051 フラグってやつだな
2018. 2. 10
約束の昼時。集まった八つの村や町の代表と、連れて来るように言っていた若者達が揃った。
宗徳の傍には補佐役としてウッズが控えている。まず彼女に、用意していた用紙を渡す。このギルドでは、真っ白とまではいかないが、白い紙を使っている。可能な限り薄くしてはあるが、地球で使うコピー用紙なんかよりは遥かに厚い。
それでも、この世界の常識としては有り得ない紙だ。先ほど見せていた地図も、一般的にはとても高価で、たいてい、獣の皮が使われている。しかし、当然だがこの地図も紙に描かれたものだった。
地図を知っている者が見たら驚愕するくらいのシロモノなのだ。本来ならば貴重な紙だが、このギルドでは普通にこうして何気なく使われている。
「三十分毎で枠を作ってあります。それぞれ、時間を指定するので、その時間に指定した場所に来てください。それぞれの村や町を確認しに行きます」
「では、順にお呼びしますので、同行する方のお名前を確認させてください」
ウッズが紙に若者達の名前を記入していく。村や町の名前を確認し、それぞれに集合時間をメモした木の札を渡した。
紙が貴重であるということからもわかるように、代用品としては木が使われている。書いて、削って次に使うのだ。
「もしも、指定のお時間に集合場所に来られなかった場合はお呼び出しさせていただきますので、ご了承ください」
「呼び出し?」
ウッズの言葉に、代表者達は首を傾げる。説明は簡単だ。
「この町には町中に声を届ける拡声装置があり、どちらにいらしても聞こえます」
「っ、そんなことが……!?」
宗徳と寿子は、町が大きくなるにつれてその必要性を示唆した。特に、魔獣の被害が出るような危険な世界なのだ。町中に緊急連絡ができるものは必要だろう。
最近、宗徳達の住む役場にも拡声器が取り付けられた。聞こえるのはそう広い範囲ではないが、迷子のお知らせや警報や五時の時報などに使われている。
そんな知識があったからこそ、このギルドから町中へ伝える機能を考えたのだ。当然だが、これらは魔術によるものだ。
「呼び出しは目立ちますからね。忘れないようにお願いします」
「……大声で名前を呼ばれるってのは、子どもじゃないからな……恥ずかしい」
「そうだな……」
正確に想像できたようだ。デパートに行くと思うが、迷子呼び出しは早いもの勝ちだろう。
「では、よろしくお願いします」
それからは怒涛のように時間が過ぎた。
宗徳は、方角が同じ者達を二組みずつ、徨流に乗せて上空からそれぞれの住んでいた場所を確認させた。
どの場所も、魔獣が暴れたのだろう。それなりに家屋が壊れていた。宗徳の鑑定で確認すると、そこかしこに魔獣が入り込んでいるのがわかる。
錯乱状態のものが多く、間違いなくあの黒い霧のせいだろう。動かなくなったものも多いが、正常な状態でないのは明らかだった。
全ての場所の確認が取れたところで、宗徳は寿子の作った浄化薬を受け取った。
用意されていたのは、畑の消毒に昔使っていた噴霧器だった。
「小さく小分けするのもどうかと思いましたから、噴霧器を用意しました。一気にやってしまってくださいな」
「……こんなの持ってきたのか……」
「ええ。倉庫にあったものを使えるかと思いまして。役に立ちましたね」
「まぁ、確かに……」
寿子は女性に多い『捨てられない病』を患っている。いつか役に立つだろうという考えの元、備えに備えるのが当たり前になっているのだ。
大半は最後まで役には立たないことが多いが、今回は違う。これがあるからいつまでも治らないのだ。
宗徳は懐かしい重さを感じながら、タンク一杯に入った浄化薬を背負い、徨流と共に出発する。その時、寿子は一言を忘れなかった。
「さっさと終えて帰ってきてくださいね。子ども達もレン君も待ってますから。あと二時間ないですからね」
「おうっ」
《くふっ》
これだけ念を押されているのだ。一分でも遅れたらタダじゃすまされない。
「徨流、本気で急ぐぞ。夕飯抜きも有り得るからな」
《くふん!》
そうして、なんとか約束の三十分前には浄化も終えたのだが、ここへきて面倒ごとの予感がしていた。
「あれだな……あの念推しは俗に言う『フラグ』というものだったんだな……」
帰ってきた町の門前には、国の軍らしき揃いの鎧を付けた者達が押し寄せていたのである。
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