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069 未来は明るいはずです

2018. 8. 4

宗徳は、警戒して遠巻きにする騎士や兵達の視線を感じながらも、徨流と一時間遅い十時のおやつの時間を楽しんでいた。


こんなこともあろうかと、コンテナの上は、柔らかい人口芝生が敷き詰められており、その上に小さいピクニックシートを敷いている。


魔獣が居る世界ということで、高い所で安全を確保できるようにと考えたのが始まりだ。


もちろん、色々と試した結果、コンテナの中の方が更に安全な仕様になったのだが、今回こうして役に立っているので正解であったと思う。


コンテナの中に入って宗徳の姿が見えないよりも、遮蔽物もなく見えた方が安心できるだろうという気遣いだ。


「はぁ……やっぱ、一仕事した後の甘味は最高だな」

《くくきゅふく?》

「あ? おう。三時じゃないな。これは十時のおやつだ。朝日が昇ったら動き出すから、昼間の十時に一服入れんだよ」

《くふ〜》


宗徳がまだ子どもの頃は大きな田んぼを持っていた。そこで、それこそ明るくなってすぐ、暑くなる前に動き出すのが当たり前で、十時頃に田んぼの端に家族で並んで座り、外で休憩をした。子どもの頃はそれが嬉しくて仕事を手伝っていたものだ。


「あっちでは田んぼももうねぇからな……こっちでまたやるのもいいな」


若い頃は、会社に働きに出ていたし、米作りをやろうと思っても時間がなかったが、年をとって今はなんでか無性に農業がやりたくなる。


ただし、時間はあるけれど、衰えた体では農業はキツい。体力が続かないのだ。とはいえ嬉しいことにこちらでは若々しい二十代の姿になれる。問題が解決して、やる気も充分だ。


「一から教えてもらって、品種改良とかまでやってみるか」

《きゅふふっ》

「一緒にやんのか? はは。楽しいかもな。子どもらにも経験させてやりたいしな」


こちらの子ども達は、そういった事と無縁ではないが、何かを作るという作業は、経験しておいて損にはならない。


そんなこれからの楽しい計画に思いを馳せていた宗徳だったが、ふと時計に目を向けた。


「お、あと十五分か。ん?」


時間を確認していると、善治からメッセージが届いた。


《くきゅ?》

「あ、気にすんな。ちょい待っててくれ」


ライトクエストが支給している腕輪。それは、通常着用している者達にしか見えないという不思議なものだ。


宗徳は最近慣れてきた腕輪へ魔力干渉を行う。すると、腕輪から吹き出し型の液晶パネルが現れ、送られてきた言葉と共に、頭にも直接声が聞こえてくる。


『ケーリア国の勇者についての情報を聞いてきてくれ』


素っ気ない指示だ。この場合の聞く相手は、恐らく王だろう。


「勇者か……レンのことだな……」


そう呟いて、宗徳は城の方へ目を向けた。


◆◆◆◆◆


王は宗徳と別れ、まっすぐに執務室へ向かった。


無駄に広い執務室に入ってすぐに、付いている近衛騎士達を下がらせる。


「お前たちも下がってくれ。それと、あの者に一切の手出しはならん。徹底してくれ」

「承知しました」


一人になった王は、硬い椅子に腰掛け、手紙を開く。そこには、懐かしい文字が並んでいた。


「手紙とは……何年振りか……」


時間がないということは分かっている。この執務室の部屋の窓からも、それは見ることができた。かなりの距離があり、窓は透明度の低いものだが、黒い長針は確認することができる。


それを気にしながらも、感慨深く思った。


「シャラ……」


それは愛する王妃の名前。思えば、病が酷くなってから、同じ病になることがないようにと、ここ数年は近付くこともできなくなっていた。


王子王女は時折部屋の窓から顔を確認していたようだが、それさえもできなかったのだ。


手紙をやり取りしたのは、シャラと結婚する前だ。王族にしては珍しい恋愛結婚なのである。とはいえ、シャラに一目惚れしたことで、押し通した結婚でもあった。


シャラが本気で愛してくれていたかと聞かれれば、それはないかもしれないと思えるくらいの態度ではあったが、嫌われてはいなかったと思う。


けれど、結婚して王位を継いだ時から、次第に距離ができていたのは自覚があった。こんな手紙も受け取ることがなかったのだ。


昔と変わらない美しい手。その文字を一気に読み、ほっと息をついた。


「……病が治った……そうか……そうかっ」


出かけていった王妃をずっと心配していた。昨晩から眠れていない。もちろん、あの村の代表と話し合いをしていたからということもあるが、突然城に侵入してきた彼が帰ってからも休む気が起きなかった。


なぜなら、シャラと王子、王女を人質に取られたと思っていたからだ。


この手紙を読んで、欲をかいた自分の愚かしさを恥じる思いだった。非礼を働いたというのに、彼の部下はシャラ達を丁重に扱い、更には、薬師や治療師達がサジを投げたシャラの病を治してくれたというのだ。


もっと早く誠実に彼らと向き合うことで、シャラを楽にしてやれたかもしれない。彼女に少しは良い夫として見てもらえたかもしれない。そう思うと、自分自身に腹が立つ。


「本当に私は愚かだ……これは、愛想を尽かされても仕方がない……」


文面から感じたのは、病を治してくれたらしい彼にシャラが好意を寄せているということ。


「気持ちの良い青年だったからな……」


今回、使いとして来てくれた彼は、ほんの少しではあるが、言葉を交わしただけで好感の持てる者だった。


今も兵達の警戒を知った上で、姿を隠すことなくありのままを見せて待ってくれている。


「敵わないのならせめて……」


これ以上かっこ悪い男にはなりたくない。不甲斐ない夫であり、愚かな王である自分が今できることは、一分でも早く返事を書くこと。


「さて、何と書いたものか……」


呟きながらも一番に書いたのは、謝罪の文だった。


読んでくださりありがとうございます◎



深く反省されているようです。



次回、土曜11日0時です。

よろしくお願いします◎

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