066 敵に回したくはない
2018. 6. 30
宗徳は、善治がキレた原因の一つでもある礼儀のなっていない騎士を捕らえてある地下牢へ向かおうとしていたのだが、途中で考えを変えた。
「善じぃは、ああ言ったが……アイツらに妃や子ども達を送らせるってのもなぁ……」
ここから王都へは馬車でも何日もかかる距離があるのだ。宗徳には王子、王女のような子どもには酷な道のりだと思えた。
「妃の体調もあるしな。やっぱダメだ」
ここへは療養も兼ねて招待したのだ。せっかくリフレッシュしても、帰り道で体調を悪くされては意味がない。
現代の日本では車や電車、飛行機などの移動手段があるので、国内を移動するのにそれほど苦ではない。
宗徳はそれらに乗らずに長距離を移動していた時代も知っているからわかる。早く移動できる手段を知ってしまうと、もう前には戻りたくなくなるのだ。
徨流に乗って、いとも容易く時間をかけずに移動したことを体験してしまっている彼らには、数日の旅というのは辛いものになるだろう。
「先ずは妃達に現状を知らせてから、あの兵隊を徨流で届けるか」
夫や父が無事であるということは伝えてやるべきだ。
「そうと決まれば……善じぃはまだレンヤと話てるだろうから、事後報告でいいな」
宗徳は王妃達の泊まっている部屋へ向かった。
◆◆◆◆◆
善治が帰って来た頃。まだ王妃達にしては朝の早い時間だが、彼らは起きて朝食を食べていた。
「美味しいわね……野菜も新鮮だわ」
「お母様、私もこのお野菜なら食べられます」
「……本当に美味しい……後でレシピを教えてもらえないか聞きましょう」
早く起きた理由の一つは、この食事にあった。
前日に食べた軽い夜食が美味しくて、朝食を楽しみにしていたのだ。
因みに、ここは城ではないからと侍女や護衛の者達も別の机について朝食を食べている。その彼らも目を丸くしながら、程よく計算された量の朝食を味わっていた。
「ここは本当に素敵ね。昨晩から咳も出ないし、あのお風呂? のお陰で体もポカポカしているわ」
「お肌もツルツルですっ」
「確かに、指先や足の先が冷たくて眠れないこともありませんでした」
実は冷え症で低血圧な王子も、初めての場所だというのに寝つきが良く、朝も気分良く起きられたと変化を実感していた。
「ベッドも気持ちよかったわね」
「はいっ。フワフワでしたっ」
「城にも用意できないか聞いてみましょう」
王子は色々と城へ持って帰れないかと考えていた。宗徳は話が通じそうだったなと交渉する計画も立てていた。
そこへ、宗徳がやってくる。
「お、悪りぃ。食事中だったか」
「いえ、構いません。何かありましたか?」
王妃は、すっかり宗徳に心を許しており、社交用ではない心からの笑みを見せて対応していた。
「ああ。先ず、王の方は無事みたいだ。さっき善じぃが帰ってきた。それで、ここに捕まえてある兵隊……騎士がいるんだが……先に帰しちまってもいいか? 善じぃは、そいつらを護衛にしてあんたらを帰せばいいと言ったんだが、移動すると日にちもかかる。その間の食料とか荷物が多くなっちまうだろ? だから、帰りも来た時と同じ方法で送るつもりだが、どっちにする?」
それを聞いて、王妃達は顔を見合わせた。そして、かつてないほどの意思疎通を実現させると、頷き合っていた。
「先に帰してください。私達は……あと数日、お世話になりたいと思っております……それと、送っていただけると有難いです」
「おう。送るのは問題ない。そんじゃ、先に兵を届けてくる。ついでに奴らに王へ手紙でも持たせてやったらどうだ? あっちも心配してるかもしれんから」
王妃も王子達にも、王がそれほど心配するとは思えないが、宗徳達を敵に回すなと警告すべきではあると考えた。
「そうですね。いつ頃出発されますか?」
「昼だな。紙と書くものは……これでいいか。ここに置いとく。昼にもう一度来るから、そん時にくれ」
「わかりました」
必要になる紙とペンを置いていくと、宗徳は部屋を出て行った。それを見送った王子が呟く。
「あの方は、やはり強いのでしょうか」
大きな魔獣を使役し、王族である自分たちに媚びたりもしない。それだけの力に自信があるのだろうかと考えていたのだ。
「どうでしょうね……けれど、理不尽に力を振るうような方には見えません。一度は捕らえた騎士を、無傷で解放しようとする方ですし、力には自信があるのかもしれませんね」
「はい……味方……にできるでしょうか」
王子も、宗徳を敵に回そうとは思わない。何より、数歳しか違わないように見えるのに、絶対的な庇護を受けているような、そんな安心感を与えてくれる。いい関係を築きたいと思っていた。
「きっと、こちらが誠意を見せればあちらも返してくれます。一緒に付き合い方を考えていきましょう」
「はい。父上とも……相談できるといいのですが」
「そうね……」
現王は、王族としての誇りを一番に考えている所がある。おそらく、今回のこともそれがいけなかったのだろうと王妃も王子も予想していた。
言ってしまえば、こちらの話をあまり聞かないのだ。自分が正しいと思っているのは明白で、王侯貴族らしい気質の持ち主だった。
今後のこことの関係を心配する王妃と王子だが、朝食を味わい終わったらしい王女が楽観的に告げる。
「大丈夫だと思いますわ。きっと、お父様も反省していらっしゃいますよ。あの時のお顔は、そういうお顔でしたもの」
「……そ、そう……そうだといいわね」
「はい!」
果実を搾ったらしい甘酸っぱく冷たい飲み物を飲みながら、王女は笑顔を振りまいていた。
願望だと思っている王妃と王子だが、王女の予想は当たっていた。実際に後日、彼らは王が下の者の話を良く聞くようになったと知ることになるのだ。
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