父や祖父に諭される度に、偉そうな事をとバカにしてきた家訓。それが心の支えになったのはいつ頃だっただろう。


「俺のもらった『徳』はそのままトクだな。道徳のトクだ。正しい道を考えながら行けって意味で付けたらしい。『宗』は神様が関係してる字だからとか何とか……これは曖昧だな。けど、神様にも自信を持って見せられる人生を歩けって意味だったはずだ」


そう言えば、美希鷹は最初キラキラとした笑顔のままだったが、不意にその中に寂しそうな瞳が見えた。


「はぁ……カッコいいな……やっぱ、ちゃんと考えて付けてくれたんかな……」

「どうしたの?」


寿子が心配そうにその顔を覗き込む。すると、美希鷹は元気に答える。


「何でもねぇよっ。あ〜あ、お腹減った。善治さん、俺何か作っていい?」

「ああ。昼も近いからな。頼もう」

「よっしゃっ、二人にも美味しいやつ食べさせてやっからなっ」

「ええっ、鷹く……美希鷹君、料理出来るの?」

「うんっ。任せてよっ。それと、鷹でいい……あっ、でも、鷹……君でもいい……っ」


目を逸らして言う美希鷹の様子に、宗徳でさえちょっとキュンときた。寿子に限っては、トキメキ過ぎて倒れそうだ。


そこで、キュアが恥ずかしがってキッチンの方を向いてしまった美希鷹の頭の上からリクエストした。


《試しに呼んでやってよ》

「あっ、ちょっとキュアっ」


慌てて頭の上に手を伸ばし、抗議する美希鷹。その手をちょんちょんと飛び跳ねながら、キュアは華麗に避ける。


《ほら、言っちゃって〜》


そう言われては仕方がない。


「鷹。俺の事はノリでいいぞ」

「鷹君っ。私はヒサ……ヒサちゃんがいいわっ」

「えっ、寿子!? な、なら俺はノリちゃ、徳さんなっ」

「っ〜……う、うん……っ、の、ノリさんとヒサちゃんなっ、ま、待ってろよ! 和食だよなっ」

「おうっ」

「お願いねっ」


宗徳も寿子も嬉しくなる。


料理を始めた美希鷹を見つめながら、善治が小さな声で苦笑して言った。


「あの子は、大人に甘えるのが下手なんだが……お前達は不思議だな。キュアもいつもなら、それほど喋りかけたりもしない。大体、頭の上で寝ているんだ。それなのに……よっぽどお前達の持つ雰囲気が気に入ったのだろうな」

「そうなのか?」

「まぁ」


今も、キュアは芸を見せるように飛び跳ねて見せたりする。そんなことも、普段はしないらしい。


「タカは……普通の子どもとして生まれた。翼人族は、この世界にも生まれる。翼が共に育たなければ、その能力に目覚める事もなく、普通に老いて死んでいくのだ。その方がこの世界では幸せかもしれない。だが……タカはキュアと出会い、目覚めてしまった。そのせいで、母親に酷い扱いを受けていたのだ……」

「……」


突然、自分の息子が知らないものになる。それは、母親にとっては恐怖だろう。それが分からないわけではない。けれど、美希鷹に罪はないのだ。


「父親はタカが三つの時に病で亡くなっていたし、母親も必死だったんだろう。誰にも相談する事が出来ず、我々が気付いて迎えに行った時には、母親は完全におかしくなっていた」


美希鷹の髪と瞳の色が黒から金と灰色に変わった。それが完全な翼人族への変化。その変化を見てしまった母親には、もう正気を保つ力はなかったのだ。


「先日、その母親が亡くなった」

「っ……」

「……そんなっ」

「ずっと無理に笑うあいつを、どうにかしなくてはと思っていたのだがな」


嬉しそうに、楽しそうに料理をする美希鷹とキュアの様子に、善治は笑みを見せた。それは、孫に友人が出来た事を喜ぶような、そんな眩しいものを見るような、ほっとしたような、そんな慈愛に満ちた笑みだった。




読んでくださりありがとうございます◎



仲良し夫婦はそれだけで正義です。



次回、土曜29日の0時です。

よろしくお願いします◎

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