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072 間違いなく日本です

2018. 8. 25

翌日。

今日が休みだという職員のウッズと徨流に五人の子ども達を任せ、宗徳と寿子は、緊張する廉哉と共に昼ごろライトクエストへと戻る扉をくぐった。


出迎えたのは門を管理するチェルシャーノだ。


宗徳と寿子は両側から廉哉の背を押すようにして来たので、彼が二歩ほど前に出ており、一番にチェルシャーノが話しかける。


この時、宗徳と寿子は本来の七十代の姿に戻っているのだが、廉哉は気づかないようだ。


「やぁやぁ。ようこそだヨ〜。キミが召喚されちゃったユウシャ君ダネ」

「は、はい……廉哉といいます」


チェルシャーノはいつも通りなのだが、廉哉は戸惑っているようだ。確かに、中々いないテンションの持ち主で、癖がある。テンポ感というか、付き合い方を知るには時間がかかるだろう。


「一応鑑定させてネ。入国審査みたいなものだからサ〜」

「……はい……」


チェルシャーノは数秒、真面目な顔で廉哉を見つめ、その後すぐに破顔した。


「もうイイヨ〜。おかえり〜。ノリノリ、彼はそのままキミ達の階層長の所に連れてってネェ」

「了解です。ありがとうございます」

「ウン。それで、今度はいつ行く?」


珍しくそんな事を尋ねるチェルシャーノ。その直前にちらりと門の方を見たのが気になった。こちらが訝しんだことに気付いているだろうに、チェルシャーノはいつも通りの食えない笑顔をみせる。きっと、尋ねても教えてくれないだろうと察せられた。


「明日のこれくらいの時間に。向こうに子ども達を置いてきてるんで」

「んん? 子ども?」


不思議そうに首を傾げるチェルシャーノに答えたのは寿子だ。


「保護したんです。獣人の子ども達なんですけど、みんな小さいのにしっかりしてて可愛いんですよ」


既に親バカっぷりを発揮する寿子。しかし、チェルシャーノは引くことなく、心から嬉しそうに微笑んだ。


「それは素晴しいネ。ケド、それだと心配だろう。上に報告すれば、こっちに連れてきてもイイカラネ」

「えっ、いいんですか!?」

「マジで?」


寿子と宗徳は素で驚く。元々が地球人である廉哉とは違う。確実に異世界人である子ども達を連れてきても問題ないのかと疑問に思う。


すると、チェルシャーノはカラカラと笑った。


「ココにいるのも、異世界人多いんだヨ? 世間を混乱させなければモンダイなし! なんだヨ〜」

「……すごいですね……」

「なんつうか……自由過ぎじゃねぇ?」


話を聞いている廉哉も、先程までの緊張した面持ちが嘘だったかのようにキョトンとしていた。未だにこちらの変化に気付かないほど混乱はしているが。


「まぁ、一度上に相談してみてヨ」

「わかりました。ありがとうございます……」

「ウンウン。じゃぁネ〜」


チェルシャーノはいつもの笑みを浮かべてふわふわと空中へ浮いて行ってしまった。


少々呆然としながらも、落ち着いた宗徳は、ここでようやく自分たちの姿を目に入れたらしい廉哉と向き合った。


「え? あれ? む、宗徳さん!?」

「おう。本当はジジィだって言ってなかったか?」

「ふふ。言ってたとしても、驚きますよ。ごめんなさいね。こんなおばさんで。あなた、早く着替えましょう」

「だな。あんま違和感なくなったが、やっぱこっちに帰ってくると気恥ずかしいぜ」


ギルド職員として働いているので、戦闘ありきの革鎧なんて格好でもない。それでも、こちらの服とはやはり素材が違い、年齢を選ばないような服装をと選んではみたが、どうしても違和感がある。


「そんじゃ、着替えてくっか」

「レン君も着替えましょうね」

「はい……」


持っていた剣や防具は向こうに置いて来たとはいえ、やはり現代の日本には合わない格好だ。


こんな事も、このライトクエストでは想定の範囲内のものでしかない。更衣室の手前には売店がある。そこには、異世界で使える剣や防具はもちろん、こちらの服も下着から全て揃っている。ドレスや宝飾品、怪しげな薬や食べ物も扱っていた。


そんな、もはや『売店? まあ、確かに売店なのか?』と言いたくなる不思議な店に寄り、服を購入して着替えると、揃ってエレベーターに乗り込む。


「ここのエレベーターに乗ったら、なるべく奥にいろよ。それと、今から行く二十二階と最上階の五十五階、入り口のある一階しか当分は下りるなよ」

「……何かあるんですか?」


普通のエレベーターに乗った時には聞かない宗徳の注意に、廉哉は首を傾げる。


これに宗徳は階のボタンを指差す。その内の二つには工事中を表すかのような黒と黄色の縞模様が描かれた囲いがある。


「十階と二十階はこうやって分かりやすく注意があるから良いが、確か十八だったか? 降りたら迷うらしい」

「二十五階もでしたね。空間拡張が特別広く設定されていて、迷路みたいになっているんですって。後、その十と二十は、魔女様達の階だから、降りたら轢かれてしまうわ」

「……っ、轢かれる……?」


そんな事を話していれば、まさに今、十階で停まった。


扉が開く。入って来たのはおなじみの小さな魔女。トレードマークの灰色のスカーフが、直前で首に巻かれたのを見た。


「イズ様」

「イズ様、お疲れ様です」

「ムネノリとヒサコか……お前達の息子か?」

「あら、そう思っていただけました? ついこの間、息子にしたレン君です」

「れ、廉哉です」


小さな子どもにしか見えないが、廉哉は彼女からとてつもない力を感じ、勢いよく頭を下げて挨拶した。逆らってはいけないと思えたのだ。


「うむ。良い目をしている。二人の傍ならば、失くしたものも取り戻せるだろう。人生、楽しむといい」


そんな意味深な事を口にして、イザリは十八階で降りていった。


「あの……あの人は……」

「イザリ様よ。魔女で、私達よりもうんと歳上だから、お行儀良くね」

「はい……それと……十階や十八階に降りてはいけない理由がちゃんと分かりました……」

「そうか。そりゃぁ良かった。気を付けような」


廉哉には見えてしまったのだ。高速でイザリの上を通過した箒に乗った人達の姿を。


見てしまったのだ。広大で、建物の中のはずなのに太陽や草原が見えたその階を。


「あの……ここ、本当に日本なのでしょうか……」

「そうだぞ?」

「そうだけど?」

「……そうですか……」


宗徳と寿子は、まだ半月も経っていないが、このライトクエストにしっかりと染まっていた。




読んでくださりありがとうございます◎



特殊な場所ですからね。



次回、土曜1日0時です。

よろしくお願いします◎

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